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28 ぼくらのこと

 痛みと混乱で意識は混濁していた。


 肩の出血が止まらない。左腕の感覚はもう無かった。


「……君も僕の邪魔をするんだね」


 フラムは俺を睨みつけ、手に持ったレイピアの切っ先を俺に向けて構えた。


 俺も右腕だけで剣を持ち上げ、切らした息を整えながら構えた。


「お前は間違ってない。当然風鳥(かざとり)さんも間違ってない。でも俺は……もっといい方法があると思うんだ」


 フラムはまた嫌そうな表情を浮かべた。瞳には不信感が宿り、軽蔑するように俺を見る。


「フラム、『現実』へ行こう。こんなことしなくたって――――」

「は! 何を言い出すかと思えば……絵空事も大概にしろ! そんな所へ行ったって、僕は風鳥に抹消されるだけさ!」


 フラムは興奮して叫んだ。ギリギリと奥歯を噛み締め、敵意をむき出しにしている。


「させないさ。お前は俺が必ず守る」

「現実世界の君に何が出来る!? うぬぼれるんじゃあないよっ! いいか、これは僕の存在を賭けた戦いなんだ!!」


 フラムは俺の言葉を一蹴すると、話を切り上げてずんずんと距離を詰めてきた。


 まだこの世界には取り残された人達がいる。ここで俺が死んだら、彼らは永遠にこの世界に幽閉されてしまう。


 死ねない。まだ負けられない。


『願いの結晶』と『アクセスキー』さえ揃えば。ここでフラムに勝てばみんなを助けられる――――!


 フラムの体が飛んだ。凄まじい速さで間合いが詰まる。


「……ぉおおお!!」


 右腕だけで振り抜いた剣が、その刀身が吹き飛んだ。レイピアはかち合った衝撃をものともせず、その剣先で俺の顎を掠めた。


 全身がよろめく。思わず右足が一歩後退する。


 ――――負けるわけにはいかない。


 半分になった剣でもう一度斬りあげる。最後の力を振り絞った一撃。


 それはフラムの体に到達するよりも前に宙へ飛んで行った。


 レイピアが俺の右手首ごと切断していた。痛みを感じるよりも早く俺の体は崩れ去り、仰向けになってフラムに組み伏せられた。


「うっ……」


 フラムは俺の体に馬乗りになって、レイピアの先端を俺の胸に突き立てた。


「僕の勝ちだ」


 彼女は淡々とそう呟いた。白く透き通った髪が彼女の顔を隠す。


「『願いの結晶』を渡すんだ」


 その声には悲しさが含まれていたように感じた。勝利の感覚に酔いしれることなく、彼女は口だけ動かした。


「まださ……レイピア(それ)を突き刺すまで……俺はまだ負けてない」

「……もういいだろ……。君に勝ち目はないよ……」


 フラムの声はどんどん弱々しくなっていった。


「今……探してるんだ……ここから勝てる策を……」


 しゃがれた声で強気な事を言った。それくらいしか出来なかった。


 意識がさらに混濁していく。抵抗する力もなく、勝算を探る思考力もない。


 しばらく沈黙が続いて、二人の動きが止まって、呼吸音以外の全てが消えた。


「……なんで……なんでこんなことになっちゃったのかな……。殺したくなんてないよ……」


 レイピアの(つば)が地面に落ち、カラカラと音を立てた。


 フラムは泣いていた。紅く美しい瞳からとめどなく涙が溢れて、彼女の頬に輝いて流れ落ちた。


「分かっていたよ……全部僕のせいなんだって……。僕が()()()()()創らなければ……人間になりたいだなんて思わなければ……こんなことにはならなかったのに……!」


 天に昇った雄大な太陽が少女の背中を照らしていた。


 服は血みどろに濡れ、全身は傷だらけ。とても少女の姿とは思えない悲惨な結末がそこにあった。


「君たちとの家族ごっこは本当に楽しかったよ。もうずっとこのままでいいと思うくらい、とびきり楽しかった……。なのに僕は……君を殺そうとするなんて……!」


 フラムの涙は絶えなかった。何度も何度も目を擦り、声を抑えることも無く泣き続けた。


「フラム」

「……アル」


 世界が止まったような気がした。言葉では表現出来ない全てがそこには詰まっていた。


 俺は体を何とか起こして、動く右腕で彼女を抱きしめた。


「……アル、君の理想を……君の正義を僕は信じるよ」


 フラムの胸が白く光り、その輝きの中から正八面体の結晶が現れた。フラムはそれを俺の左手に置いて握らせると、立ち上がって一歩引いた。


 たちまち視界がぶわっと明るくなり、真っ白な0と1が世界を置換していく。地面が、木々が、青空が、何もかもが0と1に消えていく。


「これで君は『願いの結晶』と『アクセスキー』を所有した。さあ、願うんだ。君の願いを……」


 フラムはそう言うと、俺に背を向けて空を見上げた。


 俺は深呼吸して、目をつぶって心の中で唱えた。


 ――――この世界を、元通りに。


 ただのゲームだった、あの頃に――――。


「アル!!」


 世界が真っ白に染まっていく。0と1が激しく入り乱れる。


 フラムは振り返って、何度も躊躇って、そして最後に一言だけ言葉を紡いだ。


「…………ありがとう」


 その瞬間、全身に鳥肌が立った。


 フラムの体が0と1に飲まれていく。


 俺は立ち上がり、無我夢中で駆け出した。


「必ず!! 必ずお前を迎えに行くから!!」


 0と1の波が俺を飲み込み、フラムとの距離をさらに引き剥がした。全身が0と1に置換されても、俺の意識は少しだけ残っていた。


「だから……待ってろよ!!」

 010110100101010111010001101010100011101101101010111101010110101001011101110001011010110101010110001101110101101010001010101110101101001010101110100011010101000111011011010101111010101101010010111011100010110101101010101100011011101011010100010101011101011010010101011101000110101010001110110110101011110101011010100101110111000101101011010101011000110111010110101000101010111010110100101010111010001101010100011101101101010111101010110101001011101110001011010110101010110001101110101101010001010101110101101001010101110100011010101000111011011010101111010101101010010111011100010110101101010101100011011101011010100010101011101011010010101011101000110101010001110110110101011110101011010100101110111000101101011010101011000110111010110101000101010111010110100101010111010001101010100011101101101010111101010110101001011101110001011010110101010110001101110101101010001010101110101101001010101110100011010101000111011011010101111010101101010010111011100010110101101010101100011011101011010100010101011111010101000111011011010101111010101101010010111011100010110101101010101100011011101011010100010101011101011010010101011101000110101010001110110110101011110101011010100101110111000101101011010101011000110111010110101000101010111010110100101010111010001101010100011101101101010111101010110101001011101110001011010110101010110001101110101101010001010101110101101001010101110100011010101000111011011010101111010101101010010111011100010110101101010

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