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第五話 「制服姿のかわいい冒険者」

「……くら!!」


 チュートリアルを終えた俺は、アシュリの言葉とともに白い空間から〈ALO〉の世界に転送してきたわけだが、周りを見渡すに、ここは街の中ではないらしい。

 おそらくここは、街の外の平原だろう。

 視線の百メートルあたり先に光が見え、はっきりとは見えないが恐らく二人、人が立っている。

 

「門番かな」


 っていうか忘れてたけどこの世界、現実世界の時間と季節が並行しているんだった。

 だからこんなに暗いんだな。


「……さみぃ」


 風が吹きつけ、そのたびに俺の肌が寒さに悲鳴を上げている。

 リアルすぎ……この世界。

 実際チュートリアルの時から思っていたけど、ほんとにゲームの世界なのか?

 だが、色々と認めざるを得ないものを見てきたからそこは否めない。


 何もしないことには始まらないので、とりあえず、その門番の人たちのところに行くとするか。早く街に行って温まりたいしね。

 そうして前に十歩ほど進んでいたら___


「うわっ……!」


 突然後ろから何かがぶつかる衝撃。


「……いててー」


 後ろを振り向くと、尻もちをついた女の子がいた。

 お尻をさすったまま上目遣いで俺を見上げてくる女の子に、瞬間心臓がドキッとしてしまう。

 これはあかん。命が持たないと悟った俺はすぐ目を逸らす。


「あのー、大丈夫ですか?」


「あ、うん。俺は大丈夫だよ。ほら見ての通り傷も負ってないし」


 俺は、手を差し伸べて尻もちをついていた彼女を起こす。


「ありがとねっ!」


 その笑顔は、こんなに暗いところでもはっきり見えるくらい輝いていた。

 目は海の奥底、深海のように映るその碧眼は、見た者に虜にしてしまう美しさを誇っている。

 それプラス上目遣いはチートっすよ……。

 髪の毛と肌は雪のように真っ白く、さっきまでいた白い空間で彼女を見ていたら、同化して美しい碧眼と、服しか見えなかっただろう。

 髪の毛には、ピンク色のヘアピンをしていて、それがまた女の子らしさを引き立てている。

 身長は、俺より頭一個分くらい小さく、それでも俺を見上げてくる上目遣いは、非常に危険である。

 最後に問題は服装だ。

 彼女なんと、制服を身にまとっている。中学生が着る制服。

 下は、膝当たりのスカートに黒ニーハイで、上は、紺色を基調としたそこらでよく見る制服………なのだが、メチャクチャ似合っている。

 (さっきこの子が尻もちがついた時に、スカートの隙間からピンク色の何かが見えたことは内緒ね。)


「もしかして、今チュートリアル終わって、初ログインしてきた感じかな?」


 少女がお尻をポンポンと手で払いながら聞いてきた。


「うん。ちょうど今終わったところ。……でも、なんでこんな暗いときに街の外なんか出てたの?」


「それはね……」


 そこで彼女はリンゴのように顔を赤くして、そっぽを向いてしまう。

 人前で言うのは恥ずかしいんだろうか……まあでも、俺だって社会的常識くらい身についている。

 どんなことを言われようと、笑わずに受け止めてあげるのが男としての務めではないだろうか。

 そして彼女は再度俺の方に向き直り、閉じている柔らかそうなピンク色の唇が開き___


「わたしね……世界一の冒険者になりたいんだ!!」


 百人に同じ質問を投げかけたら百人が「無理だろ。ましては中学生くらいの女の子が」と答えるだろうが、俺はそうとは思わない。

 努力する気持ちがあれば、世界一になろうとする希望が消えなければ、いつしかその夢はきっと叶うと俺は思う。


「諦めなければなれるよ」


 だから俺は優しく微笑みかける。


「ありがとう……!だからね、わたし、クエストとかでお金を貯めて、強い武器とか買って、仲間を集めて、それでね……」


 そこで一旦言葉は止まり、まるで、幼い子が将来の夢を語る時のような、希望に満ちた顔を俺に向け___


「世界中の色々な場所を冒険して、世界一の冒険者になるの!!」


 それは、誰にも否定されない、いや、否定できない夢。

 その顔を見ると、なんだか現実世界での自分が恥ずかしくなってくる。

 学校ではイジメられて、家ではひたすらゲームやアニメ……もろもろの、言わばオタク趣味に没頭していて、夢なんてない。未来なんて見ない。そんな人生を歩んできた俺からすれば、この子はまさに自分の理想的な思考の持ち主なのかもしれない。




