第一話 「〈All Life Online〉通称〈ALO〉」
雨が傷にしみて痛い。
帰路の途中、今日もクラスの奴に殴られた箇所を見る。
主に腕、腹、足に傷を負っている。
奴らも頭がいいのか知らんが、顔辺りは殴ってこない。
なぜなら、俺がイジメられていることを親や先生にバレないため。
俺が今の今までイジメられていることを、誰にも言っていないということを知った上での考慮なのだろうが。
俺だって面倒ごとに巻き込まれたくないから、誰にも言ってないだけだ。
正直慣れた。
慣れたって言っても、イジメに慣れただけであって、殴られた痛みに慣れたって訳ではない。
こんな痛い思いをするなら、正直死にたい。
殴られる頻度は不定期だが、約一週間に一回で、物を隠されたり、金を取られることなんかは日常茶飯事。
まぁ、近いうちに自殺も頭に入れとくか。生きててもしゃーないし。
俺がイジメられていることを、クラスの奴らは全員知っている。
そして、みんながみんな見て見ぬふり。
俺がイジメられてる理由は、身長も高校二年で157センチと低く、引っ込み思案で誰とも話そうとしないから、イジメの対象にされたんだろう………きっと。
今も傘を差さずに、帰路を歩いている。
それも、クラスの奴に奪われたからな。
寒さなんて感じない。
生きている感じすらしない。
ずぶ濡れのまま、家に着く。
「……ガチャ」
できるだけ音を立てずに玄関のドアを開けて、家に入る。
このまま母に遭遇しないでシャワーを浴びに行きたいので俺は靴を脱ぎ、廊下が濡れないため靴下も脱ぎ洗面所に向かう。
しかし、洗面所のドアの前まで来たところで、母と遭遇してしまう。
なんてついてないんだ………。
「あら、そんなに濡れてどうしたの?」
「傘、壊れてたんだよねー」
母は、俺がイジメられていること知らない。
「でも、あの傘先週買ったのよ?そんなにすぐ壊れるかしら?」
頭の上に『?』を浮かべている母だが、俺はそんなこと知らなかった。
「あ、なんか、道中で落としたら、く、車に踏まれたんだよね~」
少し焦った喋り方になってしまったが、「えへへ~」と頭を掻きごまかす。
「でも、壊れてたってことは、学校から帰るときに使おうとしたら気付いたんでしょ?」
「うん。」
「でも、朝、車に踏まれたときに壊れてたって気付かなかったの?」
妙に食いついてくるな。
「見た目は全然大丈夫だったから、その時は壊れてるってわからなかったんだよ」
「ふーん。まあいいわ、また新しいの買っておくから、不注意にも壊すんじゃないよ」
なんとか……バレなかった。
俺の矛盾めいた発言に危うくバレるところだったが、なんとかそれっぽい理由を言って、言い逃れをすることができたが、次からは気を付けよう。
しかし、母もよくいいところをついてきたなー。
もしかして、俺がイジメられてることに薄々気付いてて、それを確証に変えるために………って、さすがに違うか。
「で、その傘はどこにあるの?お母さんが処分しておくから」
「あ……あー、学校の玄関で気付いたから、持ってても荷物だし置いてきちゃった」
あぶねー、そこまで聞いてくるとは思わなかった。
瞬時にそれらしい言い訳ができたが、またしても焦った喋り方になってしまった。
しかし、母さんも特に気にしてる素振りもなく「はやく風呂入りなよ~」と言って二階に行ってしまった。
帰りのホームルームが終わって人目を盗んで帰っていれば、傘を盗まれずこんなことにはならなかったのに……。
済んだことにくよくよしていても仕方がない。
洗面所に入り服を脱ぎ、そこで、着替えを持ってくるのを完全に忘れていた。
めんどくさがりつつも、二階にある部屋から着替えを持ってこようと洗面所のドアに手をかけようとしたら_____
「ほら、着替え持ってきたから早くシャワー浴びなさい」
「ありがとう」
そこで着替えを受け取り、母さんに感謝の言葉を返してから再び残りの着ていた服を脱ぎ、シャワー浴びる。
___
シャワーを浴び終わったので部屋に戻ると、特にすることもないので、ベットに寝転がりスマホでニュースを見る。
特に興味のないものばかりで、下にスクロールしていくと、ふと気になるニュースに指が止まる。
「世界で初のフルダイブ型VRMMO。サービス開始まで残り二か月?」
確かVRMMOって、主にラノベの世界とかで使われるジャンルで、結構な人気を誇っているジャンルなのだが、それが現実に?
