26話 他人の家の妹事情
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
さて、妹達の方も問題なさそうだし、俺も最終段階に入るとしよう。
今いるのは、王城の先端。ここから黒幕の部屋を覗き見ていた。
この部屋には、黒幕、協力者、護衛の魔術師がいる。
魔術師が部屋に防音結界を張っているあたり、人に聞かれたくない話でもしているのだろう。
監視魔法の対策がされてないあたり、たかが知れているが、この魔法は俺のオリジナル魔法なので、そもそも防ぐという考えに至らないか。
まずはこの魔術師に退場して貰おう。俺は魔術師に向けて魔法を発動する。
「アッシュ・バーン」
突如、魔術師は青い炎に包まれ、叫び声を上げた。
「何事だ! 侵入者か!」
「ひっ! も、燃えてるっ!」
二人は怯えているようだ。良いデモンストレーションになったかな?
魔術師がそのまま灰になるまで待ち、俺は顔に認識阻害魔法をかけた上で、王城の先端から部屋の中に転移する。
「どうも、夜分遅くに失礼しますね」
「何者だ貴様!」
「こ、殺される!」
二人は動揺を隠し切れない。
黒幕の方は、大きな声で警備兵を呼んでいるが、もちろん誰も来ない。
「大きな声を出しても無駄ですよ。そこの魔術師同様に防音結界を張ってますので」
「何が目的だ……」
そう言いながら懐を漁る黒幕。
「残念ながらその装置で緊急信号を出しても無駄ですよ。手足であるアジトも既に無力化してますので」
黒幕は、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨みつけている。
「私がこの国の宰相だと知っての狼藉か?」
「宰相ならば、もっとこの国の為に尽くして欲しい限りです。王族殺しなんてやっていないでね」
黒幕の正体は意外性など何もない。この国の宰相。
そして協力者は、王族の典医。医者だ。
第二王子を担当していた主治医で、宰相の指示でこいつが第二王子に毒を盛って殺したのだ。
もちろん使用された毒と、その資料は既に入手済み。
証拠隠滅すればよかったのに、まだ誰かを殺そうとしているのか大事に保管してあった。
「はて、なんのことかな」
「残念ながら証拠も入手しております。まぁ、あなたにはここで死んでいただくのであまり関係ありませんがね」
一度惚けたような顔をする宰相だったが、俺の言葉でまた表情に怒りの色が浮かび上がった。
「さ、さ、宰相殿……私はこんなことになるなんて聞いていませんぞ!!」
「黙れ、このような窮地など今までも超えてきたのだ。私をそこら辺の文官と一緒にして貰っては困るぞ?」
宰相は上等なロープを脱ぎ、シャツの袖を捲る。
武闘家か。でもなぁこいつぶっちゃけ。
モブキャラなんよね。
「私の攻撃、受けてみゴホォォォォ!?」
俺は宰相が攻撃を仕掛ける前に先手を打った。
一瞬で目の前に転移し、左手で後ろに飛ばないように抑えながら右手で腹をパンチ。
宰相は腹を押さえて膝から崩れ落ちる。口からは涎が出ていて汚い。
「さ、宰相殿!!」
「あんたは証人になって貰うから眠ってて」
俺は医者の男に睡眠魔法を掛ける。男は抵抗することもなく後ろに倒れた。
「さて、本来であれば一瞬で消してミッションコンプリートなんだけど、あんたに恨みを持ってる人がいる。そのまま痛みもなく死ねなくて残念だったな」
俺は苦しそうにしている宰相へ向けて言葉を掛けつつ、転移魔法である人を呼び出す。
もちろんアーシェだ。
「宰相、私の兄様を暗殺するようにあなたが命じたと聞きましたが、本当ですか?」
「王女殿下、それは何かの間違いです! その男に騙されているのです! このままではこの国は!」
アーシェは、持っていた剣を抜き宰相の手へと突き刺す。
「いがぁぁぁぁぁぁ!! なにをするこの小娘がぁぁぁぁぁ!!」
「この剣は、兄様が生前大切にしていた剣です。私が兄様の誕生日に送った物です。決して剣として優れた物ではありませんが、兄様は私から貰った物だからと、いつも大事に手入れをしていました」
アーシェを助けたお礼を貰った日、俺は全てをアーシェに告げた。
兄が暗殺されたこと。黒幕が宰相であること。アーシェも命を狙われていたが俺に運良く助けられたこと。それにより俺も目を付けられた可能性が高いため、妹達に危害が及ぶ前に黒幕を殺すことにしたこと。今日暗殺を遂行するということ。
