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8 人間<エルフ

「さて……ドラゴンの元まで戻ってきたはいいものの、どうやって運び出すんだ?」


 フラムが腕を組んで首を傾げる。


 いやいや、そんなん知るか。こんなでかい魔物今まで見たこともなかったし。


「少年。君の怪力で持ち上げてくれたまえ」

「できるわけないだろ」

「やる前から諦めるんじゃあないよ! 気合いだ!」


 ふんすと意気込むフラムを横目に、とりあえずドラゴンを持ち上げようとしてみた。当然ビクとも動かない。


「うーむ、そういえば人間には『火事場の馬鹿力』というものがあるそうじゃないか。試してみよう」

「やめて?」


 普段は冷静沈着、博識といった印象なのに、たまに頭のおかしいことを言い出すのはなんなんだ?


 それに声のトーンが冗談じゃない。なんというか、そういう所に見た目相応の子供らしさがある。


「あぁ、こういうのは私に任せてください! 浮かせばいいんですよ!」

「浮かす?」


 ペルシャは自信満々に胸を張り、両手を伸ばしてドラゴンにかざした。すぐさま魔法陣が展開した後、たちまちドラゴンの巨体がふわふわと宙に浮かんだ。


 そのままそれは森の木々を突き抜けると、ぷかぷか前進していく。


「……魔法ってすげー」


 以前フラムが『人間が種族的に優っている部分はない』と言っていたが、本当にそうかもしれない。


 エルフはあまり里から出ないのか、街中でエルフの姿を見かけることはほとんどない。しかし彼らが街へ出て冒険者にでもなろうものなら、俺らの仕事は根こそぎ奪われてしまうだろう。


◆◆◆


 ペルシャのおかげで日が昇る頃には街に着くことができた。早朝。いつも目にしていた街の景色が、今日はどうしてか普段と違って見えた。


 今日もギルドの前にはFランク冒険者たちの人だかりができていた。彼らは俺の方をじっと見つめると、あんぐりと口を開けて固まった。


「な、なんだあれ……」

「浮いてるぞ!?」

「でけえ……ドラゴンか……?」


 彼らは口々に驚きの声を漏らす。この場のほとんどの人間はドラゴンなど見たこともないだろう。加えてエルフの魔法も珍しい。


 全員の視線が空に浮かんだドラゴンに釘付けになっていたので、ギルドの門が開いてもとうとう誰一人中に入ろうとしなかった。


「……皆様、どうされました……か……う、うゔぇぇぇえええ!?」


 呆然と立ち尽くす冒険者たちを不審に思った受付嬢が外へ出てくると、彼女は悲鳴をあげてその場に倒れ込んだ。


「……あ、あなた達が討伐したんですか」


 彼女は座り込んだまま俺たちに向かって口をパクパクさせた。俺はこくりと頷くと、彼女はバッと立ち上がってがっしり俺の手を取り、そのままギルドの中まで引きずり込んだ。


「あなた、アルさんですよね? 虚偽の討伐報告は厳罰ですよ! い、今なら間に合います!」


 受付嬢はあたふたしながら誰にも聞こえないように囁いた。


 そう勘違いするのも無理はない。俺はこの街に越してから何ヶ月も毎日Fランク冒険者としてギルドに通ってきた。当然顔も覚えられているし、普段受注するクエストの内容から俺が剣など扱えないことも知っている。


 そんな人間がドラゴンなど倒せるはずもない。これは勘違いというよりも、至極真っ当な反応だ。


「まあ……信じてもらえるわけないですよね……」

「ちょっと待ってください!」


 どう説明しようか考えあぐねていると、入口からペルシャのハキハキとした声が飛んできた。彼女はそのままズンズンと迫ってくると、懐からひとつの巻物を取り出した。


「母様……長がきっと困るだろうからと、私に預けてくれたものです。ここにはしっかりと事の経緯が書かれています!」


 受付嬢は食い入るように巻物の端から端まで目を通すと、とても難しい表情を浮かべて唇を噛んだ。


「スノーホワイト……エルフの族長の名前ですね。それにこの魔力……確かに本人のものです」


 受付嬢はふうっと息をつくとすぐさま柔らかい表情を取り繕い、深く頭を下げた。


「申し訳ありません。まさか本当だとは思わなくて……。どうぞこちらへ、私がお受け致します。後ろの御二方は少々お待ちください」


 受付嬢はフラムとペルシャに一礼すると、先導して別室の扉を開けた。


 あの二人は冒険者ではないのでロビーまでしか入れない。これから先向かうのは、冒険者ですら普段と入ることの出来ない場所だ。


 何枚もの扉を介し、とうとうその場所へとたどり着く。巨大な長テーブル、そしてずらりと並べられた椅子にこの冒険者ギルドの重鎮たちが一人一人座っている。


 ここは俺たち冒険者にとって命と同等に重要なもの――――冒険者ランクの変動を決める場だ。

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