表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/127

105.99戦99敗―――そして100戦目

 叩き付けられる怪腕が大地を砕き、空を切る掌が衝撃波を撒き散らす。


 一挙手一投足が圧倒的な破壊をもたらす化け物。それを相手に聖女2人は善戦する。


「―――っ。泣き言言っても良いっすかっ!?」

「一言で」


 迫る衝撃を盾で受け止め、砕ける大地を武装の力で固定して、ウスユキは汗をふき出しながら自分と同じように必死な面持ちで攻撃をいなし続けるロベリアへ声を掛ける。


「きついっす!」


 一瞬の気の休まる暇も無い嵐の如き破壊圏内を、時に踏ん張り、時に脱力し、集中力を削りながら活路を見出していく。そんなウスユキへロベリアは良い笑顔で答える。


「私もきつい」

「●●●●●●●●●●●!!!」


 常人の領域を遙かに越えたロベリアとウスユキの2人掛かりであっても化け物が繰り出す猛攻を防ぐので手一杯。彼女達のような者でなければまばたきの間に肉塊と化しているだろう。


「えぐいっ! やばいっ! 死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃうっす!?」

「平気平気。頭と胴体さえ残ってたら何とかなるから」

「それロベリア様だけっすからっ!? 私は無理っす!?」


 化け物の手刀でロベリアの右腕が肩口から叩き落とされる。

 しかし次の瞬間には傷口が燐光に包まれ―――切断されていた腕が繋がり修復される。


「……まあこれ、自分以外には出来ないから……頑張れウスユキ」

「ズルいっす!? 私もそんな風にパッと回復したいっす!」


 極みに到達した『金』の属性によって自身の欠損を自らの意志で『分けた』ことにして再び繋ぎ合わせる。そうしてロベリアは自分の傷を癒やしている。……しかし、非常に強力な自己修復能力であるが欠点が無いわけではない。


「これ……結構疲れるのよ? 正直もう怪我したくないわ」

「……私は怪我しただけで致命的っすけど」


 この修復は体力の消耗が多い。その上ロベリアは既に大怪我から一度復帰する為にこれで完全治癒を実行している。そこからの連戦……疲労していない筈がない。

 そして疲労が蓄積しているのはウスユキも同様である。タローマティから受けていた呪術その物は消え去ったが心身へのダメージは消えたわけではない。リンドウ達のダメージを肩代わりしていたのもそれに拍車を掛けている。


