#01 ゾンビのいる世界で
「墳本、風戸は右を殺れ!残りは左に」
「了解です」
ナイフを両手に持っている男性はそう言うと近くにいたゾンビを斬りつけた。するとゾンビは首から黒っぽい血を流すと倒れてしまった……
ゾンビ……
今から90年前、突如現れた人類の敵。奴等は突然現れるとともに人間を喰ってゾンビにしていった。これにより当時の世界人口の約6割が行方不明になった
当時の日本政府はゾンビ発生後、すぐに警察官に対応にあたらせた。しかし、ゾンビは一体だけでは強くないものの、集団になると立ち向かうことが出来なかった。それどころか、対応に向かった警察官の約二割が行方不明になってしまった
なので当時の日本政府はとりあえずの処置として警察官の中でも優秀な人だけで構成される班をつくった。その班を日本の重要な場所に配置することによって被害を抑えようとしたのだった……
この厄介なゾンビを倒す方法。それはゾンビの首を攻撃することである。ゾンビは首に大ダメージを負うことで死んでしまう(既に死んでいるが)
しかしその行為も簡単ではない。確かにこの世界にいるほとんどのゾンビはノロノロとしているゾンビだらけだが、まれに希種と呼ばれるゾンビがいる。この希種はさっきまでのゾンビとは違い、動きが早く警察官の使用する拳銃ではほとんど当たることはなかった。そんな時に役にたつのが短剣だった。普通の警察官は短剣は持たないが、この「ゾンビ対策課」の人間のみゾンビを殺す武器として短剣を所持しているのだ。しかし短剣ではゾンビに近づかなくてはならないため、リスクの方が大きかった
それから90年後、現代……
残念ながら現代社会ではゾンビを倒すのは警察官の仕事ではなかった。実はゾンビが発生してから一週間後にゾンビを倒す専門の機関「ゾンビ殲滅局」というのがつくられたのだ。なので「ゾンビ殲滅局」ができてからはゾンビを倒すのは、ゾンビ対策官の仕事になっているのだ。なのでほとんどの都道府県の警察はゾンビを倒す技術を失ってしまった。しかし警視庁は違った。「ゾンビ殲滅局」ができてからもゾンビを倒す専門の部を残し、技術保持している。その部が「警視庁ゾンビ対策課」だ
東京都羽町市、マル食品羽町工場……
「派手に殺りましたね」
そう言ったのは警視庁ゾンビ対策課の戸田裕晴だった。いま戸田達のいる工場の敷地内には沢山のゾンビが血を流して倒れていた。といっても戸田達がついたときには既にこうなっていた
「そこの君、警察側の班長はいるか?話がしたい」
突然戸田は話しかけられた。なのでその声のする方を見るとそこには両手にナイフを持っている男性がいた
「有木警部、対策官が話をしたいそうです」
「分かった。今行く」
戸田がこの班の班長である有木を呼ぶと、有木はそのゾンビ対策官へと向かった
ゾンビ対策官…… 彼らはゾンビを倒す専門の人達である。しかし警察官と全く違う特徴があった。それは武器を持っていることだ。ゾンビ対策官はゾンビを殺すために剣や槍、大鎌に斧といった殺傷能力の高い近接武器を持っている。なので警察官より素早く多くのゾンビを殺すことができるのだ
「ここにいたゾンビは下水管にいたゾンビと判断し、殲滅局側はこの捜査は行いません。警察側はどうしますか?」
男性対策官は有木にそう言った。しかし有木達はいま来たばかりなのでどのような事があったのか分からなかった。なのでこう言った
「我々は今来たばかりなので作戦時の状況は分かりません。あとでレポートを送ってもらえませんか?」
「分かりました。完成したらすぐに送ります」
その対策官はそう言うとゾンビの死体を一ヶ所に集め始めた。ゾンビは倒してもすぐに消えない。人と同じように腐敗するには時間がかかる。なのでゾンビを一ヶ所にまとめておいて、後で専用の車で回収するのだ。しかしそのまとめる作業がつらいのだ。ゾンビに殺されるリスクはないものの、臭いがきつくゾンビを殺すより大変な作業なのだ
「ゾンビを片付ける作業は俺達にはできないから、少し現場を調べるぞ」
「了解」
有木が指示すると部下達は現場を調べたり、工場で働く人に話を聞いたりし始めた。ゾンビ対策課といえどゾンビとはあまり戦わない。どちらかといえば、対策官が倒したあとの現場調査をする事の方が多かった……
次の日、警視庁ゾンビ対策課……
「戸田、何を読んでいるんだ?」
突然戸田は声をかけられた。なのでその声のする方を見ると、そこには副班長の大原がいた。戸田は机に置いてある紙束を大原に見せるとこう言った
