17話 妹が倒れた
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俺は学園の保健室に向かっていた。
扉を開けると、妹達が一つのベッドを囲んでいる。
「シロ!!」
シロが戦闘訓練の授業中に倒れたという知らせを、キュウカの念話魔法で聞いた。
俺は魔法哲学の授業中にも関わらず「何事だあああああ!!」という絶叫を上げて教室を飛び出した。
今思えば、転移魔法で保健室に転移すれば良かったのだが、冷静さを欠いていたな。
シロの名前を叫び、保健室を進む。
「お兄ちゃん、静かに! 今眠ったところです。安心してください。軽い貧血のようです」
キュウカに状況を聞き、少し冷静になる。
確かに保健室で騒ぐのはマナー違反だな。
「すまない。少し取り乱した」
「兄さんのことだから、すぐ飛んでくるとは思ってたけどね」
ウドは俺のことをよく理解しているようだ。
「みんなは授業に戻ってくれ。シロには俺が付いているから」
妹達は、シロのことを俺に任せて保健室を後にする。
俺は近くにあった椅子を、シロが寝ているベッドの横に移動し座った。
シロは、昔から運動が苦手だったな。
みんなで外で遊んでいても、近くの日陰で本を読んでいる子だった。
たまに混ざってみるものの、同じように貧血を起こして倒れてしまったこともあった。
そんなシロにとっては、魔法学園の訓練は相当厳しいものだろう。
それでもここまで努力しているのは、俺の期待に応えたいという気持ちが大きい。
シロは褒められるのが好きだ。
頭を撫でてあげると、人類のお手本のような笑顔で微笑む。
俺に褒められたいがために、俺の期待以上の努力をするのがシロだ。
魔法学園の入学当時に特訓した、魔法野球で一目瞭然だろう。
8歳で重力魔法と転移魔法を扱える魔法の申し子。
それはシロの努力の片鱗に過ぎない。
こんなになるまで努力しなくたって、俺はいつでもシロを褒めてやりたい。
しかしシロはそれでは自分に納得出来ないのだろう。
人見知りが激しいが、とても強く、可憐な俺の妹だ。
俺は昔のようにシロの手を握る。
「にぃ……さま……?」
「すまない、起こしてしまったか?」
「いえ……だい……じょうぶ……です」
少し寝たおかげか、顔色も良くなって来たようだ。
「ごめん……なさい……」
「どうして謝るんだ?」
「その……心配……かけて……しまって」
俺は椅子から立ち上がり、シロが横になっているベッドに腰掛ける。
そしてシロの頭を撫でてあげた。
「兄が妹の心配をするのは当たり前だ。よく頑張ったなシロ」
本来であれば顔を赤くして微笑むシロだが、今日は様子が違った。
シロは目に涙を浮かべながら呟く。
「でも……みんな……ふつうに……できる……わたし……だけ」
「その代わりシロにはみんなに出来ないことが出来る。誰だって完璧じゃないさ」
「でも……にぃ……さまは……かんぺき……です……」
俺のどこが完璧なのだろうか。
「何を言い出すかと思えば。俺だって完璧じゃないぞ。現に、シロが倒れたと聞いて思わず教室で叫んだら、周りの連中に奇妙な物を見る目を向けられた。ここに来る時だって、転移魔法を使えば良かったのに冷静さを欠いてダッシュで来てしまった。そのせいで廊下を走った事に対しての反省文を書かなくてはいけない」
先生とすれ違う時に、「後で反省文出せよ〜生徒会長」と言われた。スピードを出し過ぎて一瞬しか聞こえなかったが。
するとシロは軽く握った右手を鼻先に押し当ててクスクス笑う。
いつもの笑顔が戻ってきたな。
「ジーコなんてこの前、ウドに胸のことをいじられて拗ねていた。俺は胸は大きいのも小さいのも好きだけどな」
シロの笑顔が柔らかい。この笑顔に包まれたら、きっといい夢を見ながら眠れるだろう。
「完璧な人なんていないんだ。だから自分を悲観しちゃダメだぞ。シロには苦手なことがチャラになるくらい、すごいところが沢山あるんだから」
今度は笑顔のまま、涙を流している。
そんな器用なことも出来るくらい感情豊かなシロは、とても魅力的だよ。
「でも……わたし……にげたく……ない」
頬を伝う涙を拭って、シロはそれでも諦めたくないと言う。
もちろんそう考えることだって知ってたよ。シロは強い子だからな。
「よし! それなら俺と特訓しようか」
シロは小さな決意を目に浮かばせて、力強く頷いた。
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「シロ、準備はいいか?」
コクリと隣で頷くシロ。
朝日が顔を出して今日を迎えてる時間に、俺達は学園の前で待ち合わせをしていた。
昨日保健室で休んだおかげもあり、シロの体調は良くなった。
「にぃ……さま……とっくん……なにする……ですか……?」
「特訓内容は、散歩だ。これから毎朝行うから、覚悟しとけよ?」
シロは脇を締めながら拳を握り、「がん……ばる!」と意気込んでいた。可愛い。
「よし、それじゃあ学園の周りをグルっと歩いてみようか」
俺はシロと共に歩き出す。
シロの歩幅は狭い。
それでも、その足取りには力強い意思を感じた。
とても大きく感じる一歩。
俺は思う。シロの兄であることを誇りに。
俺のことを慕ってくれる妹達が、こんな一歩を踏みしめながら俺を追いかけて来てくれたこと思うと、涙が溢れてきそうだ。
「シロ、感じるか? 自然が太陽の光を浴びて呼吸をしているのを、木々が風のリズムに乗って踊っているのを」
シロはその場で目を閉じて、深呼吸をした。
「かん……じます……」
すると、シロの周りに柔らかな風や小動物が集まり、加えて陽の光がシロの立つところに降り注いで神秘を演出し始めた。
驚いた……これは……魔法じゃないな。魔力は一切感じられない。
恐らく、ハーピが持っている"夢を現実に変える能力"と同じ類だ。
「この先辛いことがあったり、苦しい時には、今みたいに目を閉じて深呼吸するんだ。そしたら今みたいに自然達が、シロに力を貸してくれるはずだ」
シロにこんな能力が眠っていたとは驚きだ。軽い運動から始めて、体力をつけようと誘った散歩で、こんなことになるとは。
やはり俺の妹達は何か持っている。まるで世界から愛されているようだ。
今はまだ扱いきれないみたいだが、この能力は必ずシロの手助けをしてくれるだろう。
「はい……にぃ……さま……ありがとう……ございます……」
シロも何かを掴んだみたいだな。
「それじゃ、歩こうか。朝ご飯の時間までには戻らないとな」
俺とシロは再び歩き出す。
シロが一歩を踏み出せるように、俺は少し前で道標を示しながら。
立ち止まってもまた歩き出せるように。
ゆっくりと、どこまでも、歩いていく。




