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74.ナーダは遺憾の意を表したい

 

 肩透かしと言えば肩透かしの結果に終わった。

 ナーダと〈ホワイトアキレア〉の面々は警戒態勢で〈クラム山〉を探索したのだが、危険なモンスターはナーダが仕留めた赤狂いの小鬼(レッドキャップ)以外に現れることはなかった。つまりナーダが知らずの内に問題を解決したことになる。今の〈クラム山〉は元の平穏を取り戻したと言って良い。

 しかし気になるのはこの赤狂いの小鬼(レッドキャップ)がいったい何処から来たのかである。この山はそこまで危険など存在しない比較的穏やかな場所であった。それなのに下手な冒険者では太刀打ちできない強力なモンスターが出没していたのは不自然である。


「他所から来たとか?」


 ナーダが考えたのは一番あり得そうな物である。判断材料が少なく断定はまだ出来ないがナーダ以外の3人もその意見がもっとも可能性があると考えている。


「そうだね。赤狂いの小鬼(レッドキャップ)は獰猛なモンスター。元から居たならもっと森の中が荒らされていても不思議じゃない。でもここはそこまで被害が出ていない」

「……臭いもそんなにしてない。あいつらが来たのは最近っぽい。……あたしはそう思う」

「洞窟も……異変は見られませんでした。赤狂いの小鬼(レッドキャップ)は同族や圧倒的に強い相手でもない限り逃げずに襲い掛かるモンスターだから……洞窟から湧いて出たわけでも無さそうです」


 野生動物や植物など、以前と変わりなくその生を謳歌している。サリアは森の生態がそこまで崩れていないのを確認しながら考えを纏める。ジゼルは残り香から赤狂いの小鬼(レッドキャップ)が元から居たわけではなく、ここ最近現れたという2人の考えを補強する。ムルメは洞窟からあのモンスターが発生した可能性を吟味したが結論は、その可能性は限りなく低い、になった。

 ナーダは全員の顔を見渡す。


「じゃあ調査は終わりに、なるのか?」


 空が赤くなり始めた時、彼らは〈クラム山〉を可能な限り調査し尽くしてしまった。なら後はこの情報を持ち帰りギルドへ報告するだけである。

 ナーダが言ったその意味を含んだ発言をサリアは頷いて肯定する。

 そうと決まれば撤収である。サリアは道具袋の中から別の袋――“魔法の道具袋”――を取り出すとそれにナーダが仕留めた赤狂いの小鬼(レッドキャップ)の死骸を仕舞い込む。本当なら討伐証明と換金可能部位だけでいいが、この異常な事態の解決、それの一助になるかもしれないと赤狂いの小鬼(レッドキャップ)の全身も持って帰ることに決めたのだ。

 これで自分達が他に出来ることはもうない。そう判断した彼らは〈城塞都市クルルス〉へ帰る為に下山した。


 ◆◆◆


 帰りの道中である。既に都市の姿が視界を大きく占めるようになった頃、サリアは疑問に思っていた事をナーダに尋ねる。


「そういえばガガナーダ君。君はどうしてその……リボンなんかを持っていたんだ?」

「…………」


 何だかんだで今まで流されていた話題である。

 ナーダの頭には今も可愛らしい白いリボンがある。サリアだけでなくジゼルとムルメもそのリボンの出所は気になっていた。他にも衝撃的なことが多かった所為でそこに意識を回すことが出来ていなかった。だからこうして余裕が出ると、特に知る必要のない物事へ興味を持てるようになる。そう考えれば彼女達はかなりナーダという少年に対して慣れてきたといえる。

 ジゼルは犬耳を垂らしながら少しばかり気まずそうに口を開く。


「もしかして……自分で買ったのか?」

「違っ!?」

「っ!」


 ナーダが強く否定しようと語気が強くなると女性陣が身を固くする。だからナーダは強くなる語気を抑え込む。そして彼は自身に落ち着くよう言い聞かせる。相手を恐がらせるのは本意ではない。


「……違う。俺の家族……て言うか同じ孤児院で過ごしてきた奴だけど、……そいつが何時の間にか荷物に紛れ込ませてたんだよ。……見つけた時は正直捨ててやろうかと思ったけど……」


