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15.都市の門まで辿り着く

 陽が落ちて夜になり、そして更に時間が経って夜明けの時が来る。

 それだけの時間をセーギは歩き、時に走り、何となく木の天辺に登ったり……およそ半日を掛けて短くない距離を進んだ。

 森は既に抜けた。


『……すぅー……すぅー……』

「可愛い」


 セーギは腕の中で深く眠るマリーの首元を指先で優しく撫でる。目覚める気配の無い様子からやはり親との離別は精神的に辛く堪えたのだろうと想像する。


「しかし全然疲れないなこの体……逆に気持ち悪い」


 森を越え、平原を走り、モンスターを回避しながら進んだ数時間。そうして歩んだ距離は遂に常人の肉眼でも薄らと都市が見える場所までセーギを連れて来た。

 その間セーギが取った休息はただの一度も無し。それなのに彼の気力・体力は共に減った感覚は無い。


 この世界はゲームでは無く現実。だと云うのにこんな感覚を味わうセーギは言葉にしづらい気持ち悪さを覚える。もしシータに胸を貫かれた痛みやディアンサスやマリーと触れ合った時に感じた温もりがなければ彼の意識はもっと浮世離れしていたかもしれない。


「昼前には着きそうだな~」


 腕の中のもふもふとした柔らかさと温もりに癒やされながら歩く。遠目だがセーギの視力はしっかりと都市の規模を見て取る。スキルによる遠視で“城”の存在も確認している。


「王都? 王様なんてテレビの向こうでしか知らないなぁ」


 皇族や王族などとは縁もゆかりも無かったセーギは本物の城に気持ちを盛り上げる。

 それでもセーギは油断無く後方を振り返り、遙か後ろとなった抜けてきた森を確認する。


(……軍はまだ来てない。じゃあシータさんも都市には着いてないのかな? ……まあまだ謝罪の方法は何も考えてないけど)


 立ち止まる。そしてセーギは白銀の大角を脇に挟み込み地面から適当な小石を幾つか拾って握り込む。


「しかし物騒だな―――っと」


 握り込んだ小石に限界まで“氣力”を込め……親指で弾いて撃ち出す。

 氣を込められた小石が銃弾のように空気を貫きながら飛んでいく。セーギはそれを握り込んでいた小石の数だけ繰り返す。

 音速を超えて飛ぶ計4発の石弾。

 それはセーギが居る位置から()()|離れた場所で馬車を襲っていた大鬼(オーガ)4体の頭部に激突―――その頭部を破裂させた。


 肉体に流れる力の源、氣力。その力能(エネルギー)を自壊寸前まで込められた石弾は対象を貫き爆散。オーガの頭部を内側から完全に破壊したのだ。


「都市が近いのに出るもんだな」


 追加で拾った小石を今度は馬車を基点にオーガが居た反対方向へ撃ち出す。殆ど同時に発射された5つの石弾は……息を潜めて馬車を後ろから襲撃しようとしていた小鬼(ゴブリン)5体の頭部に当たってこれも爆砕する。


「気の抜けた所を狙ったりするのかな?」


 遠距離からモンスターを軽々と処理したセーギは何事も無かったように移動を再開する。その際に馬車の御者や護衛からは視線が通らない丘の稜線の影を選んで進む。


 セーギはさっきの指弾の感覚を思い出して考え込む。


(……魔王(ラーヴァナ)には射撃系スキルは無かった。近距離なら力技で当てられる……でも長距離狙撃は厳しい……てか小石でとか無理。相手に届く前に小石の耐久が保たない)


 殺したオーガのレベル平均は40前後。次のゴブリンも同じぐらい。ゲームの時でも片手間で仕留められるような簡単な存在。……しかしこれが投石による長距離攻撃となると話しは別。


「勇者の力か」


 セーギは指弾の時に反応したスキルに意識を向ける。 

 それは【邪悪討滅の勇者(ラーマーヤナ)】と【破邪の火(アグネヤストラ)】の二種。セーギはこれらが遠距離攻撃と用いる武器に対して補正……強化を掛けたのだと考える。



 ――――――


 ・邪悪討滅の勇者(ラーマーヤナ):神性を持つ勇者、その大いなる力をその身に。


 ・破邪の火(アグネヤストラ):それは神の矢。全てを滅する裁きの火である。


 ――――――



(……何度見ても要領を得ない情報。フレーバーテキストかって話し。実際の効果は体感で知るしかなさそうだな)


邪悪討滅の勇者(ラーマーヤナ)】と【破邪の火(アグネヤストラ)】。


(どっちも強力なスキルなのは確か。発動させて()()状態であれだけ破壊力が出るなんて……迂闊に使えないな)


 〈NSO〉であれば全力で試せる場所も有っただろうが……この世界で考え無しに強大な力を使う訳にいかないと考えたセーギはスキルの全貌を調べられずにいた。取り返しの付かない環境破壊などをしてしまったら目も当てられない。


(……馬車の人達はこれで安全になったろうし、、もう大丈夫だろう)


 危機を脱した馬車の御者や外で戦っていた護衛の戦士達が不審そうに当たりを見回す。それでも助けてくれた何者かを発見することが出来ず名残惜しげに都市へ向かう事を優先させた。

 その様子を見届けたセーギは本格的に都市に向かって足を動かす。


「……ああ。馬車に相乗りさせてもらう手もあったな」


 シータから逃げた時の癖が残っており、気付かれないように助太刀して身を隠してしまったのを後になって悔いる。


(―――ま、いっか。今は俺一人じゃないし)


