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68.洞窟内の戦闘

 密偵に適した能力を有するナーダを先頭に、次に続くのは後ろへ敵を流さない為の前衛を担うジゼル。そこから距離を取って初級の魔法と一部習熟している中級魔法を扱える魔法使いムルメ。そして万が一前衛を抜かれた場合にムルメを守る、それ以外では遊撃や後方警戒に全体の指示を務めるサリア。

 この布陣でナーダと〈ホワイトアキレア〉の面々は〈暗闇の洞窟〉を進むことを決めた。


 ナーダは夜目がかなり利くので明かりを持たずに足早に洞窟内に侵入しようとする。


「ぁ、まっ、まって……」

「あ?」


 それに待ったを掛けたのはムルメだった。彼女はおどおどしながらサリアの陰に居て、ナーダへ見せるように杖を掲げる。


「その……暗いから、えっと、ほ、補助を、その……」

「……?」


 要領を得ない言葉。それにサリアは苦笑を零してムルメの代わりに説明する。


「ガガナーダ君。先に行って偵察してくれるのは有り難いけど、その前に『補助魔法』を掛けてからにしないか? 洞窟は危ないからね」

「……ああ、そういう意味か」


 ナーダはその場で立ち止まり後方に居るムルメに対してを正面を向く。


「で、何処までが射程? 俺から近付いた方が良いか?」

「っ! え、えっと、あのっ」


 不用意に〈ホワイトアキレア〉の面々へ近付かないようにしていたナーダ。彼は声を掛ける時も可能な限り声の響きがきつくならないように心掛けた。言葉遣いがぶっきらぼうなのは仕方が無い。

 どもるムルメ。そんな彼女の代わりにナーダへ答えたのはジゼルだった。彼女はナーダとムルメ達の間に立つと手に持った斧で位置を指し示す。


「ここだ。……ここで止まれ。これ以上は近付くな。わかったな?」

「ジゼル」

「ふんっ」

「…………」


 言い方。

 ナーダは少しいらついたが我慢した。黙って指し示された場所まで歩を進める。

 全員が魔法の射程内に入ったのを確認するとムルメはたどたどしいが詠唱を開始する。


「よ、夜を歩く……者よ、その闇を覗く瞳を貸し与えよ【暗視(ナイトサイト)】」


 ムルメが魔法の【暗視(ナイトサイト)】を発動する。それは掛けた者に暗闇でも見通せる視界を授ける魔法である。それによって暗かった洞窟の中でも視界が確保できる。


「……おお、凄いな」


 その恩恵は能力(スキル)“影身闊歩”の効果で元々暗視に優れていたナーダにもしっかりと表れた。ナーダは今ならどんな暗闇でも陽の下で活動してるのと遜色ない動きが出来ると実感する。


「ありがとうムルメ先輩。これなら洞窟の中も楽に進めるよ」

「え、その、あの……」

「当然だ。ムルメ姉は優秀なんだ。そんじょそこらの男になんかに負けない」


 ナーダはムルメに礼を言ったのに何故かジゼルが得意気に答える。事あるごとに噛み付いてくるような彼女の言動にナーダは内心で呆れながら、これ以上気にしても仕方が無いと割り切る。


「じゃあ俺は“隠密”と“忍び足”で先に行って偵察してくるから」

「ああ。頼んだよガガナーダ君」

「じゃあ」


 仕切り直してナーダは気配と足音を消して洞窟を進んでいく。その足取りに迷いは無くどんどんと進んでいく。その速度は後ろに居る〈ホワイトアキレア〉の3人が一瞬だけ驚きで動きを止めたほどである。


「……どうやら彼、認識票は(カッパー)だけど能力は駆け出しじゃないようだね」

「っ!」


 サリアは感心した様子を見せたが他の2人は違った。ジゼルは明らかに先より気配を鋭くし、ムルメはもっとサリアへ身を寄せる。そんな2人の様子に苦笑しながらサリアは諫める。