 むすっとしたナーダの顔を見て内心の不機嫌さを察したのかジゼルは同情するような目を向ける。ムルメは何処か感心したような目を向けている。


「そ、そうか。……何かちょっと変わった奴なのか? 男にその、リボンを持たせるとか、普通じゃないだろ?」

「でも、似合ってるよジゼルちゃん。ガガナーダ君、綺麗な顔、してるから」

「や、でも男じゃん」

「可愛くないの?」

「え、それは……確かに男なのか疑わしいぐらい可愛い、けど。……ちょっと待て。あたしがおかしいのか? 男が付ける物じゃないよな? え? あれ?」

(おかしくない。おかしくないから自分をしっかり持て)


 何やら自身の常識に揺らぎが出始めたジゼル。そしてムルメはナーダの全体を見ながら、髪型を整えて、服装ももっと、などと呟いている。ナーダは内心でジゼルの常識を応援している。ムルメの常識はちょっと怪しいので下手に触れないようにする。

 サリアはそんな2人の妹分……男が近くに居るのに緊張が和らいでいる姿を見て少し安心する。かく言う自分も最初の時よりも楽になっている。それもこれもナーダが己の羞恥を噛み殺してリボンを結ぶという尊い犠牲の賜である。

 ナーダは口調や仕草などは普通に少年然としてるので普通なら綺麗な顔をした男の子だが、こうして女の子の装いをさせると不思議と違和感が薄い。筋力や頑丈さは相応に強いのに華奢に見える線の細さをしているから余計に女装が様になっている。……本人にとってそれは不本意ではあるが。


「そういえば『マム』が言っていたね。何だったかな……そうそう、確か『カワイイは正義』だと言ってたよ」

「ああ、そんなこと言ってたな。意味はよくわかんないけど。何で可愛いと正義になるんだよ?」

「私は少し……わかる気が」


 今のでナーダは彼女達の言う『マム』という人物は少し変な奴だと判断した。……賊の類いに囚われていたらしい彼女達を救って面倒を見ていることを考えれば根は善人のようである。ナーダはそんな謎の人物である『マム』へ少しばかり興味を持つ。


「……先輩達が言う『マム』ってどんな人なんだ?」


 ナーダの問いに3人は顔を見合わせる。


「どんな人、か。……凄く良い人だよ。私達がこうして生活出来るよう色々と手を回してくれたよ」

「……身の振り方とかな。あたし達が冒険者になることを決めた時とか装備や道具を揃えたりする時の資金を工面してくれたり。都市の中じゃあ『マム』が土地とか出資とかしてくれたお店もあるし」

「……お店には私のお姉ちゃんも、働いてます。後は、その、戦いの基礎を教えてくれたり……。近接、遠距離、魔法……色々」

「感謝しても仕切れないね。『マム』のお陰で私達は戦える人間になったから」


 『マム』という人物は何でも出来る人物であると話しを聞くと理解出来る。ナーダは実はそこまで変な奴でもないのかもしれないと思い始め―――


「後は可愛い子が好きだってよく言ってるよ。よく他の皆のことを抱き締めたり撫でたり頬にキスしてたりしてるよ。……私にもしてくるのだけは恥ずかしいから止めてほしいけど」

「あたしは他の姉ちゃん達と添い寝してるの見たことがあるな。なんか独り寝が寂しいからだ何とか言ってた。あ、何か一部の姉ちゃんは添い寝した翌朝『マム』と一緒に水浴びしてたな。……最近暑くないのに何でだろうな?」

「物作りとかも、してる。色々と便利な物を作っては、部屋の隅に積んでた」

「流石に“魔法の道具袋”を自作した時は驚いたよ。……それを気軽に私達に持たせた時はもっと驚いたけど」

「『マム』はちょっと……変わってる。めちゃくちゃ強かったり凄い物をポンポン作ったりしてるのに本人はそのことを誇ったりしねえし。あれだけの能力があったら貴族とか大商人に取り立てて貰えたりとか出来ると思うけど」

