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47.今の友人、過去の友人

 伸ばされたセーギの手が握られる。それはシータの手であった。

 人生を剣を振ることに費やしてきた。それに相応しい厚くなった手の皮。しかしセーギの手に重ねられたそれは、確かに少女のしなやかで温かみのある手であった。

 その次にさらに重ねられたのはルミーの手。シータの手の上からではあるがセーギにはきちんと彼女の温もりも伝わっていた。


 シータが真っ直ぐにセーギを見る。その澄み渡る空のような瞳はまるで迷いが無いようで―――


「……ねえルミー。この後は、何て言葉を返せば良いのかな?」

「―――ん?」

「友達の作り方がわからないの」


 ―――真顔でこの発言である。

 ディアンサスがテーブルに額をゴンッと打ち付ける。手に持ったお茶を零さないのは高い身体能力が成せる技である。

 ロベリアは頬に手を当てて「あらまぁ」なんて言いながら、その瞳に好奇の色を乗せてシータ達を見ている。

 友人(シータ)に助けを求められたルミーは悲しそうな表情をする。私の友達はいったい何処でここまで拗らせてしまったのかと。……わりと幼い頃からこうだったなと彼女は自己完結した。


「ふっ……、ふふ」

「……あれ?」


 セーギが吹くような息を漏らしたのをシータは聞き取った。セーギの方を見れば彼は体を震わせて


「ふはっ、あっはははははは!」


 笑った。セーギは声を上げて笑った。


「あはっ、ははっ、はぁはははは!」

「え? え? あれ?」


 笑われているシータは状況が飲み込めず困惑している。

 セーギは咽せて「げほっごほっ」と咳き込むが直ぐに笑いが込み上げて噴き出す。それが少しの間続いた。

 それでも幾分か笑って落ち着いたのか、セーギは空いている手で目尻の涙を拭い息を整える。

 流石に笑われて良い気分にはならないシータは少しだけ不機嫌そうにセーギを睨む。しかしその不機嫌さも模擬戦での負けで拗ねた時と比べれば可愛い物だったので、セーギとしては余計に可笑しな気持ちになる。


「はぁー……。あぁ、ごめんね急に笑って」

「……私、そんなに変なことを言ったかしら?」


 セーギはまた溢れそうになる笑いを噛み締めてシータに謝罪した。

 手を重ねたままの状態で姿勢を正す。そして彼女達の手の上にセーギはもう片方の手も置く。


「シータは俺と友達になるのは嫌ですか?」

「嫌なことなんて無いわ」

「じゃあ俺達はもう友達ですよ。ね、ルミー」


 戦いや職務以外では残念な面を見せるシータ。

 セーギはそんな器用なのに不器用なシータの友人であるルミーに同意を求めた。ここまでのやりとりで大分固さが抜けたルミーは自然体でセーギの言葉に同意する。


「そうですね。こういうのは難しく考える必要は無いのですよシータちゃん」

「そうなの? でも友達よ? もう他人じゃないのよ? これから業務連絡以外にも私的に会うことだって増えるだろうし一緒に何処かへ出掛ける時もあるかもしれない。それに友達になったら他の友達も紹介されるかもしれないしそうなったら私緊張するしそれだと相手方に迷惑を掛けるかもしれないしその所為で折角友達になれた人に嫌な思いを抱かせるかも。それに私の趣味なんて剣を振るぐらいしかないから話してても面白くないだろうし、そもそもお仕事があるから遊んだり出来ないかもしれないし、あとは―――」