「●●●●●●●●●●●!!」


 そんな2人の抵抗を真っ向から押し潰さんと化け物は攻勢を強めていく。


「っ! 【全て分かつ金剛(シャフレベル)】!!」


 ロベリアの肉体に化け物の大量の腕が突き立てられる。―――しかし直前に発動した力によって『自身を分解』することによって物理的損傷を回避する。

 そのままロベリアは翡翠に輝く粒子となって自身の形を変える。


 大蛇へとその姿を再び転じたロベリアはその巨大な蛇頭で化け物に突進を敢行。

 激突。化け物を吹き飛ばす。

 それで役目を終えた大蛇はまた砕けて消えていく。


「ウスユキ!!」

「合点っす!!」


 隙が出来た。ロベリアの自分の残り少ない体力を大盤振る舞いした行動は化け物に隙を作ることに成功し、そこへ満を持してウスユキが奥の手を発動する。


「『我、心象を謡う獣なりや』―――」


 力ある言葉と共に『闇』が迸る。


 ―――【闇とは心の寄辺なり(ワフマン)】―――


「『響天(きょうてん)馨心(けいしん)(ごん)ノ章:翡翠の涙』」


 黄金の瞳が輝く。


『“夢見た未来”』


 風を切る刃が空気を震わせ闇を奏でる。


『“輝かしいあの日の世界”』


 踏み鳴らす足音が拍子を作り闇を形作る。


『“消えないで 奪わないで 傷付けないで”』


 薄水色の白銀が動くたびに旋律が鳴り響き闇が広がる。


『“愛した日々が消えていく”』


 闇の中で巡り満ちるそれは―――“歌”だった。


『“溢れた雫が未来を決めた 生まれ変われ 世界を変えるために”』


 ウスユキの歌声が戦場に広がる。その影響を受けるのはこの場に居る彼女を含めた3名。

 突然歌い出した目の前の排除対象に混乱したのか化け物は攻勢を鈍らせる。

 それに相反してウスユキとロベリアの動きは精彩を増し勢いに乗っていく。


 化け物の懐へロベリアが踏み込んだ。


『“強くなれ”!』


 咆吼のような歌を歌いながらロベリアは剛鱗で包んだ拳を化け物へ叩き付ける。


『“拳を握り立ち上がれ”』


 ロベリアとウスユキの歌声が重なり力がさらに高まっていく。

 化け物が十対の怪腕で懐に居るロベリアを押し潰そうとし、それを刃を振るい盾を掲げるウスユキが捌いて防ぐ。そうして自由に動けるようになったロベリアはそのまま両拳による連撃を叩き込む。


『“流した血は毒となり 歩んだ道を踏み砕く”』


 ウスユキの奥の手【闇とは心の寄辺なり(ワフマン)】は歌と舞によって成り立つ技。精神や空間に影響を及ぼす『闇』の属性を最大限まで研ぎ澄ませた極地。

 闇とは人の心に宿る物。内に秘めた思いの影。記憶・経験・感情・意志……。それらを積み上げて自身を形作る物。伝達手段がなければ永久に陽の当たらない(くら)くて尊い物。


『“たとえ思い出が穢れても”―――』


 声・挙動・表情……そして言葉。それによって『闇』は曝け出される。曝け出された闇はそうして周囲に影響を及ぼす。

 ウスユキとロベリアに『闇』によって強固な繋がりが構築される。舞による影を追うように『闇』がこの場に舞台を作り上げていく。そうして奏でられる歌が2人に力を与える。


 ウスユキが歌い舞い踊るこれは『闇』によって繋がりを得た――同調(シンクロ)した者が創り上げた物。表現されるそれはその人物が培ってきた『人生』。今日に至る日々が歌と舞になり、そうして発露された『闇』が力と成る。


 これこそが『闇の聖女』ウスユキ・リコリスレイザによる集団影響型の奥義。使用に当たっては相手に同格以上の力量が求められる技。精神に及ぼす影響が余りにも大きく自身よりも弱ければ両者の心の境界が曖昧になり著しい自我の変質をきたしてしまう諸刃の剣。

 だからこそ、ロベリアのように確固たる自我と力を持つ者であれば問題無く活用できる。


『―――“私はこの道を征く”!』

「っ!」


 連撃の最後に強烈な蹴撃を放ったロベリア。それを受けた化け物は後方へと飛ばされる。

 化け物が顕現してから初めてこちら側が優勢に傾いた戦況。


「っ!? 見つけた!!」


 そしてウスユキは“それ”を視界に収める。彼女が見ているのは化け物の腕の一つ。本来の右腕、その手首である。

 今まで奈落のような漆黒と異形の瞳に覆われていたそこにこれまでと違う物が見える。激しい猛攻で体表が崩れたことで晒された物。


 それは『白銀の腕輪』だった


「ロベリア様! 見つけたっす! マリーちゃんのお母さんの角っす!」


 ―――“不滅の聖弓(シャールンガ)”―――

 マリーゴールドの親である聖獣ディアンサスの大角が形を変えた物。

 角から弓へとなったそれは使用時以外ではセーギの右手首に巻き付く腕輪(ブレスレット)となって肌身離さず存在していた。


 ロベリアとウスユキは現状を打破する一手としてこの『角』を探していた。


「よしっ! じゃああれに触るわよっ! それで『セーギさんの心に触れられる』筈!」


 ロベリアは駆け出す。


「……マリーちゃんを疑うわけじゃないっすけど! 本当に大丈夫なんっすか!?」


 併走するウスユキはさらに疲労を濃くした顔をロベリアに向けてそう言う。未だに発動状態を維持している【闇とは心の寄辺なり(ワフマン)】が容赦無く彼女の体力を削り続けていく。そんな状態で今から行うことを遂行できるか……ウスユキは不安を抱く。


