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22話 他人の妹に手を出す

最新話はカクヨムの方で掲載しております。

よかったらそちらでもご覧ください。

 

 今日は、王都を出て一人で視察に来ていた。

 というのも、今度学園で行われる魔獣討伐訓練の下調べのためだ。


 本来であれば魔術委員が何人かでチームを組んで行うはずだが、委員長のクラウスさんから、「シスハーレ君は、一人で問題ないわよね?」と言われてしまった。


 ここら辺は奥地へ行かない限り凶悪な魔獣も出ないし、仮に出たとしても問題ないからいいのだが。


 ということで現在は飛行魔法で、魔獣討伐訓練を行う予定の森林へと向かっている途中だ。


 森林を少し遠くから見るが、至って普通。

 街道も近くにあるため、普段から騎士団が魔獣の間引きを行なっているし、問題はないはずだ。


 一応地上に降りて、軽く森林の中を見てみようと地上に降り立った時、異変に気付いた。


 森の左側がざわついている。

 何かが森から出てくるところだと予想し、透視魔法と探知魔法で様子を探ろうとした時、森から1台の馬車が出てくるのが見える。


 直感的に分かったが、何かに追われている。

 馬車が出していいスピードでは無い。あれでは中に乗ってる人が危険だ。


 そうせざるを得ない状況ということは、緊急事態の可能性があるということだ。


 続けて目にしたのは、全長が10メートルにも及そうな巨大な熊。

 あれはビッグベア。森の奥地に出現する魔獣だ。

 なぜそんなのが馬車を追いかけているかは不明だが、一刻を争う状況だと認識する。


 森を抜けて障害物がなくなったせいか、ビッグベアがもう少しのところまで迫っていたからだ。


 その時、馬車を引いていた馬が転倒し、御者が空中に投げ出された。

 大事には至っていないみたいだが、頭を打って気絶している。


 ビッグベアは、倒れた馬車の前で立ち止まり、獲物を狩ろうとしていた。


 さて、そろそろビッグベアには退場してもらおう。


 俺は風の魔法を使用して、ビッグベアの首を切り落とす。

 ビッグベアの命は刈り取られ、巨体が大きな音を立てて倒れた。


 よく見ると、ビッグベアには無数の切り傷や矢が見える。

 恐らく交戦の後だろう。爪と口に大量の血がついていることから、戦ったものは死んでいる可能性は高い。


 俺は警戒をしつつ馬車の方へ転移をする。


 この馬車に危険人物が乗っていたり、何かの罠である可能性も捨てきれない。

 こういう状況を作り出して、助けに来た相手を油断させ、命を狙う小癪な盗賊もいると聞く。


 そのため細心の注意を払って、転倒した馬車のドアを開ける。


 すると、そこには一人の女の子が横たわっていた。

 年は俺とさほど変わりはないように見える。

 高貴な服装から、危険人物の線は薄い。怪我をしていることから、罠の可能性も低いだろうが、まだ警戒を緩めることはしない。


「おい、大丈夫か?」


 俺は女の子に声を掛ける。

 すると、ギリギリ意識があったのか、女の子はこちらを向いて


「おにい……さま……」


 という言葉を残して、意識を失った。


 あの……妹は間に合ってます。


 そう思いながらも、一応救助しておく。


 何があっても対処は出来るだろうし、ここで出会ったのも何かの縁だ。

 事情くらいは聞いておかないとな。今度ここで魔獣討伐訓練もあるわけだし。


 とりあえず、女の子を馬車から救出し、平原に寝かせる。

 ついでに御者をしていた男性も横まで運んだ。もちろん魔法で浮かせながら。


 二人が横に並んだところで、回復魔法をかけておく。

 これで怪我は治ってるから、あとは目を覚ますのを待つだけだ。

 強制的に魔法で目を覚まさせてもいいが、結構負担になるのでここでは使用しない。


 とりあえず先に情報を集めておいた方がいいと思い、まずは高貴な服を来た女の子の方を見る。


 胸は……無い方ではないな。イクスよりは小さいが。

 髪は綺麗なロングヘアで、髪色は透き通るような白。

 この髪色、どこかで見たことがあるような……


 他には、ペンダントか。何やら家紋のようなものが付いている。

 家紋があるということは貴族のお嬢様なのだろう。

 この身なりからしてそうだとは思っていたが、こんな所で何をしているのだろうか。


 そしてこの家紋……これにも見覚えがある。

 元日本人だからか、こういう家紋とかには馴染みがない。

 戦国武将の家紋とかも全然覚えられなかった。


 ペンダントの家紋は、剣と杖がクロスしていて、それを囲うようにライオンのような模様が描かれていた。


 こういうときは、しっかり者のキュウカに聞くのが一番だな。


『すまないキュウカ。一つ尋ねたいことがあるのだが』


『お兄ちゃん、その人多分……王女様だよ! その家紋、王家の家紋だよ!』


