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4.戦闘という名の蹂躙。嘆きのプレイヤー

 挑戦者たるプレイヤー達が荒野(ランカー)へ踏み込む。パーティ人数はクエストの上限である10人。そして全員のレベルは現時点でMAXの450に到達している。ステータスの体力や魔力は高ければ6桁に迫り他の値も4桁5桁が当然。それを極められた武装が隙無く底上げしている。

 そんな正真正銘の最上位(トップ)が10人。通常、ステータス差を単純に考えれば魔王ラーヴァナを討伐するに十分な能力。

 誰もがプレイヤーの勝利を疑わない―――などと楽観している者は誰一人として居ない。


「今日こそ倒させてもらうぜアシュラマン!」

『……力を示せ、戦士よ』


 正義は相手の言葉に定型句で返答しつつ、呼ばれた渾名のセンスを考える。


(アシュラって……別種族何だけどなー)


 しかしそう呼ぶ気持ちも分からなくは無い。ネットで魔王ラーヴァナが話題に上がる時、アシュラマンと云う呼称を使う者は少なくない。

 渾名の由来はこの魔王が持つ能力が関係していた。正義は「……まあ期待に応えようか」と考えて件のスキルを発動させる。基本的に開幕と同時に使うのだが多少早くても趨勢に影響しないと判断しての行動である。


『【百死轟拳】』


 発動と同時に『腕』が出現する。

 それはラーヴァナの腕と同じ青で染め上げられた羅刹の腕。生体装甲により武骨に飾り立てられた巨腕、それがラーヴァナの周囲に浮遊しながら出現する。肩口から切断されたような空飛ぶ腕が左右合せて九対。それは魔王を起点にして約2~3mの範囲で滞空する。

 自前の腕と合せて二十本の腕がまるで後光を背負うように展開された。

 これがラーヴァナの戦闘態勢であり攻撃・防御を高水準で発揮する為の必殺スキル。この多腕状態がとあるコミックのキャラクターを連想させる事から付けられたのが『アシュラマン』である。……そのキャラよりも腕が14本ほど多いのだが些末な問題らしい。印象優先のようだ。


「早速かよ!?」「あんたが挑発するからでしょ!」「まあ絶対に使用してくるスキルですしね」「魔王にも縛りプレイしてほしい」「腕多過ぎワロエナイ」「魔王もプレイヤーって絶対にガセだよな」「20本の腕なんて脳で処理できる訳ないだろ」「でも武器7つ同時に使う人も居るよね?」「あれでも十分変態だがあの魔王は20本だぞ? 中身はAIだろ流石に」「AIにしたら強すぎる」「……じゃあ人間でもAIでも無いが正解だな」「それが正解って怪物か宇宙人かよ」


 そんな雑談をしていても彼ら(プレイヤー)に油断は無い。幾千と繰り返してきた戦闘準備を呼吸を行うのと同じぐらい自然に整えるだけ。

 互いに、これから始まる真剣勝負を全力で楽しむ為に準備を完了させた。


『―――ッ!!』


 魔王が進撃を開始する。

 素手。ラーヴァナは武装も所有しているがゲーム設定として制限が掛けられており、規定値まで体力を削られないと武装を召喚する事が出来ない。よってラーヴァナは多腕でプレイヤーへ襲い掛かる。


「来たぞ、前衛!」「ひぃいい怖ぇーッ!」「圧力ハンパ無い」「しっかりしろっ! 他のボスより小さいだろ!」「デカさの問題じゃねえよ!」「これで武器出されたら死ぬね」


 前衛である3人が飛び出すと魔王へ躍り掛かる。騎士や剣士に遊撃の双剣使いが取り囲む。そして陣形を組むと同時に息の合った攻撃を開始する。

 正面から大盾を構えて突進する騎士。


「ッ!!」

『我を貫いてみよ』


 ラーヴァナはそれを自前の腕で受け止める。左から切り込んできた剣士の斬撃は浮遊する腕を使い、剣の腹を掌で押して逸らす。背後から来た双剣使いには3本の腕を回して剣を受け流し、そのまま勢いを乗せて牽制の拳を打ち込む。それと同時に2本の腕を使って騎士と剣士を掌底で突き飛ばす。


「ぬっ!」「おえっ!?」「くそったれ!」


 吹き飛ばされた3人。そうして空いた隙間をラーヴァナは一気に駆け抜ける。目指すは後衛、その為に先ず狙ったのは中衛の4人。放って置けば行動阻害や能力低下の状態異常を重ね掛けしてくる。一部状態異常は無効であるが全てを無効化出来る訳ではない。潰せる時に潰すべき。