「出来る出来ないじゃない」


 そんなウスユキへロベリアは毅然として言葉を掛ける。


「やるのよ」


 翡翠の瞳は真っ直ぐに化け物へと向けられている。


「私はセーギさんを助けたい」

「…………」


 ロベリアの横顔をウスユキはじっと見て……首を横に振って笑う。


(……そんな顔されたら、頑張らないわけにはいかないわ)


 その恋い焦がれる顔を見てしまったら。

 彼と出会ってからの日々。その中で彼の存在はそれだけ大きくなった。


「……承知したっす! このウスユキ、そういうわけなら頑張らせてもらうっす! 全力全開で行くっすよ!!」


 ウスユキの気合いに呼応するように『闇』がさらに迸る。ロベリアとの同調(シンクロ)がより深まり奏でる旋律が彩りを増す。


 聖女2人は体勢を立て直した化け物へ一直線に駆けていった。


 ◆◆◆


「……行か……ないと」


 着物姿の少年。胸の辺りから下を喪失したままの彼は両腕で這いずりながら歌が響く戦場へと向かおうとする。

 陸崩の魔王(ベヒーモス)の形態から激しい消耗によって人間の姿へ強制的に戻ったオーズは思い通りに動かない体を無理矢理動かす。


「……僕も……セーギを」


 今も戦い続ける聖女達同様に、オーズもセーギを助けたいと願っている。その想いが既に限界を迎えている体を突き動かす。


「―――まったく」

「え?」


 そんなオーズの体をひょいと持ち上げる者が居た。


「無理すると死ぬでありんすよ? ……この状態で生きていることに驚きでありんすが」


 オーズを抱えたアザミはそのまま地面に腰を落ち着ける。そして自分の膝を枕代わりにオーズの頭を乗せて寝かせる。


「……お姉さん……は……」


 オーズはこの女性を知っている。タローマティが自分に始末するように命令した者の中に居た1人、セーギと共に居た彼の仲間。

 そんな女性が何故? いったい何の目的で近付いたのか。そんな疑問が湧いてくる。


「あらまあ……これは酷い。こんなにも刻まれて」


 そんなオーズの戸惑いを気にした素振りも無くアザミは少年の体に指を這わせる。その指に触れるのは“誓約(ゲッシュ)”の刻印。

 “誓約(ゲッシュ)”の刻印は肉体に浮かび上がるがその実態は魂に刻まれた物。肉体が半壊した状態でもオーズの身には依然として10の刻印が残っている。


「坊や」


 アザミは優しい手つきでオーズの頭を撫でる。


「坊やの所有者(ルーラー)は既におっ()んでありんす。だから今の坊やを縛る者はもう居ない」

「……なに……を?」


 いったい何の話しをしているのか。そんなオーズの疑問に慈しみの表情を浮かべたアザミはゆっくりと答える。


「それでも。……坊やはまだ、戦うでありんすか? ……戦いたいでありんすか?」

「…………」


 アザミのそれはオーズの想いを尋ねる物だった。

 こんなに傷だらけで、普通なら死んで当然の状態なのに。それでも前へ進もうとしていた少年に優しく語り掛ける。


「もし、まだ戦いと言うのなら……わっちが手を貸しんす」


 突然の申し出にオーズは目を見開く。


「良い……の? 僕は……」

「とんでもない怪物だったでありんすね。でも、だからこそ頼もしい」


 刻印の一つ、額にあるそれに手を当てる。


「……わっちの力を分け与えるでありんす」

「え?」

「“誓約(ゲッシュ)”の繋がりを利用した力能の移動。坊やの全力を考えれば小鳥の羽程度の重さでありんしょうが……それでも今よりましになる筈でありんす」

「ど、どう……して?」

「理由が知りたいでありんすか? 幼気な少年を助けたいという善意……だけじゃなく勿論打算も込みでありんす」


 今も戦っている白銀の乙女と同じ黄金の瞳が微笑みで細められる。


「わっちの家族、そして同じぐらい気に掛けている娘。その2人に坊やの力を貸してほしい」

「…………」

「どうでありんす? この老いぼれの頼みをどうか聞いてはくりゃれんか?」


 願いを口にするアザミ。……しかしオーズには既に刻印を通して彼女から力が流れ込んでいるのを感じている。


(……あたたかい)


