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24話 妹達と初めての共同作業

最新話はカクヨムの方で掲載しております。

よかったらそちらでもご覧ください。


「ルド、この前は本当にありがとう」


「いえ、当然のことです。王女様」


 王女様との出会いから数日経った頃、学園経由で王城に来いと命令があった。

 なんでも、王女様がこの前のお礼をしてくれるとのことだった。


「学園の生活は楽しい? 生徒会長なんですってね」


「えぇ、有意義な毎日を送らせて頂いております。」


「羨ましいわ。実は私も学園に通いたかったの。お願いしてみたんだけど、護衛が難しいから却下されてしまったわ」


 王女様ともなれば融通は効かないだろう。

 王族というのは、想像通り大変な様だ。


「そのせいでお友達もあまりいませんの。私に寄ってくるのは身分が目当ての者ばかりですわ。男も女も」


 王女様は、少し寂しそうな顔をする。


「それでも、兄様がいてくれたらそれでよかったのです。兄様は、私の憧れでした。でも、それも終わりです。私は……本当に独りになってしまいました」


 いつも優しく、いつも気にかけてくれて、頼りになる兄。

 そんな兄との別れにより、孤独だと言った王女様は一瞬、俯いて表情が見えなくなる。


「すみません、今日はルドにお礼をする日でしたのに。なんだか、あなたは兄様に似ているので話しやすいのです」


 溢れていた一滴の涙を、右手の指で拭いながら笑う王女様。


「それは、光栄です。恐らく私にも大切な妹達がいるからでしょう。第二王子殿下が、どれだけ王女様を大切にしていたかがわかる気がします。同じ兄として」


 兄が褒められたのが嬉しかったのか、今日いちばんの笑顔を見せる王女様。

 やはり女性は笑っている顔が一番美しいな。


「それはそうと、二人の時まで王女様はやめてください。肩が凝ってしまいますわ」


 肩が凝るほど胸はないと思うが。あ、そういうことじゃないか。


「ではなんとお呼びすれば?」


 と俺が聞き返すと、王女様は少し桃色に染まった顔で俺を向きながら言う。


「アーシュと……お呼びください。兄様が私を呼ぶときの呼び方ですわ」


 それは流石に……いきなり過ぎないか?


「まだお会いして2回目です。そこまで親しい間柄ではないと思うのですが……」


「アーシェとお呼びください」


「わかりました……アーシェ様」


「アーシェとお呼びください」


 ぷくりと頬を膨らませながらこちらを見ている王女様。

 なんだこの可愛い生き物。妹達には劣るが。

 あ、この人も妹属性は持ってるのか。納得だ。


「わかりました、アーシェ」


「敬語も不要です」


「……わかったよ、アーシェ」


「よろしいです」


 首を少し傾けながら微笑むアーシェは、とても絵になる。

 ロッカとチセを呼んでこのままスケッチして貰いたいくらいだ。


「そういえばお礼をするのを忘れていましたね!」


 パンと手を叩くアーシェ。すると後方に控えていたメイドの一人が、小さな箱を持ってこちらに向かってくる。


 アーシェはそれを受け取ると、メイドにお礼を言って下がらせた。


「お気に召すかはわかりませんが、こちらをお受け取りください」


 俺は差し出された箱を受け取り開けてみる。

 すると、中には高価そうな小瓶が9本入っていた。


「何がよろしいか考えたのですが、あなたの趣味嗜好を調査した所、"妹の守護神"と呼ばれるほど妹さんを溺愛していると伺いました。そこで妹さんへのプレゼントの方が喜んでくださるかと思いましたので、そちらの化粧品を送らせて頂きます」


