異世界って大抵、暦が同じだよね。
「ふぁ…」
窓から差し込む優しい陽の光に寝返りを打つ。ふかふかのベッドを楽しみながら、二度寝の準備に入る。
コンコンと扉を叩く音がする。まだ眠い、眠らせてくれ…
「母さん…まだもうちょっと寝かせて…」
「ソラ様、朝食の準備が出来ました。」
「………ガバッッ!!」
そうだった!昨日この異世界?に召喚されたんだった!夢じゃなかったのか…
「待ってください!今出ます!」
ベッドから急いで抜け出し、そのままドアを開ける。そこには昨日と同じ、テュオさんが無表情のままこちらを見据えていた。そしてその瞳は下へと降ろされていき…
「申し訳ありません…ソラ様、そちらを隠していただけると。」
「え?」
俺は視線を自分の下半身へと向ける。そこには、昨日のズボンを着たままだったが、明らかな自己主張をしているギャランドゥな突起物が天を突き抜けんばかりにそそり立っていた。そう、夜間陰茎勃起現象。俗にいう朝勃ちという奴である。
「うわぁ!!ごめんなさいっ!!」
急いでドアを閉じようとする。
「お待ち下さい。」
「この状況で!?」
テュオさんが足をドアの隙間に入れて閉じられないようにする。
まってください!収める時間をください!
「どうして閉めるんです?」
「どうして開けようとするんですッ!?」
テュオさんは本当に分からないといった感じで首を傾げている。
「まって!本当に…って力つええ!!…そうだ、トイレに行かせてくれ!」
「トイレならあちらに。」
「待っててください!5分…いや3分で戻ります!」
「はぁ、そうですか。行ってらっしゃいませ。」
なるべく見られないように工夫しつつテュオさんから距離をとりトイレに入る。
「ふぅ…びっくりしたぁ。」
まさか会って次の日にモノを見られるとは…もう嫌われたかもしれない。むしろ蔑まれるかもしれない。この豚やろうがって…あれ?いま背中がゾクゾクって。
「ソラ様。」
「あ!もうでます!」
すぐにソレは収まったのでトイレからでる。確か朝食だったか。
「では、行きましょうか。」
「はい…」
とぼとぼとテュオさんの背中を追う。見ろよ、太陽がこんなにも美しく輝いているのに俺の心は暗いまんまだよ…
「ソラ様、着きましたよ…どうなされましたか?どこか遠くを見ているようですが。」
「いいんだ…俺のことなんか気にしないでくれ。」
うぅ…きっとテュオさんも幻滅しているだろう…ぐすん。辛い。
「もしかして先ほどのことを気になされているのなら、それは杞憂というものです。」
「え?」
「私はどうも思っておりません。その程度でソラ様の認識が変わることではありません。生理現象とお見受けしますが。」
優しい!この子ものっそい優しい!!でもなにも思わないってことは慣れてるのかな…は!そうか、こんなに美しい方なら彼氏だっているよな…
「シア様。ソラ様をお連れしました。」
「おお、ソラ。来たか。ほら早く食べようぞ!我はお腹が減ったぞ。」
魔王様は相変わらずの幼児体型、更に笑顔でナイフとフォークを両手に持っているその姿は昨日の威厳など皆無だった。
俺は魔王様から少し離れた席に座ってご飯を待つ。するとテュオさんがいつの間にか食パンを持っていて、テーブルにのせる。
ちなみにテーブルは透明なガラスのようなもので出来ていて、かなり大きい。椅子の数を数えてみると12個あり、その数が一斉に食事ができそうな大きさだった。
「今日の朝ごはんはパンです。」
「むむむ…これはっ!」
魔王様がパンを見つめ、パクりと一口かじる。
「うまいっ!!!」
目を見開いて叫ぶ。フォークとナイフを持っていたのにそれらをテーブルに置いて普通に素手で食べている。フォークとナイフ、必要あった?