だから俺は___




この子に一目惚れしてしまった……。




「あ…ごめん……。…わたし、夢中になっちゃって……」


「すごいよ………」


「え?」


俺の声が小さかったのか、一歩俺の方に歩み寄ってきて、さらに二人の距離が近づく。

ダメだ!心臓がバクバクするっ!

この気持ちはなんだ、女の子を好きになる気持ち。味わったことのない気持ち。

それは決して嫌なものじゃない。

恋をするってこういうことなんだな。

だから俺は___


「すごいよ、そんな大きな夢を話せるなんて……だから思ったんだ、君、いい冒険者……じゃなかった、世界一の冒険者になれるって」


 言い直さなくても同じことが言える、いい冒険者にもなれるし、世界一の冒険者にもなれる。


「誰にも譲れないんだからね!だから……だからさ…………わたしと……一緒に冒険……しない……?」


「っ……!!」


 急な誘いに目を見開いて驚く。

 こんなかわいい、ましてや世界一の冒険者を目指す女の子が『わたしと……一緒に冒険……しない……?』だと!?

 だが、断れるはずがないじゃないか。

 むしろ、こっちから頭下げて願いたいところだ。

 しかし、彼女は本気だ。本気で世界一の冒険者になろうとしているんだ。

 だから、生半可な気持ちで決断してはいけないと俺が一番わかっている。それなりの覚悟がないと、いつか彼女を傷つけてしまう。

 だから俺は、この子が傷つかないためにも、生半可な気持ちでこの子の仲間になろうとする人を排除するためにも、この子は俺が守らないといけないと思ったのだ。

 だから俺は告白されたときの返事のように___


「こちらそ、こんな……俺でもよければ、その……よろしくお願いします……」


 そして、二人は顔を赤らめ、顔を逸らし握手をする。



____



 