 繋がりを通じてアザミの感情の熱が伝わる。普通なら有り得ないことであるが、今この場にはウスユキが展開した『闇』の力が漂っている。それがオーズに目の前の女性の本心を感じさせている。


「……わかった」


 打算と呼ぶには優しすぎる想い。今まで繋がっていた悪魔(デーモン)などと比較することすら、考えの端に浮かべることすら失礼に当たるその熱を感じたオーズは自然に言葉を返す。


「僕の力で……助けられるなら。あの娘達を……正義を、……助けられるなら」


 その言葉を聞きアザミは安堵したように息を吐く。


「ありがとう坊や」


 礼を口にした。そうした時、アザミ以外にもオーズの刻印に手を当てる者達が現れる。


「ちょっとアザミ様」

「若様達を助けるなら」

「私達も~協力するわ~」


 リンドウ、キンレン、ストレリチアはそれぞれ腕などにある別々の刻印へ手を当てている。


「ぬしら」


 アザミは笑顔を見せる3人を見渡す。


「ほーら。ちゃっちゃと私達の力も持っていってください」

「どうせ体力があってもあの戦いには混ざれない」

「だから~どうせなら戦える子に託してしまおうって~」


 刹那的に生きるのを至上としてきた3人。この決断もそんな思いの延長線上にある物。しかしそこに嘘は無い。それを知っているアザミは彼女達の思いを受け取る。


「……あいわかった。ぬしらの力も根こそぎ貰っていくでありんす」

「そうこなくっちゃ」

「お返しは長期休暇で」

「久し振りに~羽を伸ばしたいわ~」


 こんな時でも自由なことをのたまう彼女達の姿にアザミは苦笑する。


「……自由にするのは良いでござりんすが……あまり羽目を外すとウスユキが折檻しに来るでありんすよ」


 それはそれで有り。ウスユキに構ってもらえるのが嬉しい彼女達は満更でもない表情をする。

 問題児ではある。だがこんな状況であるからこそそれを補って余りある頼もしい3人。そんな彼女達の力も繋げてオーズへ流し込んでいく。


 ―――そして力を貸そうと思ったのは彼女達だけではなかった。


『ボクも』


 オーズの胸の上にぽすりと黄金の獣が乗る。


『ボクも力を貸す』


 黄金の聖獣その幼体。マリーがアザミの尾から飛び出してオーズの胸の上に降り立って自身の思いを口にする。


『セーギを助けたい!』


 小さい、しかし確かに存在を主張し始めてきた白銀の角が普段よりもはっきりと輝く。まるで火が灯り煌々とするように。


 マリーはロベリアへ加勢しに行くウスユキへ角のことを伝えた。

 ――角を通じてセーギの心に直接呼び掛ける――

 それを聞いたウスユキはロベリアとその情報を共有して戦場に立っている。

 それで助けられるという根拠は実のところ無い。

 だがそれでもマリーは信じている。聖獣ディアンサスから口付けを受けた額に残る熱、それから伝わる大切な友達の心を。


『今度はボクがセーギを助けるんだ! 今もあの真っ黒な中で手を伸ばし続けてるセーギを!』


 マリーが視たのは黒に呑み込まれた友達の姿。


 他者からそう在れと望まぬ自分を押し付けられた果てに沈みきってしまった死の濁流。その中で藻掻き続けているセーギの姿。まだ流されずに留まっているのはから彼から伸びる『七本の心の鎖』が繋ぎ止めているから。