そして、第二王子を殺した奴に復讐したいか? ということを。
前世では、復讐は新たな復讐を産むといい、復讐することは愚かな事だという考えもあるが、俺はそうは思わない。
異世界に来て考えが染まっている可能性もあるが、俺だって妹達に何かあれば、原因を作った奴がたとえ神だろうと許す気はないからな。
「そんな優しい兄様を奪ったあなたを……私は許すことが出来ません」
アーシェは刺した剣を抜き、宰相の心臓に剣を突き立てる。
宰相はどうにか起き上がろうとするが、俺が重力魔法で動かないようにフォローしておいた。
これで終わりだな。
「待て、アシュレイ」
部屋のドアが開かれ、白髪のイケメンが立っていた。
あの人は見たことがある。第一王子のアーノルド王子だ。
「アーノルドお兄様……待ちません。この男はアレイ兄様を死に追いやった張本人なのです!」
アーノルドはこちらに歩いてきながら、アーシェに語りかける。
「そうではない。その役目、私に任せてはくれまいか」
「どういう……ことでしょう?」
アーノルドはアーシェの手から剣を取り上げる。
「アレイの恨みを晴らしたいのは、お前だけでは無いということだ」
アーノルドはそのまま剣を振り下ろし、宰相の首を落とした。
アーシェの話では、第一王子は王座にしか興味がないと言っていたがな。
何かあるのかもしれない。王族故の何かが。
「お主が今回の功労者か」
アーノルドは俺に問いかけている。
認識阻害魔法を掛けているから正体はバレていないと思うが……
「いえ、私はただ、私の身の回りに被害が及ぶ前に敵を排除しただけです。恨みを晴らそうなどといった感情はありませんよ」
「そうか。いい腕を持っているようだな。私の元で働く気はないか?」
おっと、ここでとんでもないスカウトが来た。
次期国王からのスカウトだ。めんどくさい将来しか見えてこない。
「すみませんが、お断りさせていただきます。私は私の手の届く範囲を守るので精一杯の若輩者ですので」
「ふっ。さらに気に入ったぞ。今は顔が見えないからと安心しておるな? 私は欲深い。お主を必ず見つけ出して、私の元に来て貰うとしよう」
うわっ厄介なのに目を付けられた。
こうなるなら、やはり一人で全て片付けるべきだった。
「——私は先に失礼致します。もうここに用はありませんので。これは第二王子暗殺に関する資料です。そちらで寝ている男を尋問すれば詳細を話してくれるでしょう。それでは失礼」
とりあえずこれ以上の面倒は御免なので、さっさと転移で帰る。
アーシェ、帰りは自分の足で帰ってね。第一王子と二人きりで気まずいだろうけど頑張れ。
どろんっ。
早く妹達に会いたい。
———————————————————————
部屋から出て廊下を歩く二人の間には、肉親とは思えない距離感があった。
「お兄様が、アレイ兄様の仇を討とうとしていたとは意外でした」
「——アレイに小さい頃言われたのだ。この国を頼むと。その代わり、それ以外の事は自分に任せろと。」
次期国王になるために全てを捧げているのは、幼少の頃に兄弟で交わした誓いを守るためだった。
「だがアレイはもういない。あやつに任せっきりだったことも、私が背負わなくてはいけなくなった。アシュレイ、お前のこともだ」
「お兄様……」
「あやつが残したものを、少しづつではあるが私が背負っていくつもりだ」
アーノルドは、悲しげだが、どこか清々しいといった表情をしていた。
「そうですわね……私も背負わせていただきます。アレイ兄様が守ってきたものを」
残された兄妹は、満月を見上げながら新たな誓いを立てる。
「それはそうとお兄様、抜け駆けは許しませんわ? 彼は私が先に声を掛けたのです」
「ほう? 思い人か。そういえば命を狙われた時に助けて貰った青年が、アレイのようだったとメイドに話していたそうだな」
アーシェは顔を赤くしながらアーノルドを睨みつける。
「そうか、彼奴はお主の命の恩人でもあったか。なぁアシュレイよ」
アーノルドは、妹のそんな様子を気にかける事も無くとんでもない発言をする。
「その男と、婚約したいとは思わないか?」
本人のあずかり知らぬところで、全く望んでない未来の道にレールが敷かれたのであった。