 そうか、キュウカは監視魔法で見ているんだったな。


『話が早くて助かる。これからどうしよっか?』


『そうだね……助けたのであれば、王都までお送りした方がいいと思うよ?』


『そうだな。ありがとう』


 俺はキュウカとの念話を終了する。


 それにしても、王女様か……それに、"お兄様"。

 確か第二王子が、この前亡くなったという話を聞いた。

 元々病弱だったらしく、長くは生きられないと分かっていたらしい。


 その事と関係があるのだろうか。

 全ては王女様が起きないことにはわからないことだ。


 このまま転移で送り届けてもいいが、要らぬ誤解を招く可能性もある。

 起きてから事情を説明して、送り届けるのが得策だな。


「うぅん……ここは……私は……セドル? セドル!!」


 王女様は気がつくと、隣で寝ている御者の人の心配をしていた。


「大丈夫ですよ。頭を打って気絶しているだけです。それよりも体に異常はありませんか?」


「あなたは……いえ、体に異常はありません。失礼ですが、どなたか伺っても?」


 恐らく状況を瞬時に把握して、助けられたと判断したのだろう。

 頭もいいな。警戒も緩めていないあたりも優秀。流石は王女様だ。


「名乗るほどの者ではありません。ただ、通りすがっただけですから」


「しかし…… すみません、あの熊はあなたが?」


 情報を得るために周りを見渡した王女様は、首が切り落とされたビッグベアの存在に気付いた。


「えぇ、襲われていると判断しましたので、対処致しました」


「助けて頂いてありがとうございます。ちなみに、騎士団の方もいらしたと思うのですが、見かけていませんか?」


「いえ、お二人以外は見かけていません」


「そう……ですか……」


 そう告げると、悲痛な顔をする王女様。

 聞いてきたのは護衛の騎士か何かのことだろう。恐らくこの世にはもういないが。


「失礼、素性を確認するためにペンダントを拝見させて頂きました。その家紋、王家の家紋とお見受けいたしますが、王女様に違いありませんか?」


 とりあえず、回りくどい詮索は嫌いなので、率直に聞いてみる。


「——はい、私はアシュレイ。この国の王女です。その制服……あなたは魔法学園の方ですか?」


 一瞬言うのを躊躇ったみたいだが、助けてもらったという事実がある以上、信用に値すると判断したのだろう。助けなければあのまま死んでいたわけだしな。


 そして魔法学園の生徒だという信頼。魔法学園は伝統と規律を重んじているため、世間的な評価も高い。


「すみません。まずは状況の確認をさせてください。なぜビッグベアに追われていたのですか?」


 あまり素性を詮索されたくはない。正直王女との関わりなど、面倒事の臭いしかしない。俺は妹の匂いだけを嗅いでいたい。


「実は……森の奥に、死者を甦らせられる薬の原料があると聞きまして、それを探しに奥地へ行っておりました」


 死者を蘇らせる、ね。


 そんな薬はない。これでも魔法学園で首席だ。薬学の知識もある。

 死の淵にいる者を助けることは可能だが、死んだものはどうやっても戻ってこない。

 それこそ、同じ世界に転生でもしない限りは。


 誰がそんなデマを吹き込んだのだろう。

 まぁそれを調べるのは俺の役目ではないがな。


「アシュレイ様、失礼ながら申し上げます。私これでも薬学の知識もあるので、そちらの知識を元にお伝えさせて頂きますが、死者を蘇らせる薬など、この世には存在しません」


 そう告げるとアシュレイは、絶望の表情を浮かべた。


「では……お兄様は、もう生き返らないということですか……護衛の方々は、私の我儘で無駄死にをさせてしまったのですか! なんという……なんということを私は……お兄様……お兄様」


 兄を呼びながら泣き崩れる王女様。


 その姿は、流石にチクリと来るものがあった。


 俺が死んでしまったら、妹達も同じように悲しませてしまうのだろうか。

 改めて俺は死ねないなと誓う。


 だが、王子も死にたくて死んだわけではない。

 この様子を見るに、すごく仲の良い兄妹だったのだろう。


 それに、王女様にデマを吹き込んだ奴がいる。

 そいつは恐らく王女様が危険に晒される事を承知で教えたはずだ。


 許されることではないな。

 妹を思う兄として、これは見過ごしておけない。


 人様の妹ではあるが、王子のいない今、妹を守る者がいなくなってしまった。

 これでは王子も安らかに眠れない。


 妹と離れ離れになってしまった王子の手向けとして、ここは少し首を突っ込んでみるか。


「私の名前はルド。妹を思う兄の一人として、この状況を見過ごしてはおけません。よろしければ、私のことを頼って頂けませんか?」


 俺は手を差し出しながらそう告げる。


 他人の妹を助けるために——


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