「目立つのを嫌がってる、よね。……目立って忙しくなるくらいなら、『好きな子達といちゃいちゃしてたい』って何時も言ってた」

「その割には私達から褒められたがるね。何かする度に私達に期待を込めた視線を向けてたよ」

「目立ちたくないのに褒められたいって……これもう意味わかんねえな」

「見た目、大人なお姉さんなのに……時々子供っぽい」


 出るわ出るわ『マム』の話題が。それを黙って聞いていたナーダは『マム』は少し変人、ではなくかなり変人であると判断した。興味が出た以上に、あんまり顔を合わせたくない気持ちも出て来た。顔を合わせたら碌な事にならないと直感する。


 四方山話(よもやまばなし)。それが出来るぐらいには距離が縮まったナーダと〈ホワイトアキレア〉。これもナーダが身を挺して女装をしてくれたお陰でもあり、彼女達がそれに応えて勇気を出してくれたお陰でもある。ちなみにナーダは頭に乗っかっているリボンの重みに意識がいくとすごい落ち込むので極力意識を向けないようにしている。


 4人が話しながら進んでいるともう目と鼻の先に門がある位置まで辿り付いた。朝や昼と比べればこの時間帯は人の数が少なく早い内に門を潜れる。


「さて……」


 ナーダは頭に付けているリボンを外そうと手を―――


「あ」


 ―――伸ばそうとしたら〈ホワイトアキレア〉の面々が揃って声を上げたのでナーダの動きが止まる。そして視線を向けると彼女達は名残惜しそうな顔をしている。


「それを外すなんてとんでもない」

「あ、あたしは別にどっちでもいいけどっ? ……でもまだいいんじゃないかな……」

「もう少しだけ……」


 表情だけではなく実際に口に出してきた。それだけリボンを付けたナーダは気安かったというわけである。

 難色を示すナーダ。当たり前である。彼も健全な男の子。いくら彼女達が接しやすいようにという配慮で身に付けたとはいえ、何時までも付けていたい代物ではないのだ。ここまで溜まったストレスを解消する為に帰ったらサクラのほっぺたをつねってやろうとも考えていた。


「流石に中まで付けていかないからな? このまま行ったらどんだけの人に見られると思ってんだよ。変態と思われるじゃん」


 男が女性の格好をしていたら普通は変態である。だからナーダの主張は正しく、彼女達はぐうの音も出ない。そもそも別に親交が深いわけでもない今日初めて顔を合わせた間柄。それなのにナーダは配慮した方である。褒められこそすれ責められる謂われはない。

 ナーダはリボンを外す。女性陣は揃って「ああ……」という残念そうな声を出す……が、様子が変わる。残念そうな空気から、何故か困惑に変わった。


「……どうしたんだよ」


 彼女達の不審な様子にナーダは声を掛ける。それに対してまずサリアが返事をするが、様子を見るに彼女自身も戸惑っているのが見て取れる。


「いや……何と言うか……多分リボンを付けていた印象が強かった所為だと思うんだけど、今もその、ガガナーダ君のことが……女の子っぽく見える」

「……は?」

「ごめん、悪気は無いんだけど……」


 ナーダには言っている意味がわからなかった。自分はれっきとした男なのに目の前の人物はいったい何を言っているんだ、といった気持ちである。しかしこの場においてはナーダの気持ちは少数派であった。

 ジゼルは手で目を擦ってナーダの姿を何度も確認している。


「あれ? あたしおかしくなったのか? 男に見えねえ……」

「おかしくなってる。だからしっかりしろ」

「お、おう。……本当にどうにかしてるぞあたし。何でだ?」


 ムルメは神妙な顔でナーダを見て呟くように喋る。


「女装してた可愛い男の子が……女装を止めて可愛い子になった」

「勝手に男も外すなよ」

「……本当に男の子なんだよね?」

「どっから見ても男だよ」


 結果的にリボンを外しても彼女達はナーダから『男』をあまり感じなくて済んだ。実際そこまで女の子に見えるかと言われれば……難しいところである。だからナーダ的には遺憾の意を表したい。


 そうして少しだけ打ち解けたナーダと〈ホワイトアキレア〉の面々はギルドへ向かう為に門を潜った。

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