 鎖の末端にはオーズの姿、そしてマリーの知らない女性(ペオル)を含めた7人の姿が在る。全員が彼をこの濁流から引き上げようと力を込めて踏みとどまっている。―――だがそれも完全では無い。どれだけ流れに抗おうと絶対的に足りない物がある。


 七本の心の鎖はあくまでセーギと精神共鳴(レゾナンス)させて彼を『人たらしめる』為の機能でしかない。彼の心に根付いた“恐怖”と“嫌悪”を誤魔化す程度の働きしかない。


僕達(ナヴァグラハ)では本当の意味で正義を救うことが出来なかった。……彼を……死なせてしまった)


 早世することの全てが不幸とは言わない。だがセーギにはもっと幸せな道が……幸せになれる道が存在したのだ。その直接的な責任はオーズ達には無い。オーズやペオル達が生み出された時にはもう手遅れなところまで事態は進行していたから。―――しかしそれでも考えてしまう。


(本質的には鏡映しのような僕達じゃなく、もっと、……正義自身が心の底から求める『誰か』が必要だったんじゃないか)


 電脳量子という物質的に一部の例外を除き閉じた仮想世界。そしてそこを出たとしても自由の無い朽ちた肉体。

 つまり乱麻正義という人間は生き物として終わっていた。『始める前に終わらされてしまった』


 ―――しかし、この世界では―――


 オーズは手を上げる。その指先が自分の胸の上に乗るマリーの角を撫でる。


「……『誰か』は……居たんだ……ここに、この世界に」


 今も戦っている聖女達。先程まで暴れ回っていたオーズに手を貸すよう求める彼女達。そしてただ友達を救いたいと願う聖獣。

 そんな彼女達の存在を感じてオーズは泣きそうな気持ちになった。


 繋がりを通じて力が流れ込んでくる。

 それは全力には程遠い。一割にも届いていない。


 それでもオーズの肉体は輝きと共に復元する。


「……なら、僕もやるべきことをしよう」


 少年は立ち上がる。

 陸崩の魔王(ベヒーモス)に変身できるだけの余力はない。“誓約(ゲッシュ)”による強化も無くなった。〈NSO〉時の威厳や風格は存在しない。―――だが心からは際限なく力が湧いてくる。一度挫けた意志が起き上がり重い体を突き動かす。


「僕達は何時だって……正義には『好きなことだけして生きて欲しい』と願っているから。……何時も、そう伝えてきたから」


 それはセーギの心から生み出された彼らの望み。セーギの心から生まれたからこそ彼の苦痛を誰よりも理解しているからこその願い。


「もう一度……いや……」


 立ち上がったオーズは一歩を踏み出す。


「遊ぼう、正義。……これからも……この先も……ずっと」


 魔王になる必要は無い。もう一度彼の前に立とう。今度はただ1人の友人として。君から生まれた家族として。


 オーズは駆け出す。真っ直ぐに。迷子になっていた子が道を見つけたように。ただ真っ直ぐに。


 ◆◆◆


「“手を開こう 皆を見送る為に”!」


 ロベリアとウスユキは心で創り上げられた舞台で歌う。


「“涙の理由を知っている これは悲しみじゃない”!」


 一筋の光明を掴み取る為に荒れ狂う猛攻と共に舞う。


「“本当の思いに気付いたから 私はこの道を征く”!」


 あと少し、あともう少しで手が届く。

 ―――しかしその少しが果てしなく遠い。その事実に2人は歯噛みする。

 勝ち目は無い。だが負けていない。……しかしそれでは救えない。


(一手! この状況を打開する為の一手が足りない!)


