19話 妹は瓜二つ
「ロッカさん! 僕、ずっとロッカさんのことが好きでした!」
よし殺そう。
と危ない危ない……
妹達に告白していく奴を一人一人ヤっていったら、とんでも無い事になってしまう。
妹達にもその気があるかもしれないし、こういうことに首を突っ込むのは良く無いな。
妹達が入学した当時に、盛大な失敗をかましたので、俺は反省したのだ。
「私はチセですわ。あなた、そんなこともわからないのでして?」
「あ……その……ごめんなさい……」
そう言い残して立ち去る男子。
まぁそれくらいも見分けられないようでは、告白する以前の問題だな。
「よかったのかロッカ。嘘なんてついて」
「あらお兄様、ご覧になられていたのですか。いいのです。私とチセの違いに気付けない方が悪いのですわ」
12歳になっても似ている妹達。
それでも髪型や口調などに個性があるため、見分けることができる。
ただ、ロッカとチセは極端に似すぎていた。
髪型、口調、仕草の全てがほとんど同じ。
わからない人からすればドッペルゲンガーのように見えるだろう。
「そういえばお兄様は、どうして私とチセの違いがわかるのですか?」
校舎裏から戻る途中、ロッカが俺に訪ねてくる。
どういうことだろう……質問の意味がわからないが。
「すまない、質問の意味がわからないのだが、違いがわかるとは?」
「いえ、少しは自覚がありましてよ? 私とチセはとても似ていて、普通は見分けることが出来ないと思うのですが……」
「他の妹達も、間違えたりするのか?」
「そう言われると、みんなも間違えたりはしませんね」
「なら、そういうことだよ」
違いがわからないなんて愚問だ。
ロッカはロッカで、チセはチセだ。
「そういえばお兄様! 是非見て頂きたい物がありますの!」
そう言うロッカは、俺の手を引いて廊下を歩き出した。
辿り着いた先は、美術室。
美術室のドアを開けると、そこには一枚の絵とチセが立っていた。
「へぇ……これはすごいな。実家の風景画か」
「流石お兄様ですわ! これは最近ロッカと私で完成させた作品ですの!」
チセは褒められたことにより、嬉々として自慢げに話す。
「全体の絵を描いたのはロッカか、色を塗ったのはチセだな。なるほど、それで二人の共同作品というわけか。すごいな二人とも」
と言って二人の方を向くと、とても驚いた様子を見せた。
「お兄様、そんなことまでわかるのですか……?」
「昔からそうでしたが、お兄様にはどうしてわかってしまうのでしょうか……」
どうしてって言われても……
わかるからわかるとしか言えんな。
「こうなったら、とことん付き合って頂きますわ!」
「そうですわね! お兄様にわからないと言わせるまでやりますわ!」
多分、わからないことないけど大丈夫かな?
「それでは1問目ですわ! 私とチセ、お風呂に入るのが好きなのはどち」
「お風呂が好きなのはロッカだな。チセはシャワー派だ。ちなみにロッカは43℃のお湯が好きで、チセは41℃でシャワーを浴びている」
「ぐぬぬ……正解ですわ……最後まで言わせて下さいまし!!」
ロッカが悔しそうにしている。その程度の問題は朝飯前だ。
「次は私ですわ! 私とロッカはたまに料理を致します。どちらも得意料理はハンバーグですが、私たちが好きなハンバーグ作りで好きな工程を答えて下さいまし!」
ふむ。二人のハンバーグは食べたことがあるが、どの工程が好きか。までは聞いたことがないな。
だが、あの時食べたハンバーグと、二人の性格を重ね合わせると答えは明白だ。
「ロッカはひき肉を捏ねて丸める作業だ。昔食べたハンバーグは食感と口当たりがとてもよかった。逆にチセはソース作りが得意だな。あのソースの奥深さがそれを語っている」
「ぬぬぅ……話していないことまで言い当てるなんて……流石ですわ……」
「ならばこれはどうですの!」
と言いながら、ロッカが取り出したのは、一枚の可愛い女性用下着だ。
「こ、この下着は、私とチセどちらの物か当てていただきますわ!」
ほう、これは難しい問題だ。
妹が普段どんな下着を履いているかなど、把握して……ないこともない。
なんかいける気がするが、ここは確実な手でいこう。
「すまない、見ただけでは確証を得られないから、匂いを嗅いでも?」
「え……」
「あ……よ、よろしくてよ……」
どうした? なんかまずいことでもあるのか?