 そんな悔いも腕の中で眠るマリーや白銀の大角を見れば些細な事となる。

 大切な仲間であり友人でもあるマリーやその家族から托された形見はどうしても周囲の目を引く事になる。それは不要なトラブルを招き寄せる事にも繋がる。

 馬車の一団と合流してそんなトラブルに巻き込んでしまうのはセーギの本意ではない。よって彼はこの世界での自らの“立ち位置”が明確になるまで他人に迷惑を掛けるような行動は可能な限り回避しようと決めたのだ。


「すんなり受け入れてもらえたら良いけど……」


 朝日を浴びながらセーギはゆっくりとした足取りで都市へと向かうのであった。




 ◆◆◆




 セーギは城塞都市という物を現実で初めて見た。


「近くで見ると迫力が凄い」

『これぐるーって囲んでるの?』

「そうそう。この都市全部、この高い壁で囲んでる」

『すごーい』


 高さ平均30m、厚さ5m。そんな巨大な壁が一つの都市を丸ごと取り囲んでいる。そんな高い壁をセーギとマリーは見上げる。まるで肩車でもするようにセーギはマリーを肩の上に乗せている。むしろ頭の上に乗せている。これは成獣の巨躯からは想像し難い小さな幼体だからこそ出来る事。


『門が開いてるね』

「あそこで通行管理してるのかな?」


 城塞都市の正門は開かれ人や馬車などが流れるように出入りしている。一部の者は素通りまたは短時間で通過しているが、長時間拘束されて手続きらしき事を行っている人も確認出来た。そしてそれらの関係で順番待ちの列が少しばかり出来ている。


「んー、身分証とかそういうのかな?」

『お金ー』

「あー……、それもあるか」


 入国の際に身分証提示か納税や担保として一時金を払う事がある。文無しであり当然ながら身分証も持ち合わせていないセーギは少し悩む。


「……()()はお金になるかな?」

『ディアの?』

「そっちじゃなくてこっちの方」


 セーギは手に持った白銀の大角……ではなく、ズボンのポケットに突っ込んでいる“悪魔の角”を指し示す。

 これは掃討したオーク・デーモン、その最後の一体の頭を捻り切った時に興味本位で捥ぎ取った物。頭を捨てる時に根元から折り砕いて確保したのである。他の角は全て頭を粉砕した際に紛失したのでこれ一本しかない。


「一銭の価値も無くて良いんだけどね」


 悪魔を殺したのはセーギがそうしたかったから。スキルや称号の【魔王】や【勇者】が悪魔への敵意を駆り立てる感覚は在ったが……それでも悪魔を実際にこの手に掛けると決めたのはセーギ自身の意志。

 故に何かの役に立つかもしれないと考え悪魔の角を確保してはいたが、これが無価値だったとしても気にしない。


『なるようになる?』

「ああ、流れに身を任せようか」


 マリーがセーギの頭の上から滑るようにして腕の中へ落ちてくる。優しく左腕で受け止めたセーギはマリーが落ちないように抱え込む。そうしてマリーは言霊を用いるのを止めた。黙っていると獣にしか思えない……外見の煌びやかさを除けば、だが。


(マリーなりに気を遣って目立たないようにしてくれてるのか。本当に賢い子だ)


 マリーの心遣いを汲み取ったセーギはそれを尊重し、自分からも目立つような声掛けはしないように意識した。

 会話が無くとも気まずくはならなかった。出会ってから短い時間しか経っていないが、それは互いにかなり心を許せている証拠でもあった。


「ここが最後尾かな?」


 門へ近付き、セーギはそのまま自然な流れで最後尾へ着く。


(……しかし……やっぱり目立つかー。落ち着かないな)


 列が進むのを待つセーギは自分とマリーに集まる視線を表向きは気にしていない素振りで返す。案の定マリーと白銀の大角は人目を引く。


(……さて、何も問題無く通れますように)


 これだけ美しい獣も角も、早々お目に掛かる事は無い。それを若造が持っているのだ、あまり好ましくない人が寄ってくる可能性がある。トラブルの種は何処にでも転がっているが好き好んで騒ぎを起こしたい訳ではないセーギは祈る……そうして、彼は後ろに目を向ける。


(軍の人達も来てるっぽいんだよなー)


 肉眼では見えない。しかしセーギの超感覚が遠方から大勢の人間がこの都市に向かって近付いてくる気配を掴んでいた。徒歩の兵と足並みを揃えているのかゆっくりとした進行、セーギは彼等が一時間もすれば都市に到着するだろうと予測する。

 そして、その軍には剣聖シータが居る可能性が高い。


(……同じ街に居たとして、気軽に会えるような人じゃないっぽいんだよなー。そもそもどんな理由で面会を求めれば良いんだ? 『あ、どうも。あの時の魔王です~』とか言うのか? ……ヤベー奴すぎる)


 セーギは案外シータへ謝罪出来る機会は近そうだと思う反面、接触の仕方が思い付かない事に悩まむ。考えて考えて……やはり思い浮かばず、周囲の人を観察しながら列が捌かれていくのを大人しく待つ。

 一般人を観察する事はセーギにとって有意義であった。この時点でも城塞都市に来た甲斐はあったと感じている。


 そして残り2組。それが済めばセーギ達の順番……そんな時であった―――


「ふざけんなっ!!」


 騒ぎが発生した。

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