7 秘密は女をより魅力的にする
ほんの一瞬の沈黙だった。時間にして数秒もないほどだろう。だがフラムに対する不信感のせいか、その沈黙が余計に長く感じられた。
「フラム……『常世送り』ってなんなんだよ……」
ダメだ。
「『願いの結晶』ってなんなんだよ……『アクセスキー』ってなんなんだ……」
これ以上踏み込むな。
「お前……何隠してるんだよ」
この世界には、きっと知らないでいる方が幸せなことがあるんじゃないか?
頭ではそう分かっているのに、体が言うことを聞かない。
ゾワゾワといやな寒さが肌を這うように撫でた。この一瞬がまるで無限に感じる。心臓の脈打つ音があまりに鈍い。
俺は、どうしたいんだ。
「……すまなかった少年。いや、アル」
沈黙を破ったのは、フラムのしおれた声だった。
「僕は隠し事が多すぎた。君と信頼関係を築いていく上で……それではいけないと今気づいたよ。どうかこの愚かな僕を許してはくれないか」
正直驚いた。この少女が下手に出るとは考えもしなかったのだから。
「僕はWIN-WINが好きだ。今答えられることにはできるだけ答えよう。だからアル、君も僕に最後まで協力してほしい」
フラムには少し吹っ切れたような清々しさがあった。それが俺に妙な安心感を与えてくれた。
俺はほとんど無意識にこくりと頷いた。荒れ模様だった気持ちも少し落ち着いていた。
「街に戻って、それからゆっくり話をしよう。それに、あのドラゴンをギルドに持っていけば……」
「あのー、お話中にすいません」
ペルシャがフラムの言葉を遮って会話に割り込んだ。強引に話の主導権を握った彼女は申し訳なさそうに、しかし目をキラキラさせて続けた。
「お二人とも冒険者なんですよね?」
「いや、僕は違う」
「ああ、ごめんなさい。こんな可愛い子が冒険者なわけないですよね」
フラムは頬をプクーと膨らませて見るからに不機嫌な表情を浮かべた。あまり子供扱いされることは好きではないらしい。
「じゃああなた……えっと、アルくん? でしたっけ。実は折り入ってお願いがあるんです」
ペルシャは俺の前まで歩を進めた。こうして目の前に立たれると、俺よりも背丈が大きいのがよく分かる。俺が小さいだけなのだろうが、それでもスラッとした長身だ。彼女はそのまま丁寧に頭を下げた。
「私をお二人の旅に連れて行って貰えませんか?」
あまりに突拍子な話に思わずえっ、と声が出た。
だがそれも懸命な判断かもしれない。この里に居れば彼女はいつでも『シャム』を思い出すだろう。俺も残された者の悲しみを知っている。
もしかしたら俺も、姉さんを探すというのは建前で、本当は姉さんを思い出したくなくて旅に出たのかもしれない。
フラムと出会ったあの日、俺はあいつを拒絶した。姉さんの所在が分かったかもしれないのに。それは俺があの生活に満足していたからじゃないのか?
Fランク冒険者として毎朝仕事の奪い合いに白熱し、日中はひたすらに働き、夜は明日に備えてすぐに寝る。
そんな生活の中で、いつしか姉さんの存在を忘れようとしていたのかもしれない。
――――俺はそんな薄情な奴だったのか。
俺は少し、落ち込んだ。
「あー……俺はいいんだけど……」
「僕も構わないさ。よろしくペルシャ君」
フラムは少し楽しそうに笑った。そうして俺たちは里を出ると、昼間倒したドラゴンの元へと向かった。
空は既に暗く、月明かりが煌々と木々を照り付ける。それでも森の中はまるで塗りつぶしたように黒かった。
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