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3 なんで龍なんているんですか

 びゅうっと体感したことも無い強風が空から叩きつけるように吹き荒れると、大地に大きな影を落とした。


 大きく、長く、強靭な翼、そして巨体!


 目の前に現れたのは正しく『空の覇者』、ドラゴン。


「う、嘘だろ……ドラゴンって……Sランク冒険者しか太刀打ちできないって噂の……」

「そうなんですっ! いやぁ〜私も初めて見ました! どうしたら見逃してもらえるんですかね?」


 ペルシャと名乗ったエルフの少女は当事者意識のないトーンでそう言った。


「うーん、何とかして私が引きつけるのでその間にあなたは逃げてください」

「その前に僕の上から退いたらどうだいペルシャくん」


 フラムの不機嫌そうな声が飛び出ると、ペルシャはビクリと跳ね上がった。


「わわっ、地面から声が!? ってなんだ、かわい子ちゃんじゃないですかっ! ごめんなさい踏んじゃって!」

「少年、なんでこいつ他人事(ひとごと)みたいに話してるんだ?」


 多分馬鹿なんだろう。そう喉まで出かけたが、初対面の相手にそんなことを言ってはいけない。そんなやり取りも束の間、ドラゴンが大きな咆哮を上げると木々を薙ぎ倒してその巨大な足で地面を掴んだ。


 ズシンと大きな振動が足を掬う。膝を蹴られたような強い衝撃がその場に立つことすら許さない。これでは逃げようにも逃げられない。


「キエエエ!!」


 今度は洞窟から大量の野蛮な奇声が上がり、武装したゴブリンが続々と外へと這い出てきた。ゴブリンたちは俺たちと巨大なドラゴンを数回見比べると、血相を変えて洞窟内に逃げ込んだ。


「ガアッ!!」


 ドラゴンの口から真っ赤に燃える灼熱の炎が吹き出した。炎はたちまち洞窟を火炙りにし、中からゴブリンの痛々しい悲鳴が一瞬だけ聞こえると、すぐに静かになった。


「あちゃー、なんだか可愛そうですね」


 このペルシャという少女、どこまでも呑気で気が抜けている。あまりにも場違いな発言に俺とフラムは絶句した。


「ちょっとくらいなら時間稼ぎできますかね? おふたりは早く逃げちゃってください」


 ペルシャが両手を前に出すと、その先端に不思議な魔法陣が現れる。


 エルフは魔法が使えると言う。しかしこの目で見たのは初めてだ。


「そ、それでドラゴン(あれ)を倒せるのか?」

「あはは、面白いこと言いますね。私がSランク冒険者に見えますか?」


 そう言われると何も言い返せない。外見はただの布地の服を身にまとっているだけの華奢な女の子なのだ。


「じゃあなんで戦う必要があるんだよっ!? アレは俺らにはどうしようもない、なら逃げるしかないだろ!」


 ペルシャは少し悩む素振りを見せて、すぐにニコリと笑った。


「私が逃げたら里のみんなに危険が及びます。それに元はと言えば私が悪いんです。入ってはいけない『禁忌の地』に飛び込んで、ドラゴン(あれ)を怒らせちゃったんですから」


 ペルシャの目は笑っていなかった。どこか諦めたような表情で、なのに少し嬉しそうだった。


「……自殺行為だ」

「あはは、でもいいんです。これで『シャム』とまた会えるから」


 付き合ってられない。


 自殺願望があるなら俺はもう何も言わない。


 俺はフラムと共に駆け出した。ただ一直線に、振り返ることなく。


 だって仕方ないだろ。ドラゴン相手に勝てるわけがない。かと言って全員で逃げ切れるわけもない。ならば誰か一人が囮になるのが一番現実的だ。


 それが最善の選択なんだ。




 ――――なのにどうして。


「……っ! 少年!? ダメだ戻ってこい!」


 ――――ほっとけないんだ!?


 全力で(きびす)を返し、全力で駆けた。


 腰の剣を抜き、前傾姿勢を崩さず、最高速のままドラゴンの元へ。


「――――!!」


 一瞬だけ世界が止まったような錯覚に陥った。


 エルフの少女の後ろ姿は、姉さんにそっくりだった。

「続きが読みたい」「面白い」


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