俺はロッカから下着を受け取り匂いを嗅ぐ。
ふむ……これは……
「これは、ジーコのだな」
「せ、正解ですわ……」
「ジーコ……ごめんなさいですわ……」
この二人、ジーコを売ったのか……てかなんでジーコの下着なんて持ってるんだ?
と思ったところで、美術室のドアが開く。
「失礼しますわロッカ、チセ、私が訓練後の替え用にと思って、準備して忘れた下着を持ってきて下さったと伺ったのですが、どちらに……ってなんでに、に、に、兄様が私の下着の匂いを嗅いでいるのですか!!」
なんでって言われても……問題だったから?
ジーコはそのまま俺の方に近づいて来て、すごい勢いで下着を取り上げと、そのまま背を向けて美術室を出て行こうとした。
が、途中で立ち止まって、小さな声で呟く。
「へ、へ、変な匂いとか……しませんでしたか……?」
「あぁ、ジーコのとてもいい香りがしたよ」
それを聞いたジーコは、「フンっ!」と言い残して今度こそ美術室を後にした。
「はぁ……危なかったですわ……なんてタイミングのいい子なのでしょう……」
「ジーコ、恐るべしですわ……それにしても、またしてもお兄様に当てられてしまいましたわ」
まだ続けるのだろうか? 恐らくどんな問題でも間違えることは無いと思うがな。
と思っていた時、ロッカが話し始める。
「私達は、自覚があるくらい似ている自信があります。チセを見ていると鏡を見ているような感覚に陥りますわ。それが嫌と思ったことはありませんが、同時に私達の個性を見失いそうになるのです。それでもお兄様は騙せませんが……」
なるほど。誰かを騙すことで、自分のアイデンティティを知ろうとしてたのか。
お互いの違いを言い当てれる人がいれば、それは個性が確立された証であると。
似ていることを否定はしないが、同じ人間じゃ無い。
ロッカはロッカの、チセはチセの人生を生きているんだ。
わざと騙しにいっているとはいえ、間違えられるたびに自分がわからなくなっていく二人。
ならば俺が知る限りの二人の個性を教えてあげるとするか。
「よし、ならば俺が知るロッカとチセの違いを話してあげよう。他言無用だぞ?」
「本当ですか! 参考にさせて頂きますわ!」
「えぇ、私達も知らない私を教えて下さいまし!」
二人にとっては一番、気になることなんだな。
「まず容姿についてだが、目の色が若干違う。ロッカの方は果物のレモンのような鮮やかな黄色だ。対してチセは、カナリアという鳥の羽の色に近い。ロッカよりも少し緑みと青みがある黄色だな。目を見れば一瞬でわかるよ」
どちらも同じ黄色なのだが、俺にはその違いがわかる。
生まれてからずっとその目を見ていたんだからな。
「他にもたくさんあるが、聞きたかったのは内面的な話しだったな? 一番の違いは、ロッカは生み出すのが得意で、チセは磨き上げるのが得意というところだな」
同じ絵や料理が好きだと言っても、ロッカはどんな料理にしようか、どんな絵にしようかという点を好んでいる。対してチセは、どう料理するか、どう絵を仕上げていくかを考えるのが好きだ。
始まりを重視するロッカ、終わりを重視するチセ。
これが二人で一番違う点で、それぞれの個性的な部分だ。
「言われてみれば確かにそうですわ……」
「この絵を描いた時も、どちらが何の作業を担当するなんて、話し合わずに自然と作り上げていましたわ……」
二人とも納得する点があるのか、同じ仕草で頷いている。
こういうとこはそっくりだな。
「他の誰もが二人の個性をわからなくても、二人が個性を見失いそうでも、俺だけは絶対に知っている。見ている。そのことだけは忘れずに、この先もロッカとチセの、それぞれのいいところを見つけていってくれ」
最後にそう締め括ると、二人は互いの顔を見合わせ、手を繋いで俺を見る。
そして、
「「お兄様、これからも私達を見ていて下さいまし」」
と言って二人で笑った。
ほらな? この笑顔にだって、ロッカとチセの良さがそれぞれ出てる。
夕日を背負って微笑む二人。
二人から伸びる影さえもその違いに気付きはしない。
それでも俺にはわかる。
ロッカはロッカ、チセはチセという俺の大切な妹であることを。