「大丈夫、ガガナーダ君は優しい子だよ。それに教会へ所属しているらしいからね。……他の男を誘うよりずっと『安心』だよ」


 奥へと進むナーダの後ろ姿を見ながらサリアは2人へ先へ進むように促す。そして渋々動き出した彼女達を見守るようにサリアも歩を進める。


(……ガガナーダ君か。……ギルドから貰った情報だと低ランクで教会に所属している少年って情報ぐらいしかなかった。……もしかしたら人選を誤ったかもしれないね。あんまり強い人だと『恐い』から出来れば弱い人の方が良かったんだけど……)


 そうしてナーダとチーム〈ホワイトアキレア〉は“迷宮(ダンジョン)化”した洞窟を探索していく。

 先頭を進むナーダは明らかに銅クラス(ひよっこ)ではない動きを見せながら偵察していく。それに続くジゼルは犬人の特性である発達した嗅覚を用いてナーダの偵察の精度を上げていく。そして少し間を空けてサリアとムルメは進んでいく。


「平気かいムルメ、ジゼル」

「あたしは平気だ。問題なんて一つも無い」

「わた、し、も……頑張る」


 サリアは2人の言葉が強がりだと見抜いている。


「……わかった、じゃあ私達も行こうか。何時までも後輩にばかり先へ行かせるわけにはいかないからね」


 それでも強がりを口に出来るようになっただけましになったと思っている。


(……1年前はもっと酷かったからね。それを考えればムルメもジゼルもかなり回復してくれた。……それに私も)


 ジゼルが2人を守る位置に立つ為にナーダの後へ続いていく。そんな彼女の後を追うようにサリアとムルメも洞窟の奥へと足を踏み入れた。


 ◆◆◆


 『迷宮(ダンジョン)化』という物がある。

 魔力、精霊の力、そして神の力によって空間に変質が起こった異常地帯。それが発生すると普通では考えられないような状態になる。

 洞窟、森、遺跡……そのどれもが迷宮ダンジョン化すると外観の広さと内部の広さが一致しなくなる。物理的に有り得ない広さに拡張されるのである。

 そして迷宮ダンジョン化した土地は自然に生息している物よりも強力なモンスターを内部に生み出す。時には強い個体を生み出すのではなく、弱いモンスターが多く出現するような変化をする場所もある。


 今回ナーダと〈ホワイトアキレア〉の面々が侵入した洞窟は後者の迷宮(ダンジョン)である。出現するモンスターは脆弱な部類に入る小鬼ゴブリン。数はそこまで多くはなく脅威は低い。しかし洞窟内部は暗く通常の肉眼では視認が難しくなっており、暗視の魔法や能力、それに魔道具や薬などがないと少々駆け出しには荷が重い場所となっている。逆に言えば暗がりさえどうにかする手段があれば駆け出しでも対処可能なランクの迷宮(ダンジョン)である。


 〈暗闇の洞窟〉

 位置:クラム山

 脅威度:9~8

 主な発生モンスター:小鬼(ゴブリン)洞窟鼠(ケイブラット)泥土蝙蝠(マッドバット)

