9 ランクなんてそんなもの
「君がドラゴンを倒したとかいう少年か」
長テーブルの一番奥、そこに堂々と腰をかけた男がそう問うた。
厳かな雰囲気、重い空気が場を支配する。俺はその強烈なプレッシャーに押しつぶされ、一言も発することが出来なかった。
「そうだな……君のランクは……」
男は目の前の一枚の紙を手に取り、それをまじまじと見つめる。あれは恐らく俺の『履歴書』だろう。
履歴書と言っても、俺が書くのは冒険者ギルドに登録する時だけだ。他の情報は全てギルドの職員が記入する仕組みになっている。
どのクエストを受注したか、そしてその成果。人柄から信用度まで、ありとあらゆる情報が記載されている。
せめてDランクまで昇格出来れば、毎朝開門と同時に仕事を取りに行く必要はなくなる。この査定は棚からぼたもちではあるが、俺にとって非常に重要なものなのだ。
「……まあSランクでいいんじゃないの。めんどくさいし」
男の口から飛び出てきた言葉は、あまりに馬鹿馬鹿しいものだった。
こんな場で冗談など普通言うだろうか。呆れるを通り越してもはや腹が立ってきた。緊張で身を固めていたのが馬鹿みたいだ。
「それよりお嬢ちゃん、見てこれ。高級料理店の招待状貰ったんだよ。しかも二枚。今晩俺とデートしない?」
「え? は、はぁ……」
男は立ち上がって手に持っていた紙を受付嬢に握らせると、ニコニコと薄気味悪い笑みを浮かべて彼女の顔に触れた。
「あの、結構です」
「つれないなぁ。いいじゃないかデートくらい」
男はその後もベタベタとくっついていた。
そのあと奴が何していたかは知らない。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、これは夢なのではないかなどと考えていたからだ。
「……いい加減にしてください」
「ん? すまんなんか言ったか?」
「いい加減にしろと言っているんですッ!」
俺は無意識にテーブルを叩いた。大きな音にびっくりしたのか、目の前の男は少したじろぎ、興味なさげに聞いていた他の連中もこぞって顔を上げた。
「いきなり大声出すなよ……」
「今は俺の査定のはずです。その人から早く離れてください」
男はなんだなんだ、と言いながら二歩ほど後ろに下がった。
「査定はさっきしただろう。君は今日からSランクだ。おめでとう」
「ふざけないでくださいッ!」
俺はもう一度テーブルを叩いた。二度目はさすがに驚かなかったのか、男は軽蔑するような目付きで俺を見た。
「何がしたいんだ君は。BとかCが良かったのか? ならそうしよう」
「そのふざけた査定の仕方をやめろと言っているんです!」
場がザワザワとし始めた。中には嘲り笑う者もいた。
何が起きているんだ? 冒険者ギルドというものは……こんな腐った場所だったのか?
そんな疑念が頭の中をぐるぐると駆け巡っている。俺は彼らを理解することを半ば諦めた。
「……あのさあ。俺は君がSランクだろうがFランクだろうがどーでもいいわけよ。てか、こんな簡単でありがたいとか思わないわけ? じゃあいいよ、一生Fランクのままにしておこう」
「そ、それは……!」
男は光のない真っ黒な瞳で俺を突き刺すように睨みつけた。そしてニヤニヤと口角を上げ、堪えきれなくなったのかゲラゲラと笑い出した。
「そうだよなぁ? それは困るよなぁ? Fランクのままじゃあ生きていくのもしんどいもんなぁ? 嫌なら黙って受け入れろ。君がSランクになってくれれば、査定で二度と君の顔を見なくて済む」
周囲の連中も失笑していた。
ああそうか。冒険者ギルドはクエストの報酬の一部を手数料として取っている。冒険者飽和の今、クエスト受注に制限の多いFランク冒険者が多いのは彼らにとっても困るのだ。
ならばある程度成果を上げた者を一気に高ランクまで昇格させ、クエストの売れ残りを無くした方がはるかにギルドにとって利益となる。
「お嬢ちゃん、彼にSランクの説明をしてあげなさい。それと今晩、待っているよ」
男はわざと声高にそう伝えると、気色の悪い笑い声を発した。受付嬢は従順に一礼すると、俺をまた別室まで連れて行った。
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