28話 妹達のガールズバンド
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「兄上、それで相談の件なのですが……」
とある日の昼時、俺はイクスに誘われ中庭のベンチで昼食をとっていた。
イクスに相談があると言われたのだ。
「どうしたんだい?」
「実は、最近私達の中でも武闘派の4人で集まってコンビネーションの訓練を行っているのですが、上手くいかないのです……」
妹達の中の武闘派。魔法以外の手段で戦闘を行う妹達だ。
イクス、ジーコ、サンキ、ウドの四人である。
コンビネーションの訓練については俺も知っている。監視魔法で見ているからな。
側から見ている分には完成度は高い。9つ子なので息もぴったりだ。
「俺が見ている分には問題ないと思うが……もっと極めたいということか?」
「はい。目標としましては、ロッカとチセのコンビネーションが理想です」
あの二人のコンビネーションは妹達の中でもすば抜けてすごい。
影分身なのでは? と思うくらい完璧な動きをするのだが、影分身ではあり得ない、個性を混ぜた戦い方をするので強さが段違いだ。
影分身は単純な足し算だが、ロッカとチセはそれぞれの良さと良さを掛け合わせて何倍にもしているイメージ。
「確かにあの二人のコンビネーションに比べると数段劣るか……よし、久しぶりにみんなで訓練をしよう」
俺は転移で、武闘派のジーコ、サンキ、ウドに加えて、ロッカとチセを呼び出す。
「に、兄様!? 転移で呼び出す前は声を掛けて下さいと言いましたわよね!?」
「あぁ、ごめんごめん、これで手洗ってね」
ジーコはトイレが終わってパンツを上げたところだった。
俺は水魔法を発動させる。
もちろん、狙っていたさ。
「兄様! 修行デスか!」
サンキは修行という言葉にハマっているようだ。
「丁度暇してたから助かったよ」
ウドは最近、太ももの半分くらいが隠れるスパッツを履いている。スカートから顔を覗かせるスパッツって最高だよな。俺が似合うと思ってプレゼントした。
「今日は武闘派の訓練だ。早速で悪いが、ロッカ、チセ、二人とも目を瞑ってくれ」
「「わかりましたわ、お兄様!」」
返事に全くズレが無い。これは期待できるな。
「俺がスタートと言ったら、そのまま10秒数えてくれ。10秒経ったと思ったら手をあげるんだ」
「ふふ、私達を舐めて貰っては困りますわ!」
「そうですわ! この程度、朝飯前ですわ!」
「期待しているぞ。それじゃ、スタート」
俺達は無言のまま二人を見守る。聞こえるのは風のなびく音だけ。
そのまま待つ事10秒。
二人は同時に手を挙げる。
その誤差は0.05秒にも満たない。
目を開けた二人は、当然だと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「さすがだな二人とも。よし、次は4人でやってみようか」
次はイクス、ジーコ、サンキ、ウドの番だ。
「流石にこの程度であれば問題ありません」
「そうですわ! 私達も9つ子ですのよ!」
「やってやるのデス!」
「ま、やってみればわかるかな」
それぞれが意気込みながら目を閉じる。
「やる気があるのはいい事だ。よし、それじゃ行くぞ。スタート」
先程と同じ様に、時を待つ。
初めに手を挙げたのは、サンキだ。
続いてイクス、ウドと続き、最後にジーコ。
それぞれの差はほとんど無いものの、最初に手を挙げたサンキと最後に手を挙げたジーコでは、約0.5秒程度のズレがあった。
「どうでしたか?」
「見てみるといいよ」
俺は撮影魔法で録画しておいた映像を空中に浮かべる。
「大きく差は無いようですが、それでも少しズレていますね」
「本当ですわ、少し自信がありましたのに」
「残念デス……」
「ロッカとチセの凄さを改めて思い知ったね」
4人もこの結果は意外だったみたいだ。
「今やって貰ったとおり、9つ子といえどもそれぞれのリズムの取り方が若干違うんだ。サンキは戦闘スタイルがスピード重視だからリズムも早い。逆にジーコは狙い澄ます分リズムをゆっくり取っている。一番10秒に近かったのは満遍なくこなせるウドだったな」
「リズム……ですか。考えたことがありませんでした」
「細かい事かも知れないが、強者との戦いになればなるほどこういった部分で差がつく。例えば、サンキとジーコでは約0.5の差があったけど、イクスなら戦闘中にこの0.5秒で何ができる?」
「そうですね、条件によっては相手の首を落とすことも十分に可能な時間です」
「そういうことだ。連携ではこの0.5秒のズレが命取りになる。みんなが伸び悩んでいる部分は、これが原因だろう」
「流石お兄様ですわ、こんなに早く欠点を見つけてしまうなんて……それで、私達は何をすればよろしいのでしょうか?」
ジーコが当然の疑問を投げかけてくる。
リズム感を鍛える方法は色々あるな。