「じゃあ…俺も。」
俺の前に置かれた食パンを見つめる。かなり大きい。甘い匂いが漂ってきて、砂糖が塗られていることから、シュガートーストのようなものだと思われる。
「パクっ」
口のなかにパンを放り込む。瞬間にとても濃く、されどさっぱりした甘さ口に広がり、サクサクとした食感が更に食欲を刺激する。今までに食べたどの食パンより上手い。
「美味しい…こんなに美味しいのは初めてだ!」
バクバクとパンを頬張る。やめられない止まらないというやつだ。
全て食べきると、ある程度の満腹感に満たされ、身体が喜んでいるのがわかる。
「シュガートースト…美味しいな。」
「お口に合ったようで嬉しいです。」
「あぁ、毎日食べたいぐらいだ。」
甘いけど、さっぱりしてるから飽きがこない。もうひとつ食べたいかも。
「のぉ、ソラよ。」
「ん?なんだ…ですか?」
魔王様が急に話しかけてくる。
「だから敬語じゃなくてもよい。いやな、この世界についてもう少し詳しく話しておこうと思ったのだ。」
「あぁ、悪い。頼むよ。知らないことばっかりだからな。」
「うむ、まずこの世界の情勢というか、まあどんな種族がいてどこを支配しているか…というのは昨日説明したな?」
「そうだったな。」
シュドロム領やらトゥース領やら、国の位置について教わったのだった。
「で、今日は時間軸について話したいと思う。とりあえず、こちらの世界は24時間が1日で、一月が30日になっている。それが12ヶ月で一年、360日だ。ここは合っているのか?」
「大体一緒だな。こっちは一日の長さと月の数は同一だが365日ある。」
ほぼ暦は変わらないのかな?
「ふむ…多少の差違はあるか。」
「季節とかはあるのか?」
「あるぞ、寒気と暖気の二種類じゃ。」
冬と夏…春と秋がないってことか。
「4月から9月までが暖気、10月から3月までが寒気になる。今日は4月の3週目の日曜日じゃな。」
なるほど、日本の季節を冬と夏の二つだけに分けたらちょうどそれくらいになりそうだ。
「ちなみに一週間は月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜、日曜…でいいのか?」
「おぉ、よく知っておるの?その通りじゃな。」
ふむふむ、やはり日本にいた頃と違いはほぼないんだな。
「なるほど、まあ大体の時間の付け方は分かった。俺のいた世界と大して差はないみたいだ。」
「そうか、それはよかった。さて、じゃあ質問があったりしなければ仕事に入ろうと思うが…なにかあるか?」
「んー…魔王様の配下というか、テュオさんのような幹部の人たちってどこにいますかね?」
今日からしばらくお世話になるのだ、挨拶をして回るのが礼儀というものだろう。
「む、そうだな。テュオ、案内してやってくれ。我は仕事に入らないといけないからついていけないのだ。」
「畏まりました。」
「ありがとう魔王様。」
「ふふ、シアと呼んでくれても構わんのだぞ?」
「ありがとう……シアさん。」
シアさんは頷くと入ってきたドアとは違うドアからどこかへ出ていった。
「テュオさん、シアさんってどんな仕事をしてるんだ?」
「そうですね、その種類は様々ですが…主な仕事は配下の魔族たちへの細かな命令と、他国や自国の貴族などからの手紙や要望の処理でしょうか。」
「たくさん仕事があるんだな…」
「えぇ、ですので半分は私が肩代わりをしています。」
「そうなのか、じゃあこれから案内してくれるらしいけど…いいのか?忙しくないか?」
案内してくれるのはありがたいが、無理をしてまで助けてもらう必要はない。俺のことなんかよりは仕事を優先するべきだ。
「大丈夫です。時間を止めますので。」
「え?」
「え?」
はは、やっぱりテュオさんの冗談は分かり辛いなぁ…なぁ?