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43.火蓋は切って落とされる

 門が開き、そこから出る鬼を見たのは人間だけではない。

 バフォメットによって強化されたオークの軍勢、その中でも悪魔(デーモン)がその存在を察知する。


「……何者だあれは」


 オークを統べる支配者(ロード)。そして“悪神の加護”によって悪魔に変じた者。他のオークが子供に見えるような巨体を持つオークの王ガンズ・エフが青い鬼を観察する。


 それはただ1人でオークの軍勢へ向かって歩いて来る。

 人間では有り得ないような異形。そこから考えられるのはあの鬼は『怪物こちら側』であるということ。鬼人(ヤクシー)が人を喰らう悪魔となった悪鬼“羅刹(ラクシャーサ)”であるということだ。


「何故、人の住む場所から出てくる?」


 羅刹が数多の光り輝く腕を展開しながら進んでくる。

 オークの軍勢が歩みを止めずに進軍を続けていることを考えれば両者が接触するのは時間の問題である。


「何故だ?」


 こちらへ敵対の意志を持って歩を進める羅刹。その存在にガンズ・エフの疑問は無くならない。


 まだ離れている。しかし、声が聞こえた。

 進軍に伴う地鳴りのような音。それを意に介さずその鬼が武装召喚とスキルを発動した声が草原に響く。


『出でよ繊月の曲剣(チャンドラハース)。月光よ我に力を【月崩武装(ウグルラチャンドーラ)】』


 月光が収束するように二十ある手の全てに繊月の曲剣(チャンドラハース)が出現する。それと併せてスキル【月崩武装(ウグルラチャンドーラ)】によって羅刹は武器とその身に月光を宿す。

 悪鬼である羅刹。しかしその月光を纏う姿は美しい。


 ガンズ・エフの行動は早かった。彼は『あの悪鬼は何故人間の味方をしているのか?』という疑問は後に回し、己が軍勢に命令を下す。


「……貴様ら、あれは敵だ」


 殺気を飛ばしてくる羅刹。人間が住む城塞都市を背に庇うように歩いて来るその姿は明確にこちらに対しての敵対行動である。


「人の住みかを蹂躙し、“要”を破壊する前に……あれを殺せ」


 命令と共に怒号が飛び交う。


 自分達の王から暴力の解放を命じられたオークは先頭から力の限り走り出す。

 額の六芒星を赤く輝かせ、目を赤く血走らせ、全身から黒いオーラを放つオーク達が我先にと武器を構えて鬼へ向かっていく。その身にある力は通常のオークを遙かに超える物となっている。体力も筋力も耐久力も、まさに進化と呼んで良いレベルにまで引き上げられており、通常の兵士では強化オーク1体当たり10人以上で戦わねば一方的に肉塊にされる程の強さとなっている。


 その強化は精神にさえ影響を及ぼし、オーク達は手脚が千切れようと、致命傷を負っても、その命が尽きるまで進軍を止めることは―――


『選べ』


 ―――空気が軋み、世界が震える。


 オークが止まる。

 武器を振り上げたオークがその手を止め、進む為の足も止める。

 オークの軍勢がその動きを止める。……否、止められた。鬼による覇気を乗せた一声がオーク達の行動を強制的に止めた。

 互いに武器を抜いて構えている。

 しかし鬼はその戦端が開かれる前にオーク達に問い掛ける。


『恭順か死か。選べ』

「――――――」


 鬼の問い掛けの意味がわからず、オーク達は既に行動可能になっているにも関わらず攻撃を再開しない。ただ戸惑いながら周りに居る仲間へ視線を向けるばかり。

 その中で真っ先に行動を見せたのは覇気の影響を殆ど受けていなかったオークの王ガンズ・エフであった。彼は軍勢の後方で、尚且つそこまで大声でもないのに関わらず、鬼と同じように不思議と響き渡る声を発する。


