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メイドさんは絵になる。それは日本でも