25 お前のせい
雪崩のように飛び込んでくる人間の波を前に、俺はゆっくりと剣を構えた。
もう体が覚えているだけじゃない。頭でも理解している。
でも今までと少し違うのは――――これは遊びではないということだ。
今から切る人間は、単なるアバターではない。
殺せば殺すだけ、現実に後遺症を残す人間が増えていく。
その罪の意識を背負いながら、俺はこれから殺戮するんだ。
それが俺の覚悟とケジメだ。
「…………!!」
ピシャッと血飛沫が飛んだ。頬に生暖かい温度、手に伝わる生々しい感触。
俺の後ろでどさりと人が倒れる音が聞こえた。
それが俺の心のタガを外した。
「フラム……こいつらに一体何をしたんだ? 罪のない人間を大勢閉じ込めて……挙句の果てに人形みたいに操っているのか?」
ふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じた。次々と押し寄せる人間はみなまるで正気を失っているかのようだ。
俺の周りを取り囲んだ冒険者たちが一斉に襲いかかってきた。俺はすかさず地を蹴って後ろへ飛び、一人ずつ順番にいなし、肉を斬る。たちまち周囲にバタバタと死体が転がっていく。
「なあフラム、お前はこんなクソ野郎じゃなかっただろ! いつも笑顔で、賢くて、誰からも愛される。そんなお前はどこに行っちまったんだよ!?」
「……最初から僕はそんなんじゃない!!」
背後から悲痛な叫び声が響いた。とっさに振り返ると、すぐ目と鼻の先までフラムの腕が伸びてきていた。
身を引きながら剣を振り下ろす。刃はフラムに到達するよりも前に謎のバリアに妨げられ、ギャギャっと鈍い音を立てた。
「言っただろう、もう後戻りはできないと! 二年前、再構築が始まった瞬間から、こうなることは決まっていたんだ!」
フラムは一旦食い下がると、瞬間的に0と1になって消えた。同時に操られた何人もの人間が俺に飛びつき、その切っ先が腕を掠めた。
何とか振りほどいて喉を斬る。さらに一歩下がりまた別の人間を斬り裂いて距離を取る。
腕からじんわりと血が流れた。さすがに一人では相手にしきれない。
「少年、君は僕が何者なのか気づいているんだろう? なのに君は気づいていないフリをしている。いや……理解しないように努めているのかい?」
左手からフラムの声がした。
「僕に残された道は二つ。風鳥に投降して存在ごと抹消されるか、自分のエゴを貫き通して永遠の楽園を築き上げるか。僕がどちらを選んだかなんて明白だが……君ならなぜ僕がこうしたか分かるはずだ」
今度は右手から声が飛んできた。
「……人間になりたかったんだよな」
俺は静かに、なるべく感情を押し殺して応えた。
0と1が一点に集まり、人の姿を形作った。フラムのルビーのような瞳が俺を捉え、そして意味深に微笑を浮かべた。
「どれだけ人間のマネをしても、自律する思考を持ち合わせても、君たちと同等の感情を獲得しても、所詮僕は『AI』。ただのプログラミングに過ぎなかった。それがどんなに苦しかったことか。どんなに君たちを羨み、妬んだことか」
フラムの体は浮いていた。バチバチとけたたましい音が鳴り響き、同時に稲妻が彼女の周囲を取り囲んだ。
「この世界でなら僕は『人間』になれる。いや……それ以上になれる」
電流が地面を這い、全身の毛が逆立った。ふわふわと全身が浮いていくような感覚とともに、俺の第六感が危険信号を発信した。
マズい――――。
KA-BOOOOM!!!!
鼓膜を破るような爆発音と衝撃が周囲に飛び散った。
落雷だ。
俺は全身に少しの痺れるような感覚を覚え、とっさに目をつぶっていた。しかし雷に打たれたにしては痛みが無さすぎる。
恐る恐る目を開けると、俺の周りには俺を取り囲むようにドーム状のバリアが形成されていた。
驚く間もなくあたりの地面に次々と巨大な魔法陣が現れ、各所で大爆発を起こす。周辺の人間はあらかた吹き飛び、随分と見晴らしが良くなった。
「アル、私も戦います」
背後から現れたのはスノーホワイトさんだった。
フラムは少し怯えた顔をして、きっと彼女を睨んだ。
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