6 不思議なことはあるものだ
『常世送り』。
それはある日突然、全ての人間に平等に訪れる。
なんの兆候もなく、跡形もなくこの世界から消失する。
人々はこの怪現象を畏れ、せめてもの救いとして 『常世』、すなわち天国へ送られると信じた。
「初めはただのいたずらかと思ったんです。私を怖がらせようとしているんだって。でも……何日経ってもシャムは現れませんでした」
ペルシャは溢れそうな感情を必死に抑えながら話した。
「だから、もしかしたら『禁忌の地』へ行ったんじゃないかって思ったんです。あそこは里のエルフなら誰も立ち入りません。だからこそ……もしかしたらシャムは……そこにいるんじゃないかって……私が探してくれるのを……待ってるんじゃないかって……!」
ペルシャの頬に大粒の涙が流れ、ボロボロと床に落ちた。スノーホワイトさんは彼女をそっと抱き寄せると、静かに背中を叩いた。
なるほど。そして『禁忌の地』に眠るドラゴンを起こしてしまったというわけか。
「ごめんなさい、最近はペルシャも立ち直りつつあったのだけど……やはりまだ……」
「いえ……俺の方こそ思い出させるような真似を……」
「いいの。ペルシャ、少し外で休んで来なさい」
ペルシャはこくりと頷くと、涙を拭いながら大樹から出ていった。スノーホワイトさんはそれを悲しそうな目で見つめていた。
「……さて、お礼をしたいのは山々なのだけど、何せ私はただの本好きでしかなくて……大したものは持ち合わせていないのです。その代わりと言ってはなんですが、知識を提供いたしましょう。何か知りたいことはありませんか?」
むう。突然知りたいことはないかと言われても困る。こういう質問をされるとかえって思いつかない。だがしかし、そういえばついさっき疑問に思ったことがあったのだ。
「二十六……でしたっけ? エルフの長なのに、随分と若いんですね」
「ええ、私たちは若い種族ですから」
「若い種族?」
いまいちピンと来ない返答だ。長寿であるはずのエルフが、『若い種族』?
「えっ、でもエルフって二百歳くらいまで生きるんですよね?」
「ええ。でも私たちは若い種族です」
スノーホワイトさんは意味深長にそう答えた。口元は笑っているのに、目は笑っていない。なにか強いメッセージ性のようなものを感じる。
「人間だって若い種族でしょう。何を不思議に思う必要があるのです?」
俺は腕を組んで少し記憶をたどってみた。彼女の言うとおり、確かに俺は老人という老人を見た事が無いかもしれない。
腰を曲げ、杖をついた、歯の抜けた老人。
そんなもの、見たことない。
……あれ? ならどうして……俺は老人を知っているんだ?
「そういえばそのポケットに入っているもの……私それが気になって仕方がないんです。見せて貰えませんか?」
「え? あ、あぁ、姉さんの形見ですよ、これは」
思考中に突然頭に割り込んできたスノーホワイトさんの声に驚き、俺は大慌てでポケットから『願いの結晶』を取りだした。
「へえ……虹色に輝いて……綺麗ですね。触ってもいいですか?」
「ええ、もちろん」
雪のように真っ白な腕が願いの結晶に触れようとした瞬間、スノーホワイトさんの体が二歩ほど吹き飛んだ。
「触るなッ!!」
フラムが突き飛ばしたのだ。この小さな少女は息を荒くして、スノーホワイトさんの瞳をギラりと睨みつけていた。
「なっ……おい、何やってんだ! 謝れ!」
「いいえ、私が悪かったわ、アル。ごめんなさい、気に触ったかしら」
「いいんです。これは俺の物で、俺がいいって言ったんですから。おいフラム黙ってないで謝れ!」
「帰るぞ少年。ここは嫌いだ」
フラムは強い口調で言い放つと、足早に大樹から出ていってしまった。
「待てって! す、すいません、また謝らせに来ますからっ」
「いえお気になさらず……またいつでもいらしてください」
俺は彼女に深くお辞儀して、すぐにフラムの後を追った。大樹から出るとフラムはペルシャと共に待っていた。
「おいっ! お前な……!」
「ヤツの言うことは信じるな」
フラムは俺の耳をぐいと引き寄せ、誰にも聞こえないような音量でそう呟いた。
「な、なんで」
「君は一度も名乗らなかったな。僕も君の名前を言わなかった。なのに何故ヤツは君の名前を知っている?」
『いいえ、私が悪かったわ、アル』
――――確かにそうだ。スノーホワイトさんどころか、ペルシャすら俺の名前を知らないはずだ。
「で、でもお前だって」
「僕は街で君の噂を聞いただけさ。とにかくヤツは信用するな」
フラムは念押しするようにそう言うと、強く耳をつまんでいた手を離した。
耳たぶがヒリヒリする。それと同時に頭も混乱する。
一体なんなんだ。俺は……何に巻き込まれてるんだ?
「……おい、待てよ」
この少女は、その小さな体には到底収まりきらない、とてつもない野望を抱えているのではないか。
「スノーホワイトさんを突き飛ばしたのは……俺の名前を呼ぶ前だよな……?」
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