 おぉ、確かに俺は欲しい物とかは特に無いから、こういったプレゼントの方がむしろ嬉しい。

 ちゃんと調べているあたりも流石だ。


「ありがとう。妹達も喜ぶよ。もちろん俺もこういった物の方が嬉しい」


「いえ、気に入って頂けたようで何よりです。それよりも、あなたの妹さんがまさか9人もいらっしゃるとは驚きでした。それが9つ子だとは……私も妹が欲しかったです」


 そうなんだ。兄さんっ子だから妹とかはいらないのかと勝手に思ってた。


「これでも私、親しくしてくれる人の面倒見はいいのですよ?」


 それに関しては既に知っている。

 自分のことよりも、真っ先に御者の男性を心配していたからな。


「あぁ、この前助けたときに気付いてたよ。あの御者の人は無事だった?」


「はい。おかげさまでセドルも無事です。改めて本当にありがとうございます」


 アーシェは後ろを見ると、離れた場所にいた執事服の男性が頭を下げる。


「そういえば、アーシェは第一王子様とは仲が良くないのか?」


「そうですね……お兄様とは数回程度しかお話をしたことがありません。彼は国王になることが全てで、それ以外のことには興味がありませんので」


 同じ兄でも違うということか。

 まぁ、第一王子が今回の件の黒幕じゃなくてよかったけどな。次期国王を殺すのは流石に気が引けるし。


「そうなのか。すまない、こんなことを聞くのは気が引けるが、第二王子の死因についてはどこまで?」


「どこまで……と聞かれましても、持病で亡くなったとしか……」


 暗殺の件については聞かされていないようだ。

 極秘で調査していると言っていたしな。


「仮に、暗殺されたと言われたら、アーシェは首謀者を殺したいか?」



 ———————————————————————



 月明かりが王都に降り注ぐ晴夜。

 俺はこの世界で初めて人間を殺しにいく。


 正直、人を殺すという感覚はわからない。

 前世は日本で平凡な人生を送っていたからな。

 出来ることならこんな事はしたく無い。


 だが、俺が命よりも大切に思っている妹達に危害が及ぶとなれば別だ。

 俺は、妹達の安息の為ならば、鬼にでも死神にでもなれる。


 音を立てないように準備を済ませ、自室から転移する。


 向かった先は、王城と王都の南門の間にある時計台の展望広場。

 ある程度の高さがあり、王城と王都の南側を一望出来る場所だ。


 今回やることは3つ。


 黒幕の手足として働く組織を殲滅すること。

 これは王都の南側にアジトを構えているので、乗り込んで潰す。

 他にも関係者が南側に点在しているので、そちらも掃除する必要がある。


 そして王城。

 王城内に潜む黒幕と、その協力者を暗殺する。


 あとは暗殺の証拠を入手して、騎士団長に事後処理をぶん投げればミッションコンプリートだ。


 全てこの夜中の内に終わらせる。

 1秒でも早く、安心して暮らせる状況に戻したからな。


 さて、そろそろ作戦を始めるか。


「待って、お兄ちゃん」


 後ろから声が掛かる。

 はぁ……やはり来てしまうのか。


 後ろを振り替えると、そこには俺が命よりも大切に思っている妹達がいた。

 寝ているのを監視魔法で確認していたんだけどな。同じように転移で来たらしい。


「これから、戦いに行くんだね?」


「あぁ、すまないが止めても無駄だよ? これは必要なことなんだ」


「わかってる。お兄ちゃんが私達のために行動を起こしてるってこと」


 キュウカには常に監視されているからな。知っていて当然だ。


「もちろん止めるつもりはないよ。私達も、協力するから」


 何を言い出すかと思えば……


「遊びじゃないんだ」


「わかっていますわ。人を殺める覚悟も出来ていますもの」


 ジーコが言う。


「それでも危険なんだ。ここは俺に任せてくれ」


「ならば尚更ですわ」


「そうですわ。お兄様を一人で危険の中へは行かせませんわ」


 ロッカとチセが言う。


「俺はお前達に万が一のことがあったら」


「兄上、それは私達も同じことなのです。兄上に何かあれば、私達は自分自身を許せません」


 イクスが言う。


「俺が助けられない状況があるかもしれない」


「大丈夫なのデス! 私達は9つ子なのです!」


「そうだよ兄さん。私達がもう聞かないのはわかってるよね?」


 サンキとウドが言う。


「それでも……」


「にぃ……さま……みんな……いる……大丈夫……!」


「ルド、任せてぇ」


 シロとハーピが言う。


 どうしても引いてはくれないのか……


「お兄ちゃんが私達を守るために動くのと同じで、私達もお兄ちゃんを守るために動くよ。そのためにみんなで強くなったんだから。お兄ちゃんに守られるだけは嫌。私達も、一緒に戦う」


 キュウカが言う。


 みんなの決意は固い。目を見ればわかる。

 なんでこう、妹というのは頑固なのだろう。

 兄に守られていればいいのに。それが特権じゃないか。


 だが、俺の妹達はそれは望んでいないらしい。

 本当に、大きくなったなんだな……

 俺の想像を飛び越えて成長していく妹達を見て、嬉しいような、悲しいような、なんとも言えない気持ちになる。


 今は喜ぼう。妹達が大きくなっているということを。


「どうせここで置いて行っても、勝手にやらかす気だな?」


「ハハッ! わかってるじゃん兄さん!」


 ならば、少し早い授業をしよう。


 大人の醜さ、陰謀、汚い社会。

 今まで俺が妹達から遠ざけていた、でも避けられない現実を。


「わかった。頼りない兄に、手を貸してくれるかい?」


 妹達は、俺の目を真っ直ぐ見つめながら、寸分の狂いもなく揃えて言う。



「「「「「「「「「もちろんです!」」」」」」」」」



 さぁ、今夜は俺と妹達の、初めての共同作業をするか。


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