日本にあった有名なアニメでは、確かクラシックの曲に合わせてダンスを踊ることで、パートナーとの連携力を高めているものがあったはずだ。
だが、俺はそれよりもやらせてみたいことがあった。
「これから4人にやって貰うのは、"ロックバンド"だ」
「ロック?」
「バンド?」
「岩で出来た帯でしょうか?」
バンド、それは楽曲を演奏する集団。
その中でもロックバンドは、ロックな音楽を奏でる。
俺には憧れがあった。妹だけで構成されたガールズロックバンド。
絶対流行ること間違い無いのに、前世では妹だけで結成されたバンドなんてなかった。
この世界には、残念ながらバンドという概念がない。
ハープや笛、太鼓などの楽器は地球から神様が伝えているみたいだが、ギターやベース、ドラムといったものは存在しなかった。
存在しないなら、生み出せばいい。そう。俺のオリジナル魔法で。
「ロックバンドっていうのはな、ロックな音楽を奏でる集団という意味だ。ロックな音楽については深堀りしないで欲しい。遠い地域の文化で、俺もなんとなくしか理解してないからな」
「音楽ですか……吟遊詩人なるものが楽器を使って歌を歌うというのは知っておりますが、それがリズムの訓練と関係あるのですか?」
「そうだ。やることは吟遊詩人とあまり変わりはない。それぞれが楽器を持って一緒に演奏し、一つの音楽を奏でる。このバンドっていうのは一体感が何よりも重要だ。バラバラの音楽は聞けたものではない。だが、完璧に纏まった音楽には、人を感動させて涙を流させることも出来る力があるんだ」
「なんだか楽しそうデス!」
「いいね! 私も気に入ったよ!」
サンキとウドは気に入ってくれたようだ。
「私も異論はありませんわ。兄様の言うことに間違いなんてありませんもの」
「そうだったな。兄上、よろしくお願いします」
イクスとジーコも承諾してくれた。
そうとなれば早速、
「それじゃ使用する楽器を生み出すよ。オリジナル魔法"楽器生成"」
俺はロックバンドに必要だと思われる王道の楽器を生成する。
それは、マイク、ギター、ベース、ドラムだ。
電気という概念は無いが、拡声魔法などの魔法を応用すればなんとかなるし、最悪オリジナル魔法先生にお願いすれば万事解決。
「なにこれ! かっこいい!」
「私はどれをやるデスか!」
「私はこの立派な剣の様な見た目の楽器がいいです!」
「兄様の魔法は相変わらず規格外ですわ!」
4人の反応もいい。バンドを選んでよかったな。
それにしても構成か……これは訓練でもあったな。
「それじゃ使用して貰う楽器を伝えるよ。まずはサンキ、サンキはドラムといううこの楽器だ」
俺はドラムを指差しながらサンキに伝える。
本来であれば、4人で一番リズム感があるウドがやった方がいい。
だが、これは訓練である。ならばサンキには、周りのリズム感を感じとる力を養って貰うのがベストだ。
「やったデス! 太鼓がいっぱいあってすごいデス!」
「次はイクス、イクスはベースという楽器だ」
ベースはドラムと合わせてバンドのリズム隊と呼ばれることがある。
サンキのフォローをしつつ、自分のリズムを崩さないことを目標にして貰う。
サンキに遊撃を任せて、イクスが隙を見逃さず攻撃し、全体のフォローも行う。その訓練にもなるだろう。
決してベースに乗っかる巨乳が見たいわけでは無い。決してだ。
「私はこの剣を使っていいのですか! 大切に致します!」
剣じゃ無いから人を切っちゃダメだよ。あれ、仕込み刀ベースとかちょっとかっこいいかも。
「次はジーコ、ジーコはギターという楽器だ」
飛び道具を使うジーコにはギターがお似合いだろう。
一撃必殺の隙を伺いつつ、ここぞという時に決める。これはギターソロに通ずるところがある。
絶対に似合う自信がある。
「ありがとうございますわ兄様、すぐに極めてみせますわ!」
「最後になったが、ウド。ウドはボーカルだ」
「ボーカル? 楽器は?」
「楽器はその喉だ。バンドは一体感が大事だと言ったが、サンキ、イクス、ジーコが生み出した音楽にメロディを乗せてみんなに届ける重要な役割がボーカルだ。ボーカルの良さでバンドの良さも色も決まるといっても過言では無い」
全てをこなせるウドは、周りに合わせることに関してはピカイチの才能を持っている。だが、そろそろ開花してもいい頃だ。
周りに合わせて貰うことで、自分の真価を発揮する。
ウドにも目覚めて貰おう。自分の唯一無二の才能に。
「わかったよ兄さん! 私、頑張ってみる!」
ウドは嬉しそうに笑った。
初めて自分だけの特別を手に入れるチャンスだと意気込んで。
さぁ、この特訓の結果が楽しみだ。
俺を泣かせてくれることを期待しよう。
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シスハレナインのOP曲と、バンドの課題曲を作成予定です!
公開した際は告知しますのでお楽しみに!(来年になりそう)




