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3.クソボス。後に名物に。

後書きに魔王のステータス表記。

 西暦2038年、あるゲームが発売された。それはこれまで発売されたフルダイブ型のVRゲームとは一線を画し、世のゲーマーのみならずゲームに興味の無かった者達まで取り込んだ。


 題名(タイトル)、〈Nirvana(ニルヴァーナ) Story(ストーリー) Online(オンライン)〉。


 〈NSO〉と略され呼ばれたこのゲームは発売前の宣伝やβ(ベータ)テストによる前評判によって多くのゲーマーの期待を集めた。そして満を持して発売された〈NSO〉は彼らの期待を、その想像を軽々と越えた。

 基本的な骨子はこれまでのMMORPGと大きな違いは無く。よくある魔法やモンスターが存在する世界を舞台にしたファンタジー系RPGであった。

 これまでも電脳量子化を用いたVR対応のオンラインゲームは世に出ていた。なら〈NSO〉は一体これまでのゲームと何が違っていたのか? 


 それは―――世界の美しさ。


 〈NSO〉の世界を体感した者は皆一様に言う。「〈NSO〉こそ本当の意味で現実を超越した世界である」と。

 ……この世界(〈NSO〉)にも苦しいことや辛いことは存在する。それは誰かと競合するオンラインゲームでは必然とも云える……だがそれでも〈NSO〉にはそれ以上の至福が存在する。現実で可能で〈NSO〉で不可能な事は無く、つまり現実以上の情熱と快楽がここに在ったのだ。


 草花や植物が生い茂る緑の大地、その大地を流れる清廉な河川とその麗しき水が湧き出る山岳。そして、それら全てを包み込む大いなる宙。

 目に映るその全てが手に触れて感じ取れ、進めば踏破出来る紛れもない世界。


 そして世界とは美しさだけで創られているに非ず。この世界はより現実感(リアリティ)を……現実さえ越える“残酷”も用意されていた。

 他者を殺して喰らう怪物、環境を削り壊す自然災害、種族ごとの軋轢や差別、倫理を踏みにじる犯罪行為。そして……血と肉。


 現実の全てがそこに在った。現実を越えた物がそこに在った。

 〈NSO〉の流行は社会現象にまでなった。それは当然の流れであり、過熱された人気は現実に多大な影響を及ぼし社会規制が掛かった程。


 その発生した多くの問題にも一区切りが付いた2040年、〈NSO〉にある追加要素が入った。


『エクストラ・ボス【魔王】の導入』


 これまでも〈NSO〉が発売されてから数年間で新章(ストーリー)やエネミー、アイテムにボスなど様々な物が追加された。だからそのエクストラ・ボスもその1つだとして導入当初はあまり話題にならなかった。しかしそれは僅か2日で〈NSO〉関連の掲示板を埋め尽くす事になった。

 ―――悪評として。


 挑戦できる人数が制限され、時間も定められた範囲内でしか受ける事が出来ず、多くの〈NSO〉プレイヤーにとっては不満要素(マイナス)として認識されていた。

 そして彼らがもっとも問題視した要素、それは……戦闘力。

 攻撃力・防御力・俊敏性・スキル・特殊能力。これらに問題は無かった。公表されていたステータス、その配分や比率はこれまでのボスから逸脱する物では無かった。

 だが、誰も勝てなかった。

 挑んだプレイヤーは全て返り討ちにされた。


 勝てないボスにいったい何の価値があるというのか? それに対して〈NSO〉の運営はプレイヤーの全員に告知していた。


『この魔王を倒しても特別な報酬は用意されていない』


 有り得ない告知だった。あの強敵たるボスを討伐しても特殊なアイテムは入手出来ないと言ったのだ。普通なら公式のホームページが炎上するかもしれない発言。……しかしそれは大きな問題にならなかった。

 その魔王と戦い返り討ちに遭ってもデスペナルティが無かったのだ。

 通常ならプレイヤーが力尽きれば所持金やアイテムの一部を失ったりステータスの低下などが発生する。それがこの魔王との戦いでは無い。そればかりか戦闘中に消耗した武器防具の耐久値や回復アイテムなども戦闘前に戻るのである。


 謎の仕様に困惑するプレイヤー達に運営は再び告知した―――「勝利して栄誉を手にせよ」と。


 それで察した。この魔王という存在は単純な腕試しの場であると。それならそれで活用するがネットゲーマーと云う人種。

 多くは魔王との戦闘を録画したプレイ動画をネットへ投稿(アップ)。自身のプレイヤースキルの自慢、笑いを取るだけの受けを狙った一発ネタ、いっそのこと戦わないで観察に徹する、それらに属さないで真剣に討伐を目指す上位者……等々。