ちなみに、ラノベ、漫画、アニメ、ゲームが好きだから、このくらいの知識は持ってて当然。
そして、その記事をタップすると、次のようなことが書かれていた。
まず一番上に小見出しでさっきと同じ『世界で初のフルダイブ型VRMMO。サービス開始まで残り二か月!!』
そして、その下にはこのように詳細などが書かれている。
『人類初のフルダイブ型VRMMOはなんと、日本の某有名ゲーム会社の『One Small Step』が総動員で手掛けた今年一番注目されているゲームで、ゲーム名は〈All Life Online〉通称〈ALO〉。
このゲームは【視覚】【聴覚】【味覚】【触覚】【嗅覚】の、五感が楽しめるゲームで、ゲーム内では〈冒険〉〈戦い〉〈結婚〉などなど、現実世界でできることはほとんどできてしまう。
いや、現実世界でもできないことがたくさんできてしまうゲームがこちらの〈All Life Online〉。
仕事で嫌なことがあった時とか、息抜きにエンジョイするのもいいかもしれませんね!』
とまあ、こんな感じだ。
「やばい、面白そう……。」
正直、これを読んで俺は、興味を惹かれてしまった。
一番下までスクロールすると、公式サイトへのURLがあるので、スマホを握る手が少し震えてるが、しっかりと押す。
公式サイトに飛ぶと、フェードで『ようこそ〈All Life Online〉へ』と文字が浮かび上がってきて、数秒すると、画面真ん中にこのゲームの舞台となる街らしきものがハッキリとは見えないがうっすらと広がっていて、画面の左上から項目ごとに、【遊び方】【舞台となる街】【MOVIE】【coming soon】と表示されており、【coming soon】っていうのが気になるけど、とりあえず上の【遊び方】から確認してみる。
『【遊び方】遊び方?んなもんはねーでございますよ。
とにかく何でもしてちょ。
ちなみにこのゲーム、犯罪犯すと刑務所放り込まれるから、くれぐれもお気をつけよ。
後は、あっそうだ、プレイヤーの右手首にリングがついてるけど、これでアイテムとか自分のステータスとか見れるから、って言ってもバトルとか冒険しない人は、あまり使わないかな。
この辺も全部チュートリアルで細かく可愛い子が丁寧に優しく教えてくれるから、わからないこととか、質問があったらどんどん聞いてね~』
なんだ、この適当極まりな文は……。
半ばテンションが下がった俺だが、こういう受けを狙っている人なんだろうなと一人納得する……ことにしておこう……。
【遊び方】についてはちょっと残念なとこがあったが、切り替えて次の【舞台となる街】をポチっと。
「っ……!!」
スマホに映っている画面を前に俺は、その景色、その街並みに声を詰まらせてしまった。
これほどリアルだとは思わなかった……。
画面をスライドさせると、それと反対の方向に一人称の目線が動く。
簡単に言えば画面をスライドさせると365度どこでも見れるよ~ってこと。
画面に映ってる街をもっと細かく説明すると、この写真……って言っていいのか分からないけど、この写真は上空から撮られており、まず一番に目に付くのが街を囲う、大きな城壁。
高さは20メートル程で、恐らく他の国からの襲撃や、外敵からの侵入を防ぐためにあるのだろう。
そして、街の中心には大きな噴水広場があり、周りには家族やカップルの人たちで賑わっていて、そこから外は住宅街やら出店やらがあり、そして、写真の景色が薄れかかってるところに『北』と方角が記してあり、街の最北端には超巨大な“城”がある。
おそらくこの超巨大な“城”に国王的な、超お偉いさんがいるのだろう。
しかし、この街を見渡してみると、一つ、妙な点がある。
そう、電車や車などの交通機関がない。
もちろん信号とかもなく、地面は基本薄オレンジや、橙色のレンガが敷き詰められている。
そして、人々は何か“不思議な物”に乗っている。
タイヤが無く、ハンドルがあって、立った状態で操作している。
しかもその乗り物浮いてるぞ!?