 テーブルから頭を上げたディアンサスが若干引いた顔でシータを見る。そして話しの輪には入らずに隣のロベリアへ話を振る。


「うっわぁ、面倒臭っ。何言ってんのこの子」

「生き辛い思考ねぇ。貴女よりも不器用そうな子は初めてみたわ」

「……ロベリア? 私は不器用じゃないわ。あんなのと一緒にしないでくれる?」

「あらごめんなさい。『こっち』での貴女の友達って 私以外 知らないもの」

「…………」


 額に手を当て考え込むディアンサス。それをロベリアは面白そうに見る。ディアンサスの交友関係はシータとそこまで変わり映えしないということが発覚した。


「―――そういう訳でねルミー、私は『お友達』という物は真剣に考えないと駄目だと思うの」

「シータちゃん……」


 シータの特にタメにならない話しをとりあえず最後まで聞いたルミーは結論を述べる。


「セーギ様が望んでられるのですから「こちらもよろしくお願いします」と言って了承すればそれで良いんです」

「……そうかな?」

「そうです」


 面倒なシータの友達持論はさらっと流してルミーはゴリ押しすることにした。ルミーがシータと友達になれたのも彼女自身の強めの押しで何とかなった側面がある。

 シータは念押しされたことで踏ん切りが付いたのかセーギとまた向き合う。


「セーギ君。こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくシータ」

「私も、今後ともよろしくお願いしますセーギ様。シータちゃん共々貴方と深く親しくなれるように頑張ります」

「ああ、ルミーもよろしくね」


 セーギはシータとルミーから返事を貰い、晴れて友達になることが出来た。

 そうしてようやく繋がれていた手が放される。

 シータは重ねた手の温もりが失われて理解出来ない名残惜しい気持ちを感じ、ルミーはさっきまで繋いでいた手を大切そうに胸に抱いている。

 2人のその様子に気付かず次にセーギが顔を向けたのはロベリアとディアンサスの2人である。


「ロベリアさんとディアンサスさんも」

「悪いけど私はあんたと仲良くなる気はないから」


 セーギは縁のあった2人ともこの機会に親交を深めようと思ったが、彼の発言を制したのはディアンサスであった。彼女はセーギとは目を合わせようとせずに手を振る。


「あら、ディアンサス。折角お友達が増えそうなのに断るの?」

「はっ。私がここに来たのは私自身の目的があったからよ。別に皆で仲良し小好しする為じゃないわ」

「そう」


 ロベリアは頑なな態度を見せるディアンサスにそれ以上何かを言うつもりはないらしく、セーギに話し掛ける。


「……まぁ彼女はこんな感じだけど、私は坊やとこれからも仲良くしたいと思っているわ」

「俺もです」

「じゃあこれからもよろしくね」


 ロベリアが手を差し出しセーギがそれを握り返す。

 横目でそれを見ていたディアンサスは溜息を吐く。


「……で、これであんたの話しは終わったのよね」

「俺がわかる話せることは話したと思います」

「後から出るかもしれない【九獄天魔王(インフェルノ)】ってのも別にそこまで気にしなくていいのよね? あんたの知り合いなら話しが通じるし、もしただの化け物ならあの2体みたいに殺せば良いだけだし」

「…………」

「……どうしたのよ?」


 不意に黙り込んだセーギにディアンサスは眉を顰める。

 場の空気が変わる。

 その沈黙に何かあると感じたこの場に居る全員がセーギに視線を集める。


「……魔王に選ばれてる人は、その、なんと言うか……」


 危険が少ない。

 しかしそれはあくまで『彼ら』の人格を考慮した上の『人命を(みだ)りに奪わない』という範囲での危険度の低さである。

 そもそも【九獄天魔王(インフェルノ)】を担当している者はプレイヤーと戦う為に雇われた戦闘特化型(ファイター)AIである。程度の差はあれ全員が戦いという物に『喜び』を見出す性質を持っている。日常的にプレイヤーと戦い続けることを仕事として任されている彼らは大なり小なり戦闘中毒者(バトルジャンキー)の側面を持っている。

 善人=大人しい。そういう図式は『彼ら』に当て嵌めることは難しい。一部は穏健な思考を持っているがそれでも突飛な部分のある面々。


 ――――――


 悪魔の王は言った。堕天使は言った。異形の天使は言った。気高き蠅は言った。海の竜は言った。陸の竜は言った。艶惰の魔女は言った。


『僕はラスボスとして華々しく彼ら(プレイヤー)を出迎える義務がある。……NPCの街を2つ3つ征服した方が盛り上がると思うんだ。どうかな君?』

『流石ですあなた。素晴らしい発案。なら私はプレイヤーに人気のあるお姫様を拉致・監禁して王道的展開を作ります。こうしては居られません、素敵なお部屋の準備を―――』

『モテたい! 強い俺はもっとモテて良い筈じゃないのか! あれか? もっと強くなればワンチャン―――』

『お前に勝つのは俺だ。俺以外の誰かに負けるなど許さん。聞いているのか? 何時かお前を下して真の魔王の称号は俺が―――』

『一度に何人のプレイヤーを背中に乗せられるかやってみたい』

『100人乗っても大丈夫』

『這いつくばったプレイヤーって、と~っても可愛いわぁ。まるで赤子のよう』


 青い鬼はキャラ作りも忘れてぼやいた。


『……皆、運営(スタッフ)さん達を困らせる真似だけは絶対にしないでね? 俺達の持ち場はちゃんと決められてるんだから。……もしかして俺が居ない時に勝手なことしてないよね? ……ねえ……ちょっと……もしもーし―――』


 ――――――


 セーギは思い出した。誰も彼もが一筋縄ではいかないことを。


「皆……個性的(ユニーク)だったから」


 結果はまだ誰も知ることは出来ない。しかしセーギは魔王達がこの世界へやって来た場合、絶対に穏便に済まないとも考えている。

 悪魔(デーモン)や悪神の脅威がある中で、さらに彼らが一騒動を起こす可能性が高いのだ。それを思い出してしまったセーギは少し頭を悩ませることになった。


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