 彼らは様々な方法でこのエクストラ・ボスに向き合った。


 最初は悪評ばかりであったこの魔王も二ヶ月も経つ頃にはある種の〈NSO〉の名物ボスとしての地位を確立した。


 それ以降も追加された様々なボスや他の魔王。しかしそれらを差し置いて『真の魔王』と敬称されるのはそのエクストラ・ボスだけ。


 ―――しかしどんな物にも終わりが在る。


 西暦2041年。エクストラ・ボスが君臨して丸1年経った日。

 その日がこの魔王の本当の意味で最後の日となる。




 ◆◆◆




 少年……正義だった存在は別の姿となって地に降り立つ。この世界は〈Nirvana Story Online〉の空間。正義は自身を別の電脳分身(アバター)に変化させてこの世界に来た。

 広大な荒野。その赤茶けた大地を覆うように月が輝く夜空が広がる。

 このエリア名は〈羅刹の荒野ランカー〉。およそ1年間不敗を貫いたエクストラ・ボスが領土とする魔王の根城。


 月明かりが夜空から降り注ぎ、魔王の姿が晒される。


 鬼。

 金色の双角を生やし青い甲冑のような生体装甲を身に纏う身の丈2.5mを越す巨体。そこに立つだけで威圧を与える巨鬼は銅色に輝く瞳で荒れ果てた荒野を睥睨する。両眼の中で光る二十の瞳孔染みた視覚器官が動く。複眼に似た働きをする1つ1つの目が捕捉した敵を見逃す事は無い。


『…………』


 畏ろしき青い鬼、羅刹(らせつ)

 その正体である乱麻正義は自身の胸に手を当てる。そこには現実の生身だった時と違い鼓動は存在しない。人型のアバターならある程度の脈や鼓動は実装されている。だが正義は確かに感じている……自身の小さな鼓動を。

 命尽きる、その刻限が近付いている事を。


『……ここが我の死に場所か』


 口から出された言葉、そこには穏やかで優しい少年の面影は存在しない。重々しい腹の奥に響く低音、口調も役作り(ロールプレイ)の一環で変えられている。


『だが最期の時まで役割を、……仕事をこなそうか』


 正義は自身の能力に変化がないかステータスを呼び出す。それは他者には不可視で彼の視界にのみ仮想ディスプレイとして出現する。


 ――――――

 名:魔王ラーヴァナ

 種族:|ラセツ

 レベル:999

 能力値

((略))

 スキル:【百死轟拳】、【十対の瞳】、【月震武装】、【不滅の心臓】、【頑強なる青】、【羅刹ノ荒神】

 称号:【魔王】、【ExB(エクストラ・ボス)

 ――――――


 正義は問題が無いのを確認する。相変わらず体力の値は9桁で防御力は7桁と飛び抜けているが、これもプレイヤーの攻撃をまともに受け続ければ10分もせずに溶けて消える値である。それに致命の一撃(クリティカル)でも貰えばそれで戦いの趨勢が決定する程度。慢心が即死に繋がる。正義はそれを胸に刻みこの荒野でプレイヤーを待ち受ける。

 あと数分もせぬ間に順番を待っていた挑戦者が現れる。


『……命続く限り、戦い抜きたいものだ』


 ステータスを閉じて準備を整える。タイマーのカウントが開始されて二時間が魔王と戦闘可能時間となる。それを日に3度、毎日。

 今日この時間は3度目。偶然だが正真正銘最後の時間。

 正義はこの時間内で何組のプレイヤーと戦えるか予想する。それはこれまで積み重ねから予測した物であり直ぐに概算が出される。


(長くても1組で20分も掛からなかったから……)


 最高記録は二時間で10組。


『新記録でも目指して戦おうか……これが最後だからな』


 〈NSO〉の運営に雇われた乱麻正義は魔王として戦ってきた。それも今回が最後。正義が居なくなれば引き継ぎの者が用意されているが……真の意味でこの魔王と戦えるのは今日で最後なのだ。


『動く肉体。肌で感じる自然。口で食べられる料理。……VRを完成させた者には感謝しかない。一度で良いから会ってみたかった……』


 正義は目を閉じる。それに連動して銅色のレンズが黒に染まって閉ざされた事を表わす。そうして正義は草原でしていたように瞑想を行い……集中を深めて知覚を広げていく。


 時間が来る。乱麻正義、最後の務めが。

 名:魔王ラーヴァナ

 種族:羅刹(ラークシャサ)

 レベル:999

 体力値:150,000,000

 魔力値:900,000

 攻撃力:100,00

 防御力:1,800,000

 素早さ:12,000

 器用:75,0000

 精神力:1,800,000

 幸運:8,000

 スキル:【百死轟拳】、【十対の瞳】、【月震武装】、【不滅の心臓】、【頑強なる青】、【羅刹ノ荒神】

 称号:【魔王】、【ExB(エクストラ・ボス)

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