「昨日の作戦のレポートがきたのでそれを読んでました」
「その件か。それは後で有木警部に渡しておいて」
大原はそう言うとどこかへ行ってしまった。しかし有木はまだいない。それに特にすることがないので、レポート全てに目を通すことにした。そのレポートを読むかぎり、「マル食品羽町工場作戦」で発生したゾンビは全て殺された。そしてこのゾンビは下水管から出てきた可能性が高いと書かれていた
しかし戸田にはこのレポートに書かれていることが正しいのか不思議で仕方なかった。本来、下水管からゾンビが出てくるのは人が多い町が多く、なおかつ下水管の管理が厳しくない地域でしか出てくることはない。それにゾンビの特徴に人の多い所に移動するというのがある。なのに人が多い市街地に出ず、工場に姿を現したのは謎でしかなかった
「とりあえず有木警部にも話してみるか……」
戸田はボソッと言うとレポートを机に置いた
それから数分後、有木が部屋に入ってきた。なので戸田は対策官から送られたレポートを見せるために有木の机へと向かった
「有木警部、対策官から昨日の作戦のレポートが届きました」
「ありがとな」
有木はそう言うと戸田からレポートを受け取った。そしてすぐにレポートの二枚目の紙を見た。対策官のレポートには書き方があり、どの対策官がレポートをつくっても順番は同じようになっている。この有木が開いた二枚目の紙には、ゾンビの発生原因などが書かれていた
「青池、ちょっといいか?」
有木が呼ぶと部下の青池はすぐにやってきた。彼女はこの警視庁ゾンビ対策課で一番ゾンビを倒す警察官で、青池に憧れる人も沢山いた
「あの工場の下水管確認したか?」
「はい。確認しました。しかしゾンビが通った痕跡はありませんでした」
「なら決まりだ」
有木はそう言いと立ち上がった。そして部屋にいる全ての人間に聞こえるようにこう言った
「羽町工場を詳しく調べる。レポートは各自読んでおくように」
有木はそう言うと上着を着て部屋から出ていってしまった。警視庁ゾンビ対策課の捜査は基本一人で行う。なので捜査は自由にできるものの、他の警察官との情報がほとんと取れないという欠点があった。しかしこの方法は長いこと使われてきているため、今さら変わるなどあり得なかった
「ねぇ、良ければ一緒に捜査しない?」
戸田は突然青池にそう言われた。基本捜査は一人といえど、二人でやってはいけないというルールはない。なので戸田はこう言った
「もちろん良いですよ」
「ありがとう。じゃあ例の工場に行こうか」
「え?」
戸田は一瞬固まってしまった。青池の言うマル食品羽町工場のゾンビは全て倒したとはいえ、まだゾンビの死体が残っている。なので捜査しようにもゾンビの臭いで辛くなるのが目に見えていた
「もちろん良いよね。早く駐車場に行くよ」
青池は戸田の肩を叩きながらそう言った。戸田は青池と捜査するのをやめようかと考えたが、今さら断ることもできず渋々羽町工場に行くことにした……
マル食品羽町工場……
警視庁から羽町市にあるマル食品羽町工場までは一時間ちょっとで到着した。工場の外は普通の景色なものの、工場内は昨日の作戦で殺されたゾンビの肉片があちらこちらに転がっていた
「どこから調べますか?」
戸田はそう聞いた。どこを青池は少し悩んでからこう言った
「とりあえず建物内から調べちゃいましょ」
青池はそう言うと近くの建物へと近付いた。そして建物の中に入ろうとした時だった。二人は突然誰かに話しかけられた
「君たち、そこに入っては駄目だ」
そう言ったのは30歳くらいの警備の男性だった。その人は入ってはいけないと言うが、この建物を調べないことには捜査が進まない。なので戸田は警備の男性にこう言った
「WZC(World Zombie Countermeasure)に書いてある、ゾンビ関係の事件は令状なしで捜査できる。これを使うので中に入りますね」
戸田はそう言うと建物の扉を開けようとした。すると突然警備員が警棒で戸田を殴ろうとしてきた
「危ない!」
青池はとっさの判断で警備員を蹴り倒した。警備員は青池に蹴られたことで地面に倒れてしまった
「戸田、いまよ」
青池はそう言うと建物の扉を開けた。戸田は警備員には悪いと思いながらも建物の中に入った。そして青池も戸田のあとを追うように建物に入った
「イテテテッ!」
青池に蹴り倒された警備員は立ち上がると無線機をとった。そしてこう言った
「警察が例の建物に入った。応援を求む」
そう言うと無線機をしまった。そして代わりにポケットから短剣を取り出した……