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15話 妹達とプール実習


「今日はみんなに、新たな特訓をして貰う」


 週末の休み、俺は妹達に予定を空けておくようお願いをしておいた。


「新たな? 一体何を特訓するんですか?」


 よくぞ聞いてくれたキュウカ。

 これは凄く大事な訓練なのだ。


「俺は先日、みんなの弱点を見つけてしまったのだ」


「みんなの……弱点?」


 そう。わかったのはジーコのお陰だがな。


「そうだ。それは……異性だ」


「お兄様……また変なことを企んでますの……?」


 変なことではない。大事なことだ。


 俺は、先日イクスとジーコとディナーをしたときの出来事をみんなと共有した。


「ということだ。ジーコは俺の裸を見ただけで倒れてしまい、イクスも俺のマッサージだけでダウンしてしまった。これは由々しき事態だ」


「秘密にしていたのですか! イクス、ジーコ! 抜け駆けは厳禁ですわ!」


「い、いや秘密というわけではないのだが、す、少し恥ずかしくてな……」


「そ、そうよ! 言うタイミングがなかっただけですわ!」


 長女と次女が詰められている絵を見るのもいいが、今はそれを眺めている時間は無かった。一刻も早く取り掛からねばならない。


「まってくれ、今は特訓の時間が惜しい。早く取り掛からなければ一刻を争う」


「わかった。イクスとジーコを絞るのは後にしとくよ。それで一体何をするんだい?」


 ウドが訪ねてくるので教えてやろう。


 地球で初めて異性を意識する授業を。

 それは——



「プールだ」



 ———————————————


 こちらの世界では、水浴びや風呂の文化はあるくせに、プールという文化が無かった。


 それどころか、結婚するまで異性に裸を見せないなんて文化もあるくらいだ。


 故に異性の兄妹でもいない限り、大人になるまで異性を知らずに生きることになる。


 それはまずい。


 何故なら、妹達に裸の男が襲いかからないとは限らないからだ。


 そんな状況で冷静さを欠き、遅れを取ってしまっては、いくら武術や魔法を訓練していたとしても、元も子もない。


 だから鍛えるのだ。

 俺の身体を犠牲にして。


 そのために、魔法で山奥にプールも作っておいた。



「これが……プールですか?」

「なんか立派だね! 川じゃダメなの?」


 イクス、サンキ、こういうのは形から入るのが大事なんだよ。


 もちろん作ったのはプールだけではない。


「みんな、これがプールで着る服だ。あそこの更衣室で着替えてきてくれ。サイズは合ってると思うから」


 俺はみんなに紺色の布を渡す。プールといえばこれだろう。


 俺は魔法で一瞬で着替える。もちろん異性に慣れる訓練だから、俺も本気を出して極限まで肌を露出してる。そう。ブーメランだ。


 こんなことしてると、自分が妹達の水着姿を見たいだけだろ? なんて言う輩が出てきそうだから言っておくが、これは俺にとっても訓練なのだ。


 だから、ブーメランなのだ。これ以上は何も言う必要はあるまい。


 仁王立ちで太陽光を浴びること数分。どうやら妹達の準備が整ったようだ。


 更衣室のドアが開かれ、天使達が天国から迎えにくるかのように舞い降りてくる。



 oh……壮観。絶景なり。



 妹達に渡したのは、もちろんスクール水着。

 それぞれの名前を胸に平仮名で入れておいたのだが……


 先頭を歩くイクスの「いくす」と、目を擦りなごら歩くハーピの「はーぴ」がクシャクシャになってるではないか。


 くそっ! サイズを見誤ったか……これは仕方ないことだ。決してわざとじゃない。


 サンキ、ウド、ロッカ、チセは年相応といったところだな。


 キュウカは少し発達が早いといったところだろうか。それよりもスタイルが抜群過ぎる。肌も、向こうの景色が透けて見えそうなほど白い。


 ジーコとシロは胸は小さいものの、身体の華奢さと噛み合っており、一種の芸術とも思えた。


 ふむ。いい特訓になりそうだ。


 俺はプールサイドで待っていると、


「兄様の裸……兄様の裸……兄様のぉぉ!」


 と言いながらジーコが更衣室へ駆け込んでしまった。やはりまだ刺激が強過ぎたか。


「ジーコ、最初は隙間から覗くだけでもいい。この兄を見て徐々に慣れていこう。俺は逃げも隠れもしないからしっかり見ておくように。慣れてきたらこっちに出ておいで」


 更衣室のドアが少し開き、荒い鼻息が聞こえて来たから、肯定の合図だと取っておこう。


 他の妹達は、少し顔が赤いものの、ジーコ程ではないようだ。これなら特訓を続けても問題ないだろう。


「あの、お兄ちゃん? 多分ね、みんなお兄ちゃん以外の裸だったら問題ないと思うんだけど……」


 キュウカはそう言うが、兄の身体でこんなに赤面してしまうのだから、他の男だったら気絶しかねないぞ。


 大人になってきたとはいえ、まだ12歳だな。


「キュウカ、これが一番最低レベルだ。ここを超えられない限り明日への扉は開かれないぞ」


「はぁ……まぁみんな喜んでるようなので、特訓しましょうか……まずは何から始めるのですか?」


