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21 幸せな夢

昨日更新できなくてすいません!

 風鳥さんの背中は見た目よりも随分小さく見えた。


 いつもの涼しい顔も、冷静な立ち居振る舞いも、今は見る影もなかった。


「私だってこんなことしたくない! ペルシャだってあんな殺し方したくなかった!!」


 風鳥さんは背中を向けたまま嗚咽混じりに叫んだ。


「この二年間、私たちがどれだけの犠牲を払ったか……! 世間の非難に、あなた方のご家族の罵声罵倒に、私たちがどれだけ耐えてきたか……!」


 ふるふると肩を震わせながら、彼女は振り返って俺を強く睨んだ。瞳に大粒の涙を浮かべ、今にも泣き出しそうな表情で。


「最初からこうしておけば……こんな苦しむことも無かったのに……。希望なんて捨てていれば……! 手を汚すことを躊躇わなければ!」


 風鳥さんは切れそうなほど唇を強く噛んでいた。そして少しずつ表情が暗くなり、次第に顔が下を向くと、重力に従って自然と涙がこぼれた。


「……もうあなたには関係の無いことです。アークエデンを創ってしまった者として……私が終わらせます」


 冷静さを取り戻した風鳥さんは、白衣の裾で涙をぐいと拭い、そのまま部屋をあとにした。


 俺は少しの間動けなかった。色々な思いが交錯して、色々な記憶が混じりあって、俺自身も何が正しいのか分からなくなりそうだった。


 ――――本当にこのままでいいのか?


 そんな疑問が俺の頭の中を強く支配する。


 思えば俺はずっと誰かの()()()()だった。


 フラムに同行を強要され、風鳥さんには半ば強引に協力するように迫られ、そして今、再び風鳥さんの指示通り動こうとしている。


 そんなんでいいのか――――!?


 アークエデンの記憶が、あの世界を必死に生きる人達の顔が、そしてフラムの小さな姿が脳裏に過ぎった。


 あの世界が夢であろうとも……風鳥さんの殺戮を黙って見過ごすなんてできない。


 そう思った瞬間から、俺の足は動いていた。扉を勢いよく開き、廊下を走り、そして大声で叫んだ。


「待ってください! 俺を……俺も連れていってくださいっ!!」


 風鳥さんは白衣を翻し、困惑した表情を浮かべた。


「な、何を言い出すかと思えば……あなたが戻って何になるというのです!?」

「うぅ……それでもみんなが殺されるのを黙って見てるなんてできません!! それに……! フラムは……どうなるんだよ……!」


 風鳥さんの鋭い眼光が俺を縛り付けていた。彼女は眉をひそめて深く呼吸すると、不服そうに呟いた。


「フラムはアークエデンに完全に隔離します。アレは生まれてきてはいけなかった……。全ての元凶はアレなのです! 責任は取らせます……!」


 風鳥さんは議論を切り上げ、踵を返して足早に廊下を進んで行った。俺は少し言葉に詰まって、またその場で叫んだ。


「……待って、待ってください! 『願いの結晶』はまだ俺が持ってます! それを使ってみんな解放すればいい! フラムも……それで助けられるじゃないか……!」


 風鳥さんはもう一度立ち止まった。そして背中を向けたまま、彼女も叫んだ。


「『アクセスキー』はフラムが持っているんですよ!? 上手くいくわけがない。逆にあなたが戻らなければ『願いの結晶』を使える人間はもういないのです。確定した勝利を捨ててまで、そんなことをする意味はありません!」


 彼女の言い分は至極真っ当だった。正当性は俺から見ても彼女の方にあると思えた。


 それでも諦めきれなかった。俺にはもう、惨めにすがりつくことしか出来なかった。


「風鳥さんだって殺したくないと言ったじゃないですか……! 殺さなくて済む方法が目の前にあるのに! やってみなきゃわからないでしょう!?」


 また、静寂が場を包んだ。互いに何も言わず、なんの音もせず、ただただ時間だけが流れていった。


 口火を切ったのは風鳥さんだった。


「……少し、落ち着きましょう……お互いに……。あなたとはしっかり話をしなければなりませんでしたね。私は……急ぎすぎていたかもしれません」


 彼女は着いてきてください、と言うと、長い廊下を再び歩き出した。そうして彼女に案内された部屋は、とても質素で殺風景な場所だった。

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