 備考:内部は暗く対策は必須。出現モンスターはどれも強力ではないが暗闇に適応しているので暗所でも問題無く活動している。

 注意:希にではあるが深部では小鬼(ゴブリン)の上位種との遭遇例も報告されている。故に平均脅威度は9となっているがそれを踏まえ脅威度8も含んでいる。


 ――――――


『ギャギャッ!』


 暗闇の中から襲い来る小鬼(ゴブリン)。その手には無骨な棍棒が握られ、それを目の前の人間の頭へ叩き付けようと振り下ろす。


「雑魚がっ」

「ギッ!?」


 しかしそれをジゼルが軽々と盾で受け止める。大きな犬歯を持つ歯を食いしばり手に持った斧を小鬼ゴブリンへ振り抜く。

 斧の一撃は容易く小鬼ゴブリンの首を深く斬り裂き血を溢れさせ絶命させる。


「ほらっ!! 何処からでも掛かってきやがれ!!」


 洞窟内を進んだ先にあった開けた空間。そこで待ち受けていたモンスターは小鬼(ゴブリン)1体だけではない。最初の1体を皮切りに次々にモンスターが襲い来る。

 ジゼルが周囲のモンスターを挑発する。味方の誰よりも敵の注意を引く為に声を上げながら前へ踏み出す。


「ガガナーダ君はジゼルの補助を」

「わかってる」


 サリアの指示にナーダは素っ気なく返事をする。目上に対して多少礼を失した返事であったが戦闘中故に致し方なし。優先すべきは目の前のモンスターである。

 小鬼(ゴブリン)が10体。洞窟鼠(ケイブラット)が15匹。

 ナーダ達からすればそこまで脅威ではないが、気を抜いて怪我を負うのも馬鹿馬鹿しい。だから彼らは油断無く、そして余計な力みは抜いてモンスターに相対する。


「行動、阻害……しますっ」


 ムルメはそれを言うなり魔法の詠唱に入る。自分達よりも数で勝る相手。それの気勢を削ぐ為にムルメはより脅威度の高い小鬼(ゴブリン)の集団を標的にして魔法を発動する。


「水よ、踏み出す先の道を奪え【水濡れの地(タンブレッド)】」


 構えた杖の先に水球が発生。そして発射されたそれは歩くような速さで進む。ゆっくりと進む水球は小鬼(ゴブリン)はおろか洞窟鼠(ケイブラット)にも自分達を害する攻撃とは見なされなかった。

 だからこそこの魔法は十全に効果を発揮した。

 水球が小鬼(ゴブリン)が駆け寄るであろう地点に着弾する。


『ヒャッ?』『ギ』『ゲワッ!?』


 水球がまるで絨毯のように地面に一気に広がり水の膜となる。その水膜を何の警戒も無く踏み付けた間抜けな小鬼(ゴブリン)は足下を滑らせて転倒する。水属性下級魔法【水濡れの地(タンブレッド)】が小鬼(ゴブリン)の足場から摩擦を奪う。


「良いぞムルメ! ジゼル、ガガナーダ君! 転んだ敵は後回しにして他を狙ってくれ!」


 あの魔法で摩擦を奪われるのは何も敵だけではない。不用意に踏み込めば味方であっても身体能力や魂の位階、それに能力スキルによっては抵抗(レジスト)出来ずに転倒する危険がある。

 だからサリアはジゼルとナーダには魔法が効果を発揮している間は他へ回るように指示を出したのだ。


「了解!」


 ナーダは地を這うような姿勢で走ると手に持つ短剣を低い軌道で振る。


『ピッ!?』『キィイッ!?』


 狙ったのは洞窟鼠(ケイブラット)。体長20㎝はある鼠型モンスター。脂分でてかる黒い毛皮がナーダの振るう短剣の刃で斬り裂かれていく。短剣で仕留めながらナーダは蹴りや踏み付けなどの足技も駆使してモンスターの数を減らしていく。

 その頼もしい姿を横目に見ながらサリアは何処にでも転がっている石ころを投石紐に掛けると片手で振り回す。彼女の頭上で石ころが振り回され遠心力が込められていく。


「シッ」


 そして投石紐から撃ち出される高速の礫。それは立ち上がることが出来ず滑りながらも魔法の範囲外へ這いずり出て来た小鬼(ゴブリン)へ叩き込まれる。


『ギャッ!?』


 狙い違わず頭部に衝突した礫は小鬼(ゴブリン)の頭蓋を破壊して脳に致命傷を負わせる。


「おらっ! あたしを忘れんなっ!!」

『ガペッ』『ギヒッ!?』


 ジゼルは吠えながら敵へ突貫。盾で突撃して棍棒を構えるというささやかな防御をしていた小鬼(ゴブリン)を力任せに吹き飛ばす。その吹き飛ばされた小鬼(ゴブリン)の隣には驚きで身を竦めている別の小鬼(ゴブリン)が居る。それをジゼルを見逃す筈も無く片手斧を振って首に刃を叩き込む。小鬼(ゴブリン)の首を半分以上切断したところで斧の刃が食い込み止まる。


「邪魔っ!」


 蹴りを放ってジゼルは斧から小鬼(ゴブリン)を荒っぽく外す。その引き抜いた勢いで上段に構えた斧を今度は突き飛ばして倒れている小鬼(ゴブリン)へ振り下ろす。その一撃は脳天へ叩き込まれ頭部をかち割る。


