20話 妹の予知夢
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午前の授業も終わり昼食を食べた後、食堂から教室への道のりを歩いていた時にそれは起きた。
急な浮遊感に襲われたのだ。
これは……転移魔法か?
だが、魔法が発動されている形跡はない。隠密能力の高い術者の仕業か。
俺は警戒を緩めることなく、転移を受け入れる。
俺達に害をなす者であれば、顔くらいは拝んでやりたいからな。
そうして転移したが、転移した先は学園の中庭だった。
周りを見渡す必要もない。
俺を転移させた犯人は、俺の前で寝っ転がっていた。
そう。それは俺達に害をなそうとしている奴でもなんでもない。
天使のような寝顔で寝ているハーピだ。
ハーピなら、俺に勘づかれることなく転移させることは可能だな。と納得し、警戒を解くが、ハーピが涙を流しながら眠っていることに気付く。
何かあったのだろうか?
そもそもなぜ俺が転移して来たのだろうか?
そんな疑問を抱いていると、ハーピが目を覚ました。
「ルドぉ……」
ハーピは、起きると同時に俺に抱きついてくる。
事情はわからないが、こういう時は落ち着くまで撫でる。これが俺の最強魔法だ。決しておっぱいを堪能なんてしてない。
しばらくすると、ハーピは少し落ち着いたのか話し始める。
「ルドがね……死んじゃう夢を見たの……」
恐ろしいことを言い出した妹。
これを普通の人が言い出したなら特に問題はない。
怖い夢見たね、よしよし。で終わる話だ。
だが、ハーピが見たとなれば別だ。
ハーピは"夢を現実に変える力"を持っている。
今この時点で俺が死んでいないので、今回は発動しなかったと安心できるが、こんな夢を何度も見るようであれば、いつ間違いがあってもおかしくない。
とりあえず俺はハーピに詳しい話を聞くことにした。
「どんな夢を見たんだい?」
「えっとね、ルドが大きくてかっこよくて、みんなも大きくて可愛くて……」
ふむふむ。
要約すると、恐らくこれは予知夢だ。
大きくなった俺と妹達の夢を見た。
その夢では、俺は魔王に殺されてしまうらしい。
それが怖くなって、夢の中で俺が側にいることを強く願ったんだとか。
俺が転移して来た理由は最後の部分だろう。
それにしても、未来まで見えるのか?
「そっか。こういう夢は、よく見るのか?」
「ぜんぜん見ないよ。いつもはだいふくさん達と遊んでる夢をみるよ」
だいふくさんとは、俺がハーピのために作ってあげたぬいぐるみだ。
昔、寝るのが好きなハーピにプレゼントをしてあげようと手作りで作った物。
中に高級なわたが敷き詰めてあり、外側に縦の刺繍を2つ、間に点の刺繍を入れて顔をイメージして作った。
前世で大好きだったアニメに出ていた、だんご大家族をパクって作った渾身のぬいぐるみクッションだ。
「そっか、今日はだいふくさん達は遊んでくれなかったんだな」
「うん……ルドは、死なないよね?」
難しい質問だ……
人間はいつか死ぬ。
俺はたまたま神様に出会って転生出来たが、本来であればそれはありえないことだ。
そして早く生まれた俺の方が、妹達よりも先に死ぬ可能性が高い。
それでも、
「あぁ、俺はみんなを置いて死んだりはしないよ」
「そっかぁ……なら安心だね!」
俺は死ぬまで妹達を守り続ける。
それ故に、妹達より先に死ぬことはない。
これは絶対だ。
それにしても魔王か……
物騒なワードが出て来たな。
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「それでハーピが泣いていたと……わかったよ兄さん、しばらく気にかけてみるね」
「そうですね、私達に任せて兄上は安心してください」
俺はその日の放課後、イクスとジーコとウドを呼び出していた。
呼び出した理由は、ハーピの夢の件について共有するためだ。
今日みたいなことが、また起こらないとも限らない。
俺が側にいればいいが、常に一緒にいれるわけではないため、妹達の協力が必要だと考えた。
「あぁ、よろしく頼む。予知夢についても、本当に未来を当てているのかさえわからないからな。今後同じようなことがあれば、どんな夢を見たか聞いておいて欲しい」
「任せなさい! これでも私達、9つ子ですわ!」
あぁ。こういう時は本当に頼りになる妹達だ。
「それにしても……魔王ですか」
「確か魔王の季節はまだ先だと思うけど……兄さんはどう考えてるの?」
この世界には、魔王という存在がいる。
前世では、一般的に魔王という存在は悪の親玉であったり、とんでもなく強い魔物の王みたいな扱いをされていた。
この世界でも似たような物だが、魔王が生まれる季節というものがある。