「ちょっとまだ敵意(ヘイト)稼いでないわよ!?」「やっぱりプレイヤーでは?」「言ってる場合か!」「捕まったら一瞬で体力溶かされるぞ!」

『砕け散れ』


 最初に狙うのは一撃の重い暗殺者(アサシン)。6つの拳で囲い込み逃げ道を背後に限定する。しかし退けばそこには自分よりも耐久の低い魔法使いが居る。ここで退くのは愚策でしかない。それを理解している暗殺者は苦み走った表情になり、迎え撃つこと選ぶ。そんな追い詰める魔王の背後から矢が飛来し、それを控えさせていた腕の1つで叩き落とす。しかし矢はそれだけでなく頭上から雨霰と降り注ぐ。

(暗殺者ごとか。確かにそれで正解)

 一発一発は威力が低い。しかし当たれば多少なりとも動きが阻害される。防ぐか弾くのが得策である。その機会を待っている魔法使い達はその隙に魔法を紡いでいく。詠唱を聴く限りそれらは攻撃力や防御力を下げる弱体化魔法だと判別出来た。矢は防げるがそれはタイミング的に防ぐのは不可能。

 だから魔王は暗殺者の攻撃をねじ伏せて上へかち上げ、矢の雨を防ぐ。


「やられた!」「あばばばばばばっ」「“アル☆ソン”!?」「くっ許せ!」「奴は犠牲になったのだ」「デバフを掛ける犠牲、その犠牲にな」「いいから救援入れよ!?」「待ってろ!」


 肉の盾で矢を防ぎながら、そのアル☆ソンと呼ばれた暗殺者を追い打ちするように5つの拳で滅多打ちにする。体力が一気に危険域(レッドゾーン)に突入する。その間に弱体化魔法が魔王に掛かる。しかし気にすることは無いと魔王は救援に来た2人に標的を変える。2つの目にある20の瞳、【十対の瞳】はこの場に居るプレイヤーを全員視覚に収めている。大太刀を使う侍と片手剣と盾を構えた魔法剣士を拳と蹴りで迎撃して吹き飛ばす。


『無駄だ』

「あべしっ!」「でばふっ!」「やられたぞ!?」「“ゴザル”!? “ふゅー~ちゃ~”!?」「馬鹿野郎そいつは後ろにも目がある気持ちでやれ!」「当たった! ……ひぃいいやっぱり硬い!?」「硬いんじゃねえよ表面で流しやがった!」


 槍使いの渾身の突き、それを装甲の表面で触れた瞬間に体重移動によって勢いを殺し身を震わせて威力を拡散、損傷を最小限にまで打ち消す。

 後衛から回復魔法が飛んできて暗殺者の傷を癒やす。ラーヴァナはそれを見届けると再び接近してきた騎士の盾を手で受け止め突き出されたランスを弾いて跳ね上げる。そうしてがら空きになった胸部に掌底による鎧通し……鎧を越えて内部に浸透する打撃を放つ。それと合せて手刀で頭部を打ち抜き前後不覚にする。

 体力が危険域(レッド)になった騎士を援護しようと、剣士と復帰してきた侍と双剣使いが一気呵成に連撃を浴びせてくる。青い装甲に傷が刻まれていく。


『小癪な』

「よしいける!」「体力削ってるのにこっちが怖い」「ここからが本当の地獄だ」「そろそろアレがきそうだ……」「マジ勘弁」


 防御力に補正が掛かる【頑強なる青】は強力なスキルではあるが、それは魔力や闘気を介した物が特に有効であり通常攻撃に対してはそこまで補正は掛からない。故に通常攻撃を凌ぐのは純粋に本人の技量が物を言う。

 ラーヴァナは回避や防御が困難な攻撃はわざと腕を犠牲にして威力を減衰させる。一度プレイヤー側の攻勢が優勢になると抜け出し難い。


(……だがそれで良い)


 反撃を織り交ぜながら魔王は()()()が来るのを待ち―――


『強き者よ。お前達に敬意を表そう』


 魔王の体力が半分を割った。それはつまり……規定値に達したと云う事。


「やっべー来るぞ!?」「おいでませ地獄」「招かれたのは我々でした」「言ってる場合か!?」「最初に落ちた奴は炭鉱夫な」「レア鉱石出るまでね」「味方にも鬼が!?」「馬鹿野郎共! 迎え撃つ準備をしろ!」


 ここからが魔王の本領。掛けられていた制限が解放される。

 多少のダメージは許容してラーヴァナは飛び退りプレイヤーから距離を取る。距離を取った事でプレイヤーに回復はされ体勢を整えられるが問題無い。それに応じた魔力やアイテムを消費させた事に変わり無い。