「……貴様。それはどういう意味だ?」

『知れたこと』


 銅色の目がガンズ・エフの赤い目を見据える。


『我はお前達の“在り方”が気に食わない。そう、不愉快だ。だからこそ、我はお前達に最後の機会を与えよう。真の魔王であるラーヴァナがその名を持ってお前達に』


 ラーヴァナは右腕に持った曲剣で地面を示す。

 我が前で地に伏せよと指し示す。


『金輪際、我が意に沿わぬ生き方をするな。その上で我に恭順するならお前達を魔王である我が臣民として下に付くことを許す』

「……貴様の意に沿わぬとは?」


 ガンズ・エフは手に持つ戦斧に力を込める。身の内に湧き上がる激情が彼の肉体に血管を隆起させる。纏う空気が重さを増す。


『略奪。陵辱。虐待。虐殺。……それらとそれに類する全てが我にとって非常に不愉快だ』


 それらは悪魔(デーモン)にとっての最上の娯楽であり生き甲斐。そして悪魔に従うモンスターにとってもそれらは最高に気分が良くなる行いである。


『我に下り、我を不愉快にしない生き方をこれからするというのであれば、生かしてやらん事も無い』


 それらをラーヴァナは否定して、自身に都合の良い生き方をせよ要求する。

 そしてその発言は、逆を言えば従わなければ全て殺すという意味になる。


『さあ、選ぶがいい』


 その傲慢な物言いはオークの王が怒髪天を衝くには十分であった。


「その愚か者を殺せっ!!」

『『『ゴァアアアアアッ!!!』』』


 再び進攻を再開したオーク達。それはまさに激流の如し。

 目を血走らせ、筋肉を隆起させ、武器を振りかぶる。その激情は目の前の鬼を殺さねば収まらない、そしてその先の都市の全てを蹂躙して愉しまねば解消されないと駆ける。

 ラーヴァナはその怪物達の様子を見て残念そうに呟く。


『では、……死ぬがいい』


 悪意には悪意を。蹂躙には、蹂躙を。


 接敵したオークの集団、10体が一瞬でバラバラの肉片に変わる。

 肉片が降りしきる中、二十の月光を閃かせるラーヴァナが一歩を踏み出す。津波のようにオークの大群が押し寄せる。

 再び多くの怪物が肉片へと変わる。血飛沫が舞い、肉が飛び、月光が走る。


 オークが押し寄せる度に二十の刃が走りこれを斬り刻む。

 オーク達は腕や脚を落とされようとも吠えながら武器を振るい、牙や爪を突き立てようとしてくる。

 それらが全てバラバラと斬られ落ちる。

 頭を失っても最後の足掻きとして襲い来るオーク達。それから行動力を奪う為に容赦なく肉片に変えていく。


 ――――――

 名:デルフェ

 種族:オーク

 性別:雄

 年齢:9

 レベル:कुर्बानीकोअभिशप्तबुराई(38)

 スキル:ケダモノ、棍棒、タフ、【黒羽の依り代】、【六芒星の呪装】、【天地黒白の邪法】

 称号:蛮族、略奪種族、邪淫、【闇祭祀の指先】

 ――――――


 僅か十数秒の内に100を超えるオークが死体になり、草原に積み重なっていくそれは繋いで元の体に戻すのが不可能な有様である。


「っ!? 上位悪魔(グレーターデーモン)よ行け!!」


 ガンズ・エフが部下であり、オークを千体規模で統率する上位悪魔のオーク・デーモンをラーヴァナ討伐に回す。悪魔級に強化されている筈のオークが赤子の手を捻るよりも容易く殺されていく光景に危機感を覚えたのだ。


『死ね不届き者めっ!!』『雑魚を殺して粋がったか!!』

『…………』


 ――――――

 名:ダルドー

 種族:オーク・デーモン

 性別:雄

 年齢:288

 レベル:कुर्बानीकोअभिशप्तबुराई(450)

