13 現実とあの世
ログイン、ログアウト、世界の逆転。
意味不明な言葉の羅列に俺は頭を抱えた。
「……こうなることは想定通りでしたが、実際に直面すると困りましたね。現実に帰還した者は向こうの記憶を失う。かと言って記憶を保持したまま現実へ帰還しても、現実の記憶が戻ることは無い……」
スノーホワイトさんは静かに語り始める。
「先程も言いましたが、今あなたに全てをお話する時間はありません。要点だけ掻い摘んで説明しましょう」
彼女はペルシャの頭に被さった球状の物体に視線を落とした。
「あなたがいたのは、元はゲーム……『アークエデン・オンライン』の世界です。そして私はその開発者の一人、名を『風鳥 雪花』といいます。今のあなたにはなんのことかさっぱりでしょう。とにかく、あの世界は私が作った幻想に過ぎないということです」
「はぁ……?」
彼女の語りは俺が理解しているかなどお構い無しと見えた。
「世界の再構築が起きた時、私は必死に抵抗しました。私は一時的に記憶を喪失しましたが、結果、世界の再構築は不完全な形で終わったのです。あなた達が『常世送り』と呼ぶ事象は、世界の不完全さに気づいた者達がシステムの異常として検出され、アークエデンの世界から追放されることで起こります」
スノーホワイト――――風鳥さんはふぅと一息つくと、「ここからが本題です」と仕切り直した。
「私の目的はアークエデンの世界に閉じ込められた全ての人間の救出、及びアークエデン・オンラインの完全なる破壊です。しかし再構築とともにアークエデンの世界に外部から干渉することは出来なくなりました。残された道はもはや、アークエデンで『願いの結晶』と『アクセスキー』を揃える以外に無くなったのです」
思いがけないワードが飛び出し、俺は少し驚いた。ここまでの話を全て理解することは不可能ではあったが、『願いの結晶』と『アクセスキー』のことは何とか理解することが出来た。
「フラムも言ってた……。それを集めてどうするんです」
「……知らないのですか? 『願いの結晶』は持つ者の願いを叶え、『アクセスキー』はその力を起動するための鍵。私はその力で、閉じ込められた全ての人間を解放します」
願いを……叶える?
急にメルヘンチックな話になってしまった。
だが彼女によれば二年前、一度このふたつは揃い、『世界の再構築』とやらをした。彼女の今までの説明が全て本当ならば、フラムがアレを追い求めていたことにも納得が行く。
「あれ……じゃあなぜ俺を? 自分で探して使えば……」
「誰でもいいわけではないのです。『願いの結晶』は使用者を品定めします。フラムは人間の器を作ってアークエデンの世界に降り立ち、未だに何とか耐えているようですが、彼女に『願いの結晶』を使う資格はありません。かくいう私も、つい最近『願いの結晶』へのアクセス権を剥奪されました。フラムが勘づいたのでしょう。彼女は日に日に力をつけています」
風鳥さんは淡々と、かつ情熱的に訴えかけた。
「忘れているだろうけど、二年前のあなたは間違いなくアークエデンで一番の実力者でした。ただの一度も敗北したことの無い、『無敗の剣聖』などと呼ばれていましたね。あなたには『願いの結晶』を扱う資格がある」
ふと昔のことが頭をよぎった。
『前世が最強の剣豪かなんかだったんじゃないか?』
以前フラムは、確かに俺にそう言った。
「アル。あなたの協力なしでは皆を救うことはできません。時間が経てば経つほどフラムは強大な力を持ち、アレの目論見通りに事が進んでしまいます」
風鳥は俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。彼女の目に映った俺は、彼女と同じ黒髪黒目の見知らぬ人間であった。
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