「よしっ! ムルメは魔力を温存! 残りを掃討する!」

「う、うん」


 趨勢は決した。誰かがモンスターを倒している間に他の誰かが別のモンスターを仕留めていく。サリアはムルメの守りをこなしつつ投石で仕留められる敵は仕留め、出来ない時は牽制する。

 ナーダが小鬼(ゴブリン)が振る棍棒を手で受け流して短剣で首を斬り、背部からもう一撃短剣の刃を突き込んで重要な内臓器官を潰して息の根を完全に止める。

 ジゼルは犬人の狩猟本能を発揮しながら斧と盾で敵モンスターを殴り、斬り、破壊する。


 戦闘開始から数分でモンスターの集団は彼らの手によって全滅した。


 ◆◆◆


「凄いな。ガガナーダ君は」

「……は、はあ……?」


 突然サリアに褒められたナーダは困惑した様子で返事をする。

 戦闘が終わった彼らは倒したモンスターから刃を使って討伐証明になる部位や換金出来る物を剥ぎ取っていく。

 血生臭い洞窟内でサリアは笑顔を浮かべながらナーダの隣で彼と同じように剥ぎ取りをしながら言葉を続ける。


「〈クラム山〉に来る道中や洞窟内での動きを見てても思ったが君はかなり戦闘慣れしているね。冒険者になる前からこういうのはよくしてたのかな?」


 駆け出し、それも今までモンスターと碌に戦ったことのない者などはこれまで経験の無かった命の危機を感じて萎縮することが多い。しかしナーダはそれが一切無い。踏み出す時も臆することは無く、刃を振るう時もその動作は無駄が無く……命を奪うことに躊躇いが無い。


「冒険者の方はそんなにしてなかったけど他ではよくしてたよ」

「成る程掛け持ちだったのか。だからランクが低くてもそれだけ強いんだね。ちなみにその他とは何をしてたのか聞いても?」


 ナーダは特に隠していることでもないので答えようとして……彼女達の境遇が自分の想像通りになら正直に答えると(まず)いと思い、当たり障りの無い答えにしようと考えた。


「俺、普人(ヒューマン)より多少秀でてる鬼人(ヤクシー)だから破落戸(ごろつき)相手に用心棒みたいなことしてたんだよ。後は食料調達で狩りとかしてた」


 暴力団(ギャング)に与していたことはぼかした。それを馬鹿正直に言うのは鬼門だと思ったから。


「へぇ。若いのに物騒なことをしてたんだね。……それはもう辞めたのかな? こうして冒険者稼業をしているってことは」

「そうだな。『これ』を見られても前より周りの対応がましになったからな」


 ナーダは自身の黒い角を指で小突きながら言う。

 迫害の目が減ったのはセーギが魔王の姿で暴れた衝撃が強かったからである。それだけ人々に悪魔(デーモン)の如き鬼人(ヤクシー)が人の住む都市を守る為に戦った光景が記憶に焼き付いている。


「……ああ。『そうだったね』。ごめんね、少し悪い質問だったよ。許してくれるかな?」


 それなのにサリアはナーダの黒い角を見て、『たった今気付いた』ような反応を見せる。

 とぼけたのか。それとも態と忘れたふりをしたのか。

 ナーダの考える予想は違う。


(黒い角が生えていることを気にする『余裕が無かった』……か?)


 サリアは他の2人より積極的に交流を持ってくれている。しかしナーダは自分が思っていたよりもサリアが心に築いている壁は大きいと感じた。


「別に……今は気にしてないよ。最近知り合った人達が皆良い人だったから。だからサリア先輩も気にしなくて大丈夫だから」

「そう? すまないね、ありがとう」


 表面上は他愛の無い会話。しかし実際は裏に事情を隠しながらの会話。

 そうして剥ぎ取り終わらせた一行はナーダが受けた依頼『小鬼(ゴブリン)の討伐』、その討伐数に達したので引き返すことに決めた。再び【暗視(ナイトサイト)】を掛け直した一行は出口へ向けて動き出す。

 相変わらずジゼルとムルメはナーダから距離を置き、そしてサリアは自然体に見えるが壁を作った、……そんな状態のまま。


(……男を警戒してる……なら俺が出来ることは……)


 ナーダは彼女達を一瞥すると出口に向けて先行しはじめた。

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