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11 ゼロとなれ

 部屋は汚くボロボロで、長い間使われていないことがひと目でわかった。積み上げられた本には雪のように厚いホコリが被っている。


「私は受付にいますので、お帰りの際はお立ち寄りください」


 受付嬢はぺこりと一礼すると、優しく扉を閉めた。ガタついた扉はそれでもキリキリと嫌な音を立てる。


 扉を閉めたと同時に舞ったホコリが鼻に入り、思わず(せき)き込んだ。涙目になりながら床に転がる本を踏まないよう、少しづつ進んでいく。


「……?」


 それから二、三歩進んだ先、やけに綺麗な本が目に留まった。ホコリだらけのテーブルの上に、ホコリの被っていない本。まるで血のように赤い表紙で、古い本とは思えないほど色鮮やかだった。


 反射的に手に取る。表紙は書かれていない。何気なくパラパラとめくってみると、驚いたことに最初の数ページは全て白紙だった。


「なんだ……これ……?」


 そのままページをめくり続ける。ところどころに文字が現れるが、それらは全て意味をなしていない。読み進めていくと、以前は普通の本だったのではないかと感じた。


 繋がった文章を……()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ページをめくるにつれ文字は加速度的に増えていき、徐々にそれは文を形成し、そしてついにあるページを境にして、それは本来あるべき本の姿を取り戻した。


「これは……!?」


 魂が震えあがる音がした。全身に悪寒が走り、背筋が凍りつく。


 この本は『歴史書』だ。


 そしてその歴史は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 正体不明の恐怖に襲われ、思わず本を机に放り投げた。バサりとホコリが舞うと、それと同時に時計の針が夜の十二時を告げた。


「――――!?」


 ペラリと本がめくれた。ひとりでに。


 机の上の羽根ペンが宙に浮き、最新ページに今日の日付を記した。


「驚きましたか?」


 背中の方から女性の声がした。俺は驚いて振り返ると、そこには白く美しい髪のエルフがいた。


「スノーホワイトさん……!?」

「それは私が作ったものです。四年前……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 彼女は儚げに笑うと、自嘲気味にこう呟いた。


「もっとも再構築より前のデータはほとんど壊れてしまいましたが」


 ………。………。


 部屋中に文字のような塵が舞っていた。吐き気と頭痛が唐突に訪れ、思わず机に手を着いた。


「ど、どうしてここに……?」


 呼吸が荒い。著しく思考能力が低下しているのか、その程度の質問しかできない。


「あなたを待っていたのです。待ちくたびれましたよ」


 彼女はじっと俺を見つめると、俺に構うことなく話を続けた。


「おかしいと思ったことはありませんか? この世界の人間は唐突に消えます。エルフも人間も若い者しかいません」


 ……………0。


 彼女は淡々と言葉を紡いでいく。


「あなたの父母はなぜいないのですか? 二十六の私と十八のペルシャが親子なのはなぜですか? あなたと私だけではありません。この世界の家族構成は歪すぎるのです」


 ……1…………0……。


 ぐらりと世界が歪んだ。


「な……なんなんだあんた。変な事言うなよ……!」


 膝がつく。猛烈な吐き気と目眩のせいでまともに立っていられない。


「人間とは面白いものです。未知を恐れ現実から目を背ける。にも関わらず知りたいという欲求に抗えない」


 ……1………1………。


「本当はもう分かっているのでしょう。この世界が『作り物』なのだと」

「嘘だッ!」


 反射的に叫んでいた。ふわりと舞った塵が宙を舞い、目の前をひらひらと落ちていった。


 いや、これは塵じゃない。


『0』と『1』だ。


「さあ、戻1ましょう。現世(うつしよ)へ!」


 ズン、と強い重力0感じた。


 世101が真っ白に染っ011いく。『0』と『1』の嵐が全110塗り替10てい1101。


 フ1ム、ペル1001ャ。


 ま00さよなら10言って111ないのに。




 10011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110011001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110011001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110011001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110011001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011001010011010110010110010111001101011001011001100110101100101100101110011010110010110010110010100110101100101100101110011010110010110010111001101011001011001011100110101100101100101100101001101011001011001011100110101100101100110010001101







 聞きなれない、耳障りな音で目が覚めた。


 一定のリズムで、ピッピッと拍を刻む。


 頭に何かが被さっている。体を起こしてそれを外すと、真っ白な部屋一面にベッドがずらりと並んでいた。


「ひっ……」


 そしてその上には、同じ物体を頭にかぶせた人間が何百人も横たわっていた。

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