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1.少女マンガ的出会いの作り方
下から先輩の顔を見上げると、長いまつげがゆれていた。
普段は見えないおでこも今は見える。八の字にへたりと下がった眉毛。先輩はいつも前髪を真っ直ぐに下ろしてるけど、前髪分けた方がいいな、なんて考える。
その方が、表情がよくわかる。
「だ…いじょうぶ…?」
ぼおっとしていたら、おそるおそるといったように先輩は僕に顔を近づけた。ちっとも動かないため、目を開けたまま気絶したと思ったらしい。
思えば、先輩が僕に敬語を使わなくなったのはこの時から。
先輩が意外に表情豊かだと僕が知ったのもこの時。
もう一つ言うなら、僕が彼女を好きだと自覚したのもこの時だった。
ファイルからとび出した紙に埋もれて、痛む背中に眉をしかめながら、それでも強がって笑って見せる。
差し出してくれた手は、ひんやりと冷たかった。