それは日本にあった四季とかではなく、魔王のいる季節、魔王のいない季節という括りしかない。
季節という言葉は本来、一年の中での気温や気候の移り変わりのことを指すが、地球と違う使われ方をしているあたりがなんとも異世界っぽい。
この季節は、20年ごとに移り変わっていた。
今は魔王のいない季節だ。次に魔王の季節が来るのは……5年後だな。
そこから20年は魔王のいる季節が始まる。
途中で討伐することも可能らしいが、過去それが成されたことは一度もないのだとか。
「5年後であれば、ハーピの言っていた事と合致する点がある。大きくなった俺とみんなとかな。警戒していて損はない」
5年も経てば、俺は20歳、妹達も17歳だ。
ハーピが大きくなったと表現する歳として十分にあり得る。
「そうですわよね……兄様、くれぐれもご注意なさってください。兄様が死んでしまったら私達は……」
そんな顔をするな、ジーコ。
間違っても魔王に関わろうとなんてしないよ。
「大丈夫だ。自分からわざわざ関わったりはしない。仮に関わることになっても、魔王に俺が負けるとでも?」
そう。俺が魔王に負けなければ何も問題はない。
であれば俺は、もう一段階強くなる必要がある。
何が来ても負けないようにしていれば、俺が死ぬ未来も打ち消せるはずだ。
「ふふ、流石兄上ですね。確かに私も兄上が負ける姿なんて想像出来ません」
イクスに言われると、より一層自信になるな。
「何かあればいつでも言ってよ兄さん、力になるから」
ウドは相変わらず心配してくれる。
もちろん、何かあればこうして頼らせて貰うさ。
「それじゃ、俺は図書室に行って魔王の文献でも漁ってみることにする。ハーピのことをよろしく頼む」
俺はそう言い残して、図書室へ転移する。
転移の直前、3人の不安そうな顔が一瞬見えて、心がチクリとした。
心配かけてばかりの兄でごめんな。
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図書室で魔王の文献を漁ったあと、俺はあるものを持って妹達の部屋へと向かう。
それは、大量のだいふくさんだ。
これを見たらハーピもきっと喜んで、落ち込んだ気持ちが少しでも晴れるだろう。
収納魔法で収納して転移して渡してもいいが、それだと味気ない。
こういうのは、自らの手で持っていって直接渡すからいいのだ。
まぁ、大量のだいふくさんは魔法で作ったが。
妹達の部屋には何の問題もなく辿り着けたが、ドアの前で重大なミスに気付く。
両手でだいふくさんを大量に抱えているため、ドアをノックできない。
くそ……確実な計画だと思ったが盲点だった……
仕方ない、念話して開けてもらおう。
『すまないキュウカ、もし自室にいたら部屋の入り口を開けてくれないか?』
『お兄ちゃんがドアから入ってくるなんて珍しいね。わかった、今開けるね』
確かに。最近、転移ばかりしていたからドアの存在を忘れていた。
今後はドアを潜ると転移するタイプに変更しようかな。
と考えているとドアが開けられる。
「お兄様! 一体それはなんですの!?」
俺からはロッカの顔が見えないが、声でわかるぞ。
どうやらドアの近くにいたので開けてくれたみたいだな。
「ロッカすまない、これを部屋に入れたいんだが、通れるかどうか見ていてくれるか?」
「なんで顔も見ていないのに私だとわかるんですの……まぁいいですわ! お兄様! 恐らく入りませんわ!」
なんだと! ドアが小さすぎるのか!
クソ……どこまで俺の計画の邪魔をするんだこのドアは!!
さて、どうしようか。俺はハーピに大量のだいふくさんを抱えたままプレゼントして上げたい。その方がインパクトがあっていいからだ。
ここで通れるようになるまで重ねた分を降ろすなんてことはしたくない。
置き去りにされただいふくさんが可哀想だ。
どうしよう……と考えていたが全て無意味だった。
「あ! だいふくさんだぁ!!」
声でわかる。ハーピがだいふくさんを見てこちらに向かって来たようだ。
そしてそのまま大量のだいふくさんにダイブする。
俺はハーピを受け止めつつ後ろに転び、だいふくさんも落ちないようにした。
「あ、ルドだぁ。いっぱいのだいふくさん、どうしたの?」
「あぁ、今日嫌な夢を見たようだから元気を出して貰いたくてね。プレゼントだ」
ハーピは、俺とだいふくさんを一緒に抱いて嬉しそうに笑う。
俺もハーピのだいふくちゃんと大量のだいふくさんに包まれて幸せな気持ちになった。決してだいふくちゃんが目当てではない。
ハプニングもあったが、どうやら成功だったようだ。
その証拠に、ハーピは既に幸せそうな顔で寝ている。
ハーピ、ここは廊下だからちゃんとベッドで寝ようね。