 それを成すには捨て身の一手が不可欠な状態になってしまった。しかしそれは命を捨てるのと同義。セーギを真の意味で救いたいのならば取ってはいけない下策。


 そんな攻めきれない膠着状態を崩したのは―――


「ぉおおおおおおおおおっ!!!」

「!?」


 化け物へと突進を敢行したオーズだった。


「●●●●●●●●●!!」


 少年の姿のまま疾走するオーズ。化け物は形を変えて戻って来た敵性存在を処理する為にその怪腕を振るう。それに身を削りながらオーズはその黒い肌へと手を付ける。


「【轟撃地砕の魔王(バハムート)】ォオオオオオオ!!!」


 微かに残り、そして新たに託された、その全ての力を乗せてオーズは能力(スキル)を発動させる。大地を崩壊させる衝撃が一点に集中して化け物へとねじ込まれる。


「●●●●●●●●●!!」


 だがこれはもう一度受けたことがある攻撃。ならその対処も同様である。

 身の内で渦巻く破壊の振動。それを精密無比な肉体操作によって受け流し、逆に相手へぶつけようと手を伸ばす。

 ―――そしてそれは化け物の意識がオーズへと大きく割かれたことを意味する。


「“貴方への思いを受けいれて”ぇええええっ!!」


 届かなかった一手。それを手に入れたロベリアとウスユキは一気に踏み込み―――


「“この道を征く”ぅううううっ!!」


 満ちる【闇とは心の寄辺なり(ワフマン)】の力を全て集約し開放する。

 迫る怪腕を弾いて流し、遂に白銀の腕輪にその手を届かせた。ロベリアとウスユキの手に集められていた力が一気に腕輪へと流れ込んでいく。それは凄まじい光となって周囲を照らす。


 ◆◆◆


 ―――繋がった!!―――


 ◆◆◆


「●●●●●●●●●●●●●●●●●●!!?」

「っ!?」

「っああ!?」

「ぐっ!?」


 化け物は暴れ出す。それによってロベリア達は吹き飛ばされる。

 だが3人は気付く。今の攻撃が今までとは決定的に物が違うということに。それは全てが計算されていた動きとは程遠い余りにも稚拙な動きだった。


 距離を取るように着地して3人は化け物の様子を伺う。


「●●●●●●●●●!!?」


 化け物は二本の腕で頭を抱えて残りの腕で体を支え藻掻くように身を震わせる。


「やったの?」

「これで駄目だったらお手上げっすよ?」


 ロベリアとウスユキの体から輝きが失われていく。

 体力の限界。それが遂に来てしまった。

 ―――腕輪は能力(スキル)を通じて心にも繋がっている。そこに外から力を流し込むことで黒に呑み込まれたセーギの心を叩き出す。そういう狙いがあり2人は残された有りっ丈を先の接触に込めたのだ。

 2人はもう最低限動けこそすれもう戦闘出来るだけの体力は残されていない。


「僕も……これ以上はもう……」


 オーズは倒れ伏して指一本動かせなくなった。2人が接触する隙を作るのに全ての力を出し切った。


 セーギを救う。それを成す為にこの場に居た者は全身全霊を懸けた。その結果は―――


「●●●●●●●●●!!!」


 健在。化け物は依然としてその異様を周囲へと見せ付ける。


 この場で数少ない化け物へ対抗出来ていた3人が力尽きた。つまり、この瞬間より化け物の破壊を止められる者が居なくなったことを意味する。

 幸運にも今までの戦闘で死者は出ていなかったがそれもこれまで。歯止めの利かなくなった化け物の力は容赦無くこの場を蹂躙することとなる。『戦争での戦力の排除』それを果たす為に化け物はこの戦場に存在する戦争の芽となる全てを殺し尽くす。


 屍の山が築かれるのも時間の問題。

 絶体絶命。……その筈なのに―――


「ふふ」


 ロベリアは笑みをもらす。

 それは決して諦観から出た物ではない。それを示すようにその表情はひどく穏やかだった。


「……まったく」


 空を見上げる。澄み渡るような青空が広がっており一点の曇りも無い。―――そこに変化が起きる。


「――――――」


 化け物の異変に気が付き空を見上げる。

 白銀の腕輪が疼く。目に映る“それ”に呼応するように……腕輪に灯る『金』と『闇』に導かれるように。


 ―――空に小さな亀裂が入る―――


 その亀裂が一気に口を開く。硝子の砕けるような音と共に開いた空の穴。そこから3つの輝きが落ちてくる。

 繋がりを辿り、この場へと顕れた。

 それは“不滅の神弓(シャールンガ)”から放たれた矢に込められた力、その『極光』を彩る輝きとなっていた3つの翼。


『光』『地』『火』


 その3つの輝きが天から地上へと一直線に落ち、化け物と3人の間を遮るように降り立つ。―――悪を斬る剣を構え光刃を背負い、全てを守護する大地の守護を展開し、断罪の炎翼を羽ばたかせて。


