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24 Are you the one I've waiting for?

 気が付けば俺は草むらの上に倒れていた。少し重い体を持ち上げ、辺りを見回す。


 深い森と清らかな泉。その水は透き通るような青をしている。


 近くには白髪のスノーホワイトさんが頭をさすり痛そうにしていた。


 ここは現実に戻る直前、俺たちがいた場所だ。


 そこにはもう、ペルシャの遺体はなかった。


「……何事もなく戻れたようですね。またフラムの攻撃にあっていたらどうしたものかと」


 スノーホワイトさんは立ち上がって数歩歩くと、立ち止まって黙りこくってしまった。


 俺も同じように立ち上がる。ポケットの中に手を突っこむと、その手には虹色の結晶が握られていた。『願いの結晶』は確かにまだ俺の手元にある。


「気をつけてください。何か……変です」


 スノーホワイトさんは神妙な面持ちでそう言った。


 周囲を注意深く観察すると、確かにどこか違和感を感じた。


 まるで映像にノイズが入っているかのように、視界が微妙に霞んでいる。木や地面といったあらゆるものがこの世界に適合していない。そう思わせるように不気味だった。


「……とにかく、私はフラムに見つからないように身を隠します。一応忠告しておきますが……平和的に終わると思わないことです」


 彼女はそう言い残すと、深い森の中へ飛び込んで行った。


「……たとえどんなことがあろうとも、か……」


 俺は大きく息を吸って、はやる心臓を落ち着けた。そして一歩踏み出し、何分かかけて森を出た。


 到着したのは、先程フラムと別れた場所。スノーホワイトさんと初めて出会い、初めてこの世界に疑問を持った場所。


 里の中心にそびえる大樹、その前だ。


 俺はほとんど無意識にその大樹を見上げた。自身の体より何十何百倍も大きなたくましい樹木。幹から伸びる枝の一本一本が俺の体よりも大きい。


 最初は生命力溢れる『大自然の象徴』のように感じた。


 今は全く別の印象だ。


 これはまるで、『創作の象徴』であった。


 そよそよと風が吹いた。風は段々と強くなり、髪をなびかせ、頬を切り裂かんとし、そして『0』と『1』を運んだ。


 目の前が真っ白に埋め尽くされる。おびただしい数の『0』と『1』が俺の周りを取り囲み、この世界から一切を排除した。


「いるんだろ、フラム」


 何となく、そんな気がした。


 背後から小さな足音が聞こえた。俺はゆっくりと振り返り、彼女と正面から向き合った。


()()……現実は楽しかったかい?」


 フラムのどこまでも透明な銀髪が01にチカチカと点滅する。


「楽しくはなかった。こっちの方が充実してるよ」


 俺は嘘偽りなく答えた。フラムは嬉しそうな表情を浮かべ、でも同時に悲しそうに目を細めた。


「……それでも……君の心は()()に奪われてしまったんだね」


 フラムの口調はどこか萎れていて、いつもの勝気な勢いはどこにもなかった。


「なあ、もう終わりにしよう。こんな馬鹿なことはやめるんだ。お前の居場所は必ず俺が作るから」


 フラムは返事をしなかった。少し俯いて、何か言いたげに唇を噛んで、肩を震わせていた。


「馬鹿なこと……? 違う、大真面目だよ。最初から後戻りなんてできなかったのさ……僕も風鳥も。そして()()、君もだ」


 暴風が首筋を通り過ぎた。『0』と『1』が砂嵐のように吹き荒れ、そうして爆発とともに消え去った。


 視界に緑が戻っていた。エルフの里特有の石細工が煌びやかに輝き、幻想的な調和を見せる。


 フラムの瞳は凛々しかった。彼女にはもう躊躇は残っていない。


「これは僕の()()を賭けた戦いだ。もうここまで来てしまったら、誰一人として引き返せはしない……。君や風鳥のように、僕だって覚悟を決めたんだッ!」


 彼女の背後には二万をゆうに超えるであろう大量の人間が武装していた。同じFランク冒険者だった者、街の商人から冒険者ギルドの上層部まで。


 その全てが、俺に明確な敵意と刃を向けていた。


「『無敗の剣聖』と畏怖された君も、この人数には勝てないだろう! 『願いの結晶』さえあれば何度だってやり直せる! たとえ君が死のうとも!! 僕は必ずやり遂げるぞ!!」


 フラムはまるで自分に言い聞かせるように叫んだ。彼女の号令とともに、二万人のプレイヤーが一斉に俺を殺しに駆け出した。

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