 そして、お互いフレンド登録をして、街の入り口のところまで歩く。

 フレンドで彼女のプロフィールを確認すると、名前は『ヒナ』って言うらしい。

 可愛い名前だ……。


「トウって言うんだ、かっこいい名前だね」


「そんなことないよ、ヒナだって素敵な名前だ」


「ありがとう……自分でも気に入ってるんだ……この名前」


 隣を歩くヒナをみると、またしても顔を赤くして、人差し指でほっぺを掻いて、下を俯いてしまう。

 照れ屋さんなのだろうか、だが、照れてる顔が……なんというか……とにかく可愛い。

 そして俺とヒナが確認しておかないことを思い出したので___


「あのさ、これからお互い一緒に冒険とかしていくわけじゃん」


「うん」


「リアルの年齢公開しとかない?」


「いいよ~。って言ってもこの姿でほとんどわかると思うけど」


 フレンドのプロフィールのところに、年齢公開申請と書いてあるところをお互いタップする。

 すると、『お互いの申請が完了しました』と表示されて、俺の画面にはヒナの年齢が表示された。


「14歳ってことは現実世界で中学二年生ってことか」


「うん!そうだよ。えーと、トウくんは16歳だから高校一年生かな?」


「うん」


 ふぅ~。ちゃんと見た目通りの年齢でよかった。

 でも、あの夢を語る時の顔は、夢を追う若い少女って感じだったから俺も一目惚れしちゃったのだが。

 まあ、その時点で半ばそのくらいの年だろうと確信していたけど、しかっり確認できてよかった。


「でも、その服装ってどうして?」


 俺が気になったのは、制服姿のヒナ。

 わざわざそんな服装をしなくたって、とりあえず安い鎧とか買って少しでも防御力補正でも付ければいいのに。


「まあそれは、街に入ってゆっくり話すとしようじゃないか」


 声をおそらく王様っぽく変えて腕を組んだヒナは、初めての仲間でワクワクしているのだろうか。


 さほど遠くはなかったので、ヒナと話しているとすぐ門番がいるところまで来れた。

 門番の人は、鎧兜に身を包み、右手には彼の身長程の長い槍を持っている。

 そして、俺を一瞥するなりすぐにヒナの方に視線を移し、彼女が無事なことを確認して安堵の息を漏らした。


「ヒナさん、夜遅くまでお疲れ様です。ご無事で何よりです」


「ううん。Dランクのクエストだったから、そんなに大変じゃなかったよ。夢中になってクエストの指定数より二倍くらいの数のウルフを倒しちゃったけどね」


「そちらの方は……」


「あー、名前は『トウ』って言ってね、さっき初めてログインしてきて、たまたま出会ったから少し話してここまで一緒に来たんだ」


 ヒナが俺を紹介するや、門番の人の方を向いて、「どうも」とお辞儀をした。


「聞いて聞いて!トウくんね、私の初めての仲間なんだ!」


 ヒナが誇らしく仲間ができたことを言うと、門番の人の顔は見えないが、まるで娘に初めての友達ができた時の親の顔が兜越しに伝わってくる。


「さようですか。よかったですね」


「うん!」


 そんなこんなで街の中に入り、ヒナ曰く俺たちが今通った門は、西門らしい。

 北門は、街の最北端に巨大な城があるので門はないが、西と東と南には門があるのだ。


「じゃあこれに乗って、中央の噴水広場に行こう!」


 これとは、公式サイトの【舞台となる街】で見た、タイヤがなく、ハンドルがあって、立った状態で操作して、宙に浮く乗り物。

 俺は、ヒナの後ろに乗り、しっかり肩を掴んで___


「出発おしんこー!」


 そんな合図で十メートルほど上がって、中央に向かって進んだ。

 っていうか、この距離でヒナと密着していると、女の子特有の甘い、そして理性を失ってしまいそうになる危険な匂いが、俺の鼻腔をくすぐった。

 初めての好きな子の匂い……。もういい!着くまでこのにおいを存分と味わってやる!

 変態?ふんっ、百も承知だこんちくしょう!



___




「着いた~!」


 着いて謎の乗物から降りた途端、ヒナが伸びをしながらそう言った。

 俺はというと、あれから15分くらいずっと堪能してました。はい。

 ふう。いい香りだったぜ。危うく理性を失いそうだったが。

 だがしかしこの街、半径3キロメートルくらいある。

 かなり大きな街だが、初期ログインの人たちがみんなこの街に来るって考えたら、このくらいの大きさで良いのかな。


「それじゃあ、すわろっか」


「うん」


 俺が少し考えてる間に、謎の乗物を置いてきてたらしく、戻ってきて俺にそう促した。

 夜なのだが街灯のおかげでかなり明るく、その茶色の光はオシャレで、人も少なくシンと静かなのがまたいい雰囲気を出している。

 何組かのカップルがいるくらい。

 そして噴水を囲むようにベンチがあって、適当に開いているところに座る。

 そして、驚いたのは、ベンチの前にある小さい暖炉。

 寒いので、とてもありがたい。


「じゃあ、まずわたしがなんで制服なのかについて話すね………」


 そう言って、顔が少し暗くなって下を俯いてしまう。

 でも、すぐ取り繕った笑顔で俺の方を向くと___


「驚くかもしれないけど……聞いてくれる……?」


「うん。もちろんだよ」


 そして、暖炉の方に目線を移し、どこか昔を懐かしむようなそんな顔で語り始めた。

 それはいい過去を懐かしむ顔ではなく、少し悲しい過去を思い出すような顔。

 暖炉に照らされた顔は、それをより明確にしている。

 だが、ヒナが次に言った言葉は、俺の予想を大きく上回る衝撃的なものだった………。






「わたし……現実世界の身体………寿命が残り一か月もないんだ……」

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