10 幸せたくさん
「ごめんなさい、気を悪くされましたよね」
受付嬢は俺を応接間へと案内すると、申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「あなたが謝ることじゃないですって……」
「いえ、私も同罪です。この現状を知りながら、何もせず黙って従っていたのですから」
彼女は複雑な表情をしていた。
前々から罪悪感を感じていたのだろうか。当然だが、一職員に過ぎない彼女になにかできた訳でもないだろう。
「……こんなことを言うのもなんですけど、Sランク冒険者も悪くないですよ。それこそ、今までとは比べ物にならないくらい、良い生活ができるはずです」
彼女は部屋の奥の机から書類を取り出すと、一枚一枚丁寧に説明してくれた。書面には彼女が描いたのか、あまり上手ではない絵も入っていた。
「Sランク冒険者には様々な特権が認められています。Sランク冒険者専用の装備品を購入できたり、一般に立ち入ることの出来ない場所にも許可なしで入ることが出来たり……等ですね。基本なんでも出来ると思って貰って結構です」
すごく失礼だと分かってはいるのだが、どうしても絵の方が気になって仕方がない。まるで幼い子がクレヨンで描いたような幼稚さで、正直面白い。
「……? あぁ、この絵私が描いたんです。結構上手いと思うんですけど、どうですか?」
やっぱり彼女が描いたのか。しかも本人は上手く描けていると思っているらしい。
「えぇ……まあ……すごく独特なセンスが光ってますね……」
俺は笑いを堪えながらニコニコと返答した。彼女は満足そうに笑うと、そのまま説明を続けた。
正直内容はあまり覚えていない。話を聞くよりも吹き出さないよう必死だった。
「……これで以上になります。……あ! 一個忘れてました。一応ギルド内の『秘密図書館』にも入ることができます。まあ古い本ばっかりで役に立つとは思えませんけど……」
「秘密図書館……」
俺はその言葉の響きにどこか引っ掛かりを感じた。上手く言葉に言い表すことは出来ないが……何かぞわぞわとする感覚がした。
◆◆◆
それからもう三ヶ月ほど経つ。フラムとペルシャと共に、この街を拠点にして何度もクエストをこなした。
今まで通り薬草を取りに行くこともあれば、強力な魔物の討伐に出ることもあった。
家も持った。三人で住むには少し狭いが、日々宿を探すのにてんてこ舞いにならなくて済むと思うと気が楽だった。
本当に死ぬかもと思ったこともあったが……三人での旅はこれ以上ないほど楽しく、毎日が充実していた。
朝目覚め、昼汗水を共に流し、夜は共に笑いながら食卓を囲む。そんな幸せな生活に、少しずつ慣れていった。
そうしていつしか、俺は姉さんを記憶の隅へと追いやっていた。
……少しの罪悪感と共に。
「ん……アル、どうした?」
ひとつ隣りのベッドからフラムが顔を出した。
「……トイレに行こうと思って」
「ん……そうか……じゃあ僕は寝るよ……」
フラムは眠そうな目を擦って大あくびをすると、そのまますーすーと眠りについた。
俺は立ち上がって、部屋を出た。そのままトイレを通り過ぎ、玄関の扉を開けた。
外は少し肌寒い。ほとんど新月に近いので、月明かりもとても頼りない。
少し歩く。街中は既に寝静まっていた。
「あれ……アルさん? どうしたんですか?」
冒険者ギルドは今まさに閉門しようとしていた。いつぞやの受付嬢は少し困惑しながら俺を招き入れる。
「遅くに申し訳ない。秘密図書館は……どこに……?」
自分でも何をしているか理解できなかった。ほとんど無意識に体が動いていたと言ってもいい。
「あんな場所に? あぁいえ……お連れします」
受付嬢はさらに困惑した様子で先導すると、ひとつの古びた扉の前に俺を案内した。
ボロボロであること以外は、何の変哲もない扉。
扉を開けると、その先には膨大な量の本が積み上げられていた。
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