 見間違える筈がない。例えその力の総量が以前とは比べ物にならないほどに増加していても、その力の在り方が変化して進化していようとも。


「……間に合うって言ってたのは誰だったかしら?」


 ロベリアの口から出る愚痴。しかしそこに非難の色はなく、微笑みながらのそれは何処までも朗らかである。

 この場に現れた3人の少女達はその軽口染みた言葉に笑顔を返す。


「ごめんね、ここに来るまで色々あったの」

「私が至らなかったばかりに……すみません」

「何言ってんのよ。あんなの絡んできた向こうが悪いに決まってんでしょ。……でも遅れたのは悪いと思ってるわ」


 聖剣(パドマー)の切っ先を化け物へと真っ直ぐ突き付けるシータ。

 聖杖(デメテル)による調伏により小型の結界を複数展開するルミー。

 聖典(ウェスタ)を燃え上がらせて炎翼としたディアンサス。


「―――●●●●●●……」


 突如として現れた彼女達に警戒を露わにする化け物。それに臆すること無く彼女達は強い眼差しを向ける。

 目の前の存在が何なのか、しっかりと理解している。


「……セーギ君」

「●●●●●●●●●!!!」


 その名を呼んだのが契機となったのか化け物は腕を広げて襲い掛かってくる。見上げるような巨体が高速で接近してくるのに対してシータは緩慢とも取れる動作で剣先を動かす。

 剣先と連動するように光刃が宙を舞う。

 数多の光刃が十対の怪腕とぶつかり合い拮抗する。―――しかしその拮抗も一瞬のことで次第に化け物に圧され始める。

 しかしシータは狼狽えることも焦ることもない。


「ルミー、ディア」


 それはシータの呼び掛けと同時。


「任せてください」


 ルミーの操る結界が化け物の腕の付近に出現し、触れた瞬間に強力な反発力によって腕を弾く。


「着いて早々忙しいわね」


 ディアンサスの放つ炎が化け物の足元で逆巻き身を焦がす。


 それらによって化け物は体勢を崩す。―――そして気が付く。さっきまで目の前に居たシータの姿が無くなっていることに。


「っ!」


 シータは居た。体勢を崩した化け物、その正面ではなく背後に。瞬きの間に移動していたシータが化け物へ剣を構え立っていた。


「『閃撃・』―――」


 聖剣が光を放つ。

 剣閃が宙に軌跡を描きながらを駆け抜ける。

 聖剣のみではなく光刃さえも含めた幾百の刃の軌跡が化け物の目に映し出される。

 幾百が一へと収束する。一つ一つが必殺の刃。その全ての斬撃を一筋の輝きと化して放つ剣閃の極み。そこに顕現するは世界を照らす陽光の如き輝き。


 ―――『天照(あまてらす)』―――


 腕が宙を舞う。


「――――――」


 右腕5本。化け物は咄嗟に回避行動を取ったがそれだけの数が一瞬にして失われた。


「99戦99敗」


 斬り飛ばした腕には目もくれずシータは紺碧の瞳に化け物の姿を映す。


「模擬戦。今まで負け通しだったけど……この100戦目は勝たせてもらうわセーギ君」


 腕が地に落ちる。


「『私達』の力で」


 化け物の異形の瞳に映る。

 新たに現れた3人の聖女。そして『地』の聖女に力を分け与えられて再び立ち上がる2人の聖女。

 この世界において最上位に立つ者達。

 そんな彼女達を視て理性など無い筈の化け物は、それでも思った。

 ああ……なんて、なんて―――


「……●●●●」


 美しいと。綺麗だと。―――魅せられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