おそらく長い距離では空中を飛んで移動しているが、短い距離の移動とかは地面の少し上を浮いて移動しているのだろう。
写真を見ても結構な人数の人たちが飛び交っているから、安全防止機能も完璧かな?
なんとなくだがこの街、技術は2100年辺りで、街は、ラノベの冒険系や異世界系とかでもよく舞台となっている西洋の街並みを想像すればピンとくるだろう。
正直こういう街に憧れを抱いてたんだよね……俺。
今見ている画面では南が背になっているので、興奮の気持ちを抑えつつ視線を南に向ける。
先程と変わらない街並みが広がっているが、やはりと言うべきか、最南端には超巨大な建物がある。
冒険者ギルドだろうか、だがそれにしてもデカすぎる。
俺の憶測だが、冒険者になったり、クエストとかを受注するだけではなく、武器屋、防具屋、ポーションなどなど、全部まとめて売られているのだろう。
よく聞く設定だと、冒険者ギルドの外に商人・職人ギルドが店を出してるが、それが全部この建物の中に移動したと考えるのが妥当なのじゃないかと思う。
コンクリートでできているため窓が無く、何階建てか分からないが、一階が冒険者ギルドで、それ以外の階が先程も言った武器屋などが階層ごとにあるのだろう。
そして、冒険者ギルドの隣にあるのは、プレイヤー同士の戦いでよく使われるコロシアム。
形はよくみんなが目にする円形で、戦うフィールドの細かい大きさまではわからないが、それなりに、自分の動きを最大限に活用できるくらいの大きさは確保されていると思う。
とまあ、目立つものは一通り説明したかな。
ちなみにこの街は、ナスクト王国のサントマインという街で、ナスクト王国一番の発展都市だとかなんとか。
「だからあんなに大きな城があるのか~」
と、一人納得する俺がいた。
ナスクト王国はまだまだいろんな街があるっぽいが、それはまだこの公式サイトには記されていない。
それと同様に、他の数ある国の情報もない。
恐らく、このナスクト王国のサントマインという街が、固定初期スポーン地かな。
そして、【舞台となる街】はもう満足なので(一つしか紹介してなかったが)次の【MOVIE】を押そうとした指がピタッと止まる。
もしかして、実際に街を歩いていたり、バトルシーンが映ったりするのかな?
できれば、そういうのは実際ゲームをして、初ログイン時にその感動を味わいたいので、【MOVIE】はお預けにしておこう。
最後の【coming soon】は、もちろん押しても何も反応しな………え?
【coming soon】だから何も反応しないものだと思っていたけど、それとは裏腹になんかよくわからないページへと飛ばされた。
完全にページが読み取り終わると、まず画面の一番上に赤い文字で『注意』と書かれていた。
そして、それに続いて本文が書かれていた。
内容はこんな感じだ。
『この注意が指し示すものは、このゲーム〈All Life Online〉の追加モードで、現時点ではリリースから約一年後に実装する予定で、その内容は、【完全移転モード】です。
そして、この【完全移転モード】は、決して生半可な気持ちで選択してはいけないモードです。
このモードは、簡単に言えば、現実世界での『リアルの自分』の息の根を止めて、こちらの世界〈All Life Online〉で一生楽しむことができるモードです(もちろん任意選択です)。
死=娯楽。
死後のゲームでの安全は私たち『One Small Step』一同が責任をもって守ります。
あまり、ピンと来ない人がたくさんいると思いますが、それが正常です。
たかがゲームで自分の人生を終わらせてしまうなんてこと、『普通』では考えられません。
ですが、私たちは『普通』に飽きてしまったのです。
そこで生まれたのがこの【完全移転モード】です。
もちろん、【完全移転モード】をされた方には、様々な報酬が付いてきます。
それはまた後々。』
俺は、この文を一通り読み終わって言葉を失った。
しかしそれは、絶望とかの類ではなく、興奮のあまり感動の気持ちがいまいち言葉に出なかったのだ。
「このゲーム、すげぇ………」
ようやく絞り出した言葉も迫力がない。
しかし、俺はもうすでに決めている。
この【完全移転モード】やるしかないって。
どうもロリコン勇者です!
ノベルバからの転載です!