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15 ながいながいゆめのなかで

 長い夢だった。


 どんな夢だったかは……覚えていない。


 ただ心の暖かい感じと、幸せな気持ちだけは残っていた。


「おはよう、少年」


 少女の声で少しずつ目が開いていく。


 ぼやけた視界、後頭部に残る柔らかな感覚。


 世界が鮮明になると、仰向けに倒れる俺をフラムが覗き込んでいた。


「膝枕というのは疲れるね。でも、もう少しこのままでいい」


 彼女はその小さな手で俺の頭を優しく撫でた。


 ふわふわとした気持ちが俺の心を満たして行った。


 そして同時に、目覚めた時に感じた微妙な不安も消し飛ばした。


 ――――何か、大切なことを忘れている気がする。


「少年、もういいんだ」


 フラムの言葉がずっと脳に溶け込んで、俺の意識の奥深くへと染み込んで行った。


「……じゃあ……もう……いいか……」


 どうしてか自然に涙が流れた。フラムはそれを指で拭うと、口元に笑みを浮かべた。


「あれ!? こんなちっちゃ可愛い子に膝枕してもらってるなんて、いいご身分ですねアルくん!! フラムちゃんっ、私にもしてくださいっ!」


 バタンと大きな音と共にドアが勢いよく開いた。驚いて飛び起きると、侵入者はフラムに抱きついて彼女の膝に頭を乗っけた。


「ふあああフラムちゃんの太もも柔らかいですねぇ〜! 食べちゃっていいですか?」

「ペルシャ君、君の頭は重いな」


 フラムはやれやれと溜息をつきつつも、まんざらでもない表情でペルシャの頭を撫でた。ペルシャは幸せそうに目をつぶってニマニマと笑っていた。


 俺はそれに少しの既視感を持ちつつも、何かを思い出せないままでいた。ほんの少しだけ頭を悩ませて、そしてもう何も考えないことに決めた。


『願いの結晶』だとか『アクセスキー』だとか、今になってはどうでもいい事のように思えた。もうこの世に居ない姉さんのことを気にかけていても、仕方の無いようにも思えた。


 何よりこの日常を……三人で過ごすこの楽しい毎日を、永遠に続けていたかった。


 そうして俺は、そっと目を閉じた。


 ◆◆◆


 それから数日経ち、俺たち三人は今日もクエストを受注するために冒険者ギルドへ赴いた。以前は少々危険なクエストに出ることもあったが、一度死にかけてからはそういうクエストは受注しなくなった。


「ふあぁ……アルくん勤勉ですね。毎朝こんな早くにギルドへ行かなくてもいいのに」

「あぁごめん。なんだか落ち着かなくて」


 ペルシャは眠そうにあくびをして目を擦った。


 ここ数ヶ月で冒険者ギルドは大きく変わった。


 いや、俺のSランク昇格が発端だったのだろう。


 あの件を皮切りに冒険者たちは冒険者ギルドの欠陥に気づいた。クエストを受注せず、身の丈に合わない強大な魔物へ戦いに挑む者が後を絶たなかったのだ。


 そのうちの何割かは十分な成果を持って帰って無事BやAに昇格したが、その他大勢は返り討ちにあって大量の怪我人が発生した。


 結果として現在、Fランク冒険者は街から居なくなった。ほとんどが昇格したか、今も病院で療養中だからだ。


 Sランクになったというのに、俺は今でも開門と同時にクエストの受注に勤しんでいる。


「あ、アルさん! おはようございます。実はぜひお願いしたいことがありまして」


 門が開くと同時に、受付嬢がとてとてと走ってきた。


「はあ……危険なやつですか」

「ええ……。実はここ数日、何人も死亡者が出ているのです」


 俺たちは目を見合せた。そして嫌な予感がした。


「また無理して強い魔物と戦っている冒険者がいるんじゃないですか? それに危険な仕事は――――」

「いえ。全員()()なんです」


 ピリリと背筋に寒気が走った。今まで感じたことない種類の恐怖が心の奥底から這い上がって来るような感覚がした。


「えっ……それってつまり……()()()()()()ってことですか!?」


 ペルシャが悲鳴に近い声を上げた。受付嬢は静かにこくりと頷くと、深々と頭を下げた。


「お願いします。信用できる方にしかお話できないことなのです。どうか……殺人鬼を見つけてください」


 瞬間、フラムとペルシャの笑顔が脳裏をよぎった。あの幸せな日常が鮮やかに蘇ってくる。


「……そんな危ないこと出来るわけ――――」

「いや、やろう。少年」


 唐突に話に割り込んだフラムは、少し恐ろしい顔つきをしていた。

「面白い」「続きが読みたい」


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