16 燃えて塵となって
その日から殺人鬼の追跡は始まった。
被害者は全員寝ている間に毒を盛られて殺されていて、誰も自分が死んだことに気づいていないかのように安らかな顔だったそうだ。
たった一日で二十人以上のエルフが殺された。昨日は二十八人の人間が殺されていた。殺しは一家全員、全て皆殺しだ。
「なんておぞましい……一体誰がこんなこと……」
ペルシャが寒そうに腕を擦った。俺もこの話を聞いて鳥肌が止まらなかった。
魔物が人を殺したなんて話はごくたまに聞く。最近は身の程知らずの冒険者が、強大な魔物に挑んで帰ってこなかったなんて話もある。
だが今回は全て桁違いだ。
魔物ではない誰かが、たった二日で五十人近く殺している。
街の人たちもこの話を知ったのか、通りを出歩く人はいつもより少なかった。誰もが硬い表情をして、他人から距離をとっているように見えた。
「犯人はエルフの里とこの街を行き来したという事だな。それに最初の犯行はエルフの里……ペルシャくん、どう思うね?」
フラムはペルシャに鋭い視線を飛ばした。ペルシャは少し俯いて、困惑しながら答えた。
「つまり……エルフが犯人だって言いたいんですか? 里の人はみんないい人です……殺人なんて……」
「いい人悪い人なんてのは状況によって変わるさ。ただの猟奇殺人鬼なら話は早いが、もっと厄介なのはそういう奴なんだよ」
フラムは淡々と、かつ少し焦るようにそう言った。フラムはとにかく、としきり直すと、指をクルクルと回した。
「この街にいるよりエルフの里へ行った方がいいんじゃないか?」
「……確かにそうですね。信じたくないですけど……」
歩き出した二人の足取りはちぐはぐだ。
フラムはどこか急いでいるように早足だったが、 ペルシャはとぼとぼと気乗りしない歩幅だった。
俺はなんだか釈然としなくて、二人を呼び止めた。
「おい待てよ。どう考えても先にこの街で情報収集した方がいいだろ」
ペルシャは元気がなさそうに振り返り、それもそうですね、と頷いた。
一方フラムは立ち止まって視線だけこちらへ送ると、一瞬沈黙した。
「……情報なんて出ないだろう。一家全員毒殺だぞ?」
「それでも直近の犯行はこの街だ。もしかしたら怪しい奴を見たって人がいるかもしれないし……」
フラムは少し煩わしそうに眉をひそめ、また一瞬の沈黙の後に大きめのため息をついて俺の元へ戻ってきた。
「確かに君の言うことの方が論理的だ。悪かったよ少年」
この時のフラムはどこかおかしかった。全体的になにか急いでいるような……まるでもう犯人が分かっているような、そんな感じだった。
そして今、結論から言えばフラムの行動は正しかった。丸一日かけて聞き込みをしても、誰一人としてそんな怪しげな奴は見ていないという。
ただ収穫がなかった訳では無い。
殺された人たちも皆、恨まれるような人間ではなかったらしい。彼らには『住んでいる場所が近い』以外に共通点はなかった。当然といえば当然だが、この大量殺人はほとんど無差別的に行われていることがわかった。
この二日間、誰にも見つかることなく、全員寝ている間に毒殺。
フラムの言う通り、ただの猟奇殺人鬼にしては手が込みすぎている。それにこんな手法では、人を殺した感覚なんてそうたいしたものではないだろう。
猟奇殺人鬼がそんな殺しで満足するだろうか?
日が暮れてしばらくして、俺たちは一度家に戻った。
「今日は万が一に備えて交代で寝よう」
街にはギルドから派遣された大量の警備兵が増員してパトロールを強化していたが、念には念を入れて俺たちも殺人鬼を警戒することにした。
幸いなことにこの夜は特に異変もなく、無事に朝を迎え心配は杞憂に終わった。
街は朝から賑やかだった。皆ひとまず安心したのだろう、外からは安堵の声も漏れてきた。
俺とペルシャも顔を見合わせてほっと一息ついた。
それと同時に、玄関のドアがドンドンと強く叩かれた。
「……なんだ?」
急いで玄関へ向かい、慎重に扉を開けた。外にいたのはギルドの受付嬢だった。
「た、た、たいへんですっ」
彼女は酷く錯乱した様子で、口調も覚束なかった。
「えっ、えっ、える、エルフが」
彼女はバタンと膝から崩れ落ち、ガクガクと震えて涙を流した。
「み、みんなっ、死にましたっ」
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