「よし、それじゃみんなはプールに入ってくれ」


 妹達がプールに入っていく。

 プールに入ったときの「冷たっ」という響き。最高だ。


 すると、後ろから誰かにツンツンされた。


「ねぇ、ルド。私これでいい?」


 ハーピは自分で作ったのか、輪っかの浮き輪を両手に抱えていた。


 昔水浴びの時に作ってあげたのを覚えていたみたいだ。ハーピはこれに乗って寝るのも好きだったからな。


「あぁ、いいぞ。そのかわりハーピの番になったらちゃんと起きるんだぞ」


 コクリと頷き、プールに浮き輪を浮かせて乗るハーピ。


 これはこれでアリだな。いやむしろアリよりのアリだ。


 さて、俺もプールは入り、特訓を開始しよう。




「まずは1人ずつ俺が手を引くから、バタ足で向こうまで行ってみよう」


「兄上、私は補助が無くても泳げますが?」


「まだ勘違いしているようだな、イクス。これは泳ぎの訓練ではない。異性に慣れるための特訓だ」


 イクスは、ハッとなり先にやらせて欲しいと言う。


 わかって貰えたようだ。


 これは、お互いが裸に近い状態で肌を触れ合う訓練なのだよ。


「さぁイクス、手を」


 と両手を伸ばせば、それを掴んでくるイクス。


 やはりな。イクスは俺の裸を見ることへの抵抗はないが、自分の肌に触れられるとまだ恥ずかしいようだ。


「どうした? 顔が赤くなっているぞ?」


「それは……この前のことが……ゴホンっ! いえ、何でもありません!」


 ここまで同様するイクスは珍しい。

 やはり特訓は正解だったな。


 俺はイクスの手を取り、プールの反対側まで運ぶ。


 同じようにして、他の妹達も反対側まで手を繋いで連れて行く。


 みんな最初は俯き加減だったが、何回か繰り返すうちに慣れてきたのか、最後の方は顔を上げてお喋りが出来る様になった。


 早くも特訓の成果が出てるみたいだな。さすがは我が妹達。天才と呼ばれるだけのことはある。


 次は難易度を上げて、肩車で妹達を運ぶ。

 最早プールで無くてもいい気がするが、こんなところ人様には見せられないからな。


 肩車の件を伝えたときは、ウドから「兄さん本当は私達に触れたいだけなんじゃ……言ってくれればいつでも触らせてあげるのに……」という呟きを貰ったが、そういうことじゃない。決して、太ももの柔らかさを感じてなんかいない。


 少し抵抗はあったものの、みんな昔を思い出したのかこれもクリア。


 まぁここまで出来れば少しは異性にも慣れてきただろう。


 そろそろ陽も傾いてきたし、今日はこれくらいにしておこうかと考えていたそのとき、開かずの間の扉が開かれた。


「に、に、に、兄様! わ、わ、わ、私もお願いしますわ!!」


 そう言って更衣室から出てくるジーコ。


 その足取りはギコチナイが、しっかりと意思を持ってこちらに向かってきている。


 相当な覚悟を決めてきたようだな。


 ならば、その覚悟、全力で受け止めよう!!


「ジーコ!! そのまま飛び込んでこい!!」


 この世界には飛び込み禁止のルールなんてない。


「はいっ!! 兄様!!」


 ジーコはプールサイドから俺の元は飛び込んでくる。


 その時、横目にウドがニヤリと笑っているのが見えた。


 何が起きたのかはわからないが、俺はジーコを受け止める瞬間に体勢を崩してしまった。


 まずい! ジーコだけは必ず守らなくては! と思いながら、俺はジーコをしっかりキャッチする。


 何か指に紐のようなものが引っかかっている気がするが、今はそれどころではない。


 俺はジーコに負担が掛からぬよう、ジーコの後ろから、なるべく柔らかい部分を優しく包んで持ち上げた。


「ジーコ、大丈夫だったかい?」


「ありがとうございます。兄さ……ま……??」


 ジーコは後ろにいる俺を見ながら感謝を口にするが、そのまま俺の腕の先へと目を向ける。


 なんとジーコのスク水は、肩の紐がズレ落ちて、おへそのところまで下がっており、俺はジーコの胸を両手で包み込んでいた。


 そのまま待つこと数秒。


「にいさまのばかあああああ」


 ジーコなそのまま泣き出してしまった。


 違う!! ウドのせいなんだ!! 俺のせいじゃない!!


 ウドが俺の足元に滑走魔法を展開してたんだ!!

 魔法破壊でも時間停止でも対応出来たが、ジーコの安全が大事だったんだ!


 俺はとりあえず、肩から外れ、ずり落ちたスク水を元に戻してあげる。


 そして背中から泣いてたるジーコを優しく抱きしめた。


「ごめんよジーコ。恥ずかしい思いをさせてしまったな」


 するとジーコは少し時間を置いて、俯きながら小さな声で呟く。


「責任……とってくださいまし……」


 もちろん。どんな責任だって取るよ。


 俺が力強く頷くと、ジーコは俺の腕をすり抜けて俺の方を向き、「それならば、特別に許して差し上げますわ!」と、妖艶な微笑みを魅せた。



 危ない危ない。今日初めて、俺の特訓が失敗するところだったぜ。



 ジーコも大人になってきたな。


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