16話 妹と必殺技
サンキのキャラが少し薄いと思ったので、デスっ子にしてみた
「兄様! よろしくお願いするのデス!」
俺はサンキと向かい合い、拳を構える。
「あぁ。どこからでも掛かっておいで」
今日はサンキと学園の裏手にある草原で武術の訓練をしていた。
魔法学園は文字通り魔法を教える教育機関なので、武術などは最低限しか教わらない。
先生も、学園に1人いるかいないかくらいだ。
そんな事情もあり、武闘派の妹達には訓練相手が不足している為、ローテーションで俺が訓練を行なっていた。
それなら武術学園に行けば良かったのではないか? という意見もあるだろうが、まだ小さい妹達を独り立ちさせるのには不安しかない。
妹達も俺と一緒の学園がいいと言ってくれたので、こうして魔法学園に通って貰っている。
だが、俺も専門の先生に武術や剣術を習った訳じゃないので、正直この先何を教えればいいか悩んでいた。
こんなことを考えながら、今はサンキと戦闘の真っ最中。
「これも受け止めるデスか!」
サンキは最近、敬語を覚えようとしているのか、無駄に「です」を強調して乱用するようになった。
「流石は兄様デス! 次は虎の一撃をお見舞いするデス!」
どこでそんなイントネーションを覚えてきたのか……
まぁサンキ自身は気に入ってるみたいなので良しとしよう。態々直す必要性もないしな。
ゲンコツの要領で腕を上げ、振り下ろしてくるサンキ。なるほど、猫パンチか。
とりあえず虎の一撃というやつは避けておく。
タイガークローとかの方がカッコ良さそうだけど。
こういう技に名前を付けるって、前世ではよくやったよな。
漫画に出てくる技とかにも興奮した。バトル漫画やアニメの主人公には必殺技があるが定番みたいものだしな。
ん? 待てよ、必殺技か……
「サンキ、ちょっと待って貰ってもいいか?」
「兄様、どうしたんデスか?」
師匠は……いるじゃないか。前世に沢山。
俺はサンキとの訓練を中断し、思いついたことを試してみる。
右手と左手を体の腰に持ってきて、両手で丸い物体を包み込むように構える。
掛け声は言わない。大人の事情って奴だ。
そのまま両手の中に魔力を集め、圧縮する。
限界まで圧縮したら、両手を前に突き出しすと同時に、正面に圧縮した魔力の逃げ道を作ってやる。
そうすると、圧縮された魔力が一方向から伸びるように射出された。
無くなるまでビームのように放たれた魔力は、草原を超え、奥にある木々を薙ぎ倒していた。
出来てしまった……◯◯◯◯波……
そりゃ魔力なんてものがあれば、前世で憧れたあんな技やこんな技も出来るわけだ。
なんならオリジナルの技を作るのもいい。
何故今まで気付かなかったんだ……魔法の可能性を深く考えていなかった。
「兄様すごいデス! なんデスか今の魔法は!」
「魔法じゃないよ。ただ魔力を圧縮して放出したんだ。それとサンキ、これから手伝って貰いたいことがある」
「何ですか兄様!」
「俺と一緒に、必殺技を作らないか?」
俺が誘うと、サンキはすぐに承諾してくれた。
その姿には、あるはずのない幻覚の尻尾が見える。
サンキは基本遊ぶことが好きだが、こういったクリエイティブなことも好きだからな。
さて、まずはどんな必殺技を作るのがいいだろうか。
前世の記憶にある技とかを試してみるのはアリだが、それを必殺技にしない以上、あまり意味が無い気がする。
自分で生み出すからこそ、必殺技なのだろう。
そもそも必殺技ってなんだ?