 スキル:頑強な硬皮、怪力、精強なる生命、暴虐、邪戦士、悪神の加護、【黒羽の依り代】、【六芒星の呪装】、【天地黒白の邪法】

 称号:邪悪なる怪物、上位悪魔、悪神の尖兵、【闇祭祀の指先】

 ――――――


『カペッ』『パガッ』


 2体のオーク・デーモンが五体バラバラにされてその頭部を細切れにされる。万が一にもその強力な生命力を持って牙を剥いてくる余地をラーヴァナは完全に奪い殺す。

 この瞬間にガンズ・エフは自分以外であれに拮抗することが出来ないと悟る。


 魂の位階が300を超えれば一騎当千。400を超えれば一兵当軍。

 強化されたオークは200相当、上位悪魔に至っては500相当になっている筈である。


 ガンズ・エフは塵芥のようにモンスターもデーモンも殺していく羅刹を自身の生涯において最大の敵であると定めた。この時点でオークは8千を下回った。たった数分でこれである。


「くそっ! ……貴様達はあれを無視して都市へ往け!! その鬼は我とバフォメット殿が相手をする!!」

『聖戦である』


 ガンズ・エフは背後に魔王バフォメットを置いて前へ飛び出していく。会話が碌に成り立たずともこの魔王が自分達に全力を貸してくれているのをガンズ・エフは理解している。

 恐るべき敵ラーヴァナ。

 これを殺すには“悪神の寵愛”を授かるに至った己と、出自や存在理由は知らずとも悪神の兵へ力を授けてくれるバフォメットが全身全霊で当たる必要があると、ガンズ・エフは戦斧を構えて躍り掛かる。


 ラーヴァナの瞳、【十天慧眼(マハダシャアクシ)】がこの場において最も手強いであろう2体の怪物の姿を捉える。


『お前がこの軍勢の首領、そして―――』


 ――――――

 名:ガンズ・エフ

 種族:オーク・デーモン・ロード

 性別:雄

 年齢:987

 レベル:कुर्बानीकोअभिशप्तबुराई(620)

 スキル:猪王の剛皮、猪王の剛力、猪王の強大な生命、無双剛武、猪王の覇気、悪神の加護、【黒羽の依り代】、【六芒星の呪装】、【天地黒白の邪法】

 称号:邪悪なる猪王、支配者、悪神の寵愛を授かりし猪人、【闇祭祀の指先】


 ――――――


 名:闇祭祀の魔王バフォメット(AI.Type:MCF)

 種族:アークデーモン

 性別:―――

 年齢:―――

 レベル:1100

 スキル:黒羽の依り代、六芒星の呪装、天地黒白の邪法、暗黒魔法、呪術

 称号:異界の魔王、祝福を授けし闇の司祭

 ――――――


『―――お前も来たか、2体目の【九獄天魔王(インフェルノ)】』


 〈NSO〉での魔王レイドボスの1体であり、『大群』対『大群』の形を取って行われる戦争遊戯(ウォーゲーム)のボス。


 “地獄穴”は塞がれようと、アバドンによって通された“道”を這いずるようにして顕れた2体目の魔王。

 数多のプレイヤーが『名有り(ネームド)級』や『準ボス級』に強化されたモンスターを討ち取りながら進軍。

 その果てに、極限まで強化した怪物を侍らすバフォメットを倒すことで勝利となったメインストーリーの一つ。


 搭載されたAIは心を持たない物であり、その思考ルーチンはただひたすら自軍の強化を繰り返すだけ。強化を与えて与えて与えて与えて尽くし、数多の屍が転がる大地で生き残るモンスターへ最上級の強化を与える邪悪な強化特化者(バッファー)


『この世の害にしかならないお前達は、……我がここで殺してやる』


 夜天の下、月光を浴びる羅刹は迫り来る悪魔を歓迎する。

 へラーヴァナが操る二十の繊月の曲剣(チャンドラハース)が目前の敵を屠る為に躍り掛かる。

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