 ラーヴァナは素手で戦い続けるよりも()()を出す方を優先させる。


『【月震武装】。出でよ―――繊月の剣(チャンドラハース)


 全ての腕の掌に月光が集まる。

 集束した月光が形を変えて刃と成る。そして最後に一際強く輝きを放ったそこには……魔王の巨躯に相応しき大振りの曲剣が顕現した。

 二十の手が握る一振り一振りがまるで月の光を封じたかのように妖しくも美しい燐光を放つ。剛剣然とした外観だが朧のような儚さをも併せ持つ。

 そのままでも強力な剣。それをラーヴァナは事前に発動させたスキル【月震武装】により強化させる。月明かりが照らす夜と云うひどく限られた状況下でしか真価を発揮出来ないスキルだが、だからこそ夜天が頭上を覆い見渡す限りの荒野が広がるこの〈ランカー〉に於いては最大の効果を発揮する。


『さあ戦士達よ。ここに血と闘争の世界を』

「ほんとにヤだこいつ」「何でこのボスだけ動きが良いんだよ」「前より強くなれたのに勝てる気がせん」「剣多過ぎワロタ! ……ワロタぁ……」「諦めんなよ!? もっと熱くなれよ!!」「体力あと半分だよ! もう一踏ん張り!」

『共に踊り狂おうぞ』


 気合いを入れ直したプレイヤーに向かってラーヴァナは自前の腕に掴んだ曲剣を構え、十二本の剣を周囲に旋回させながら走り出す。

 より攻撃的になった魔王。それに対して初めに攻めてきた前衛3人が仲間の壁となるべく向かう。


 ―――魔王の曲剣で剣士の肉体がバラバラになった。


 瞬く間の出来事。剣士は「……はえ?」と、状況を理解出来なかったが故の間抜けな声を漏らして地に落ちていく。分割された手足や頭、胴体が荒野に落ちて散らばる。

 ラーヴァナはその惨状を一瞥する事も無く、今度は騎士と双剣使いを標的に収める。


「―――“ゴザル”“ふゅーちゃー”“丸ごとリンゴ”!! “ソドムン”が落ちた穴を埋めろ!?」「罰ゲームの炭鉱夫一人目は“ソドムン”です……」「10秒も耐えてねえ」「ミンチより酷ぇや」「ちょっ!? 盾削られる!?」


 騎士の防御をその上から掘削機のように5枚の刃で削り、双剣使いは彼の手数よりもなお多い手数で圧死させるように追い詰める。その時にカバーに入ってきた侍、魔法剣士、槍使いを未だ十以上控えている刃で迎撃した。


 刻む。斬り刻んでいく。

 ラーヴァナに向かって時折魔法も飛んでくるがそのどれもが低位から中位の魔法で、強力で大規模な物は使えないでいる。それもその筈、ラーヴァナが自身に接敵している前衛のプレイヤーをわざと近距離に抱え込んで1人も逃がさないようにしているから。

 味方を高位魔法の殺傷圏内に捕らえ続ける事で使わせない。よって後衛の魔法使い達が出来る事と云えば味方への強化(バフ)や魔王に対する弱化(デバフ)が関の山。もしも今の段階で高位魔法を放った場合、前衛は沈むのに魔王は健在という最悪な事態になりかねない。前衛や中衛が居なければ後衛は先の剣士よりも容易く屠られてしまう。


『さあ、貴様らの命の輝きを見せてみよ』

「俺オワタ」「こっちももう駄目ぽ」「諦めんな気張れ!?」「“ナイター”の蘇生間に合う!?」「無理! 回復で手一杯!」「ぎゃっ!? 部位欠損したぁああ!?」「盾壊れたぞ!?」「【神速】の乗った攻撃軽々いなすの止めてくんねえかなー!?」「ボスがフェイント使うなや!?」「こっちのフェイントは利かねえのに……」


 阿鼻叫喚。

 双剣使いや槍使いは目にも留まらぬ筈の速度で攻撃を繰り出すが魔王には届かない。優しく受け止めて返す刃で斬り裂かれていく。

 騎士の盾は完全に削り壊され、弓使いは曲剣の投擲で片腕を切断された。前衛・中衛が押されれば次に殺傷圏内に入るのは後衛。剣であり盾である前衛が総崩れすれば後衛に暴虐の魔王を止める術は皆無。


 宵闇に二十の月光が閃く。その一閃一閃が致命的な損傷を与える。

 魔王に一切の容赦は無く必死に足掻き続けるプレイヤー達を削りながら終局へと誘う。


 ―――戦闘開始から約10分後、1組目のパーティは敢え無く全滅した。

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