「サンキは必殺技とかあるのか?」
「あるデスよ! 見ててくださいデス!」
と言いながら、全身から魔力を発するサンキ。
魔力を見ることが出来ない人でもオーラが見えるほど、サンキの魔力が高まって溢れ出ている。
ある程度サンキは魔力を高めたところで、高く上空へ舞い上がった。
結構高く飛んでるな。
次の瞬間、両腕をクロスしたサンキが近くの岩に向かって高速で落ちて来る。
岩は粉々に砕け、地面にも波紋の様な亀裂が入る。
落下地点はクレーターになっていた。
なんて威力だ。
この世界の人間のスペックは、前世の人間とは根本から異なるな。
これがサンキの必殺技か。
「すごく参考になったよサンキ。ありがとう」
「私の必殺技、『天地壊破』はどうデシたか?」
「すごくいい技だ。いつ考案したんだ?」
「これは兄様と、魔法野球の特訓をしてる時デス! 高く打ち上げられただけの球が、物凄い威力で落ちてきたのを参考にしたデス!!」
この世界にも地球同様に重力や引力といった超パワーが存在している。
サンキはその力に注目したというわけだ。
あの魔法野球からこんな発想をするなんてやはり天才だな。
「流石だなサンキ。さて……俺はどんな必殺技にしよう?」
サンキの技を見て思った。重要なのは派手さだ。威力はそこまで重要じゃない。
相手を倒すことだけを考えたら、風魔法で窒息させたり、念力魔法で心臓を潰したりした方が効率がいい。
だが効率重視の技や魔法は、ぶっちゃけ地味なのだ。
意識するのは見栄え。
よし、一つ試してみるか。
「ちょっと思いついたから見ててくれるか?」
「はいデス! 兄様の必殺技、楽しみデス!!」
サンキの承諾も得たところで、早速やってみよう。
俺はとりあえず両手を頭上に掲げ、何の意味もない巨大な魔法陣を出してみる。
この世界の魔法に魔法陣なんて必要ないが、魔法陣はかっこいい。ロマンがある。
これだけで敵に相当のプレッシャーを与えられるだろう。
次に、空に向かって魔力を放つ。
ただの光線だと味気ないので、エフェクトとして雷魔法でビリビリさせる。
上空に雲があるのは確認済み。雲を突き抜けるか突き抜けないかは重要なポイントだ。
強そうな技感が段違いだからな。
仕上げに魔力の状態を保ったまま、腕をゆっくりと相手に振り下ろす。
空に向かって伸びていた魔力が、徐々に自分に向かってくる光景はまさに地獄。
だが当てることはしない。倒してしまっては意味がないからだ。
相手が回避したことを確認し、そのまま腕を正面に向ける。
するとどうだろう。魔力の光線の形で大地も、山も抉れているではないか。
これだ! 敵はこの光景を見て、絶望するはずだ!
完成した! 俺の必殺技、『無知故の幸福』
この技を見た者は、今後俺に楯突こうなどと思わないようにする効果がある。
俺は嬉々とした表情でサンキを見る。
「兄様! 凄いデス! とんでもない力デス!」
「ありがとう。サンキのお陰でいい必殺技が出来たよ」
よかった。サンキも満足のいく結果となったようだ。
「お兄ちゃん!? 一体何してるの!?」
あれ? キュウカの声が聞こえる。
声をする方を振り返ると、キュウカと妹達の担任の先生がいた。
「何って、必殺技の開発?」
「どんでもない量の魔力を感知したので、現在学園はパニックです! 今生徒達は地下シェルターに避難しています!」
先生が今の状況を説明してくれた。
え? そんな大事になってたの?
「お兄ちゃんとサンキは今日草原で訓練をするって聞いてたから、心配になってきてみれば……お兄ちゃん!!」
「は、はいぃ!!」
俺はキュウカに力強く名前を呼ばれ、思わず大きな声で返事をしてしまった。
「限度を弁えてください!! この学園の生徒会長なのですよ!」
しっかりと叱られてしまった。
「ご、ごめんなさい……」
こういう時は、素直に謝るのが正解だ。
キュウカは軽く溜息をついた後、先生達に詫びを入れていた。
去り際、「事件とか巻き込まれたりしていなくてよかったです……」と小さな声で伝えてきた。
心配かけたんだな……もう少し考えて行動するように心掛けよう。
「学園は大変だったみたいデスね。それよりも兄様、今の技もう一回見せて貰ってもいいデスか??」
サンキ、今の出来事忘れちゃった? 俺、叱られてたのよ?
そんな目をキラキラさせても、ダメなものはダメだよ?
その日以来、学園の下校時刻を過ぎると、学園の裏手にある草原の方で巨大な光が空に登るようになり、それが今日の終わりを告げる風物詩のようになっていった。
耳を凝らすと、遠くから微かに「無知故の幸福デス!!」という女の子の声が聞こえたとか聞こえないとか。
この世界にも、中二病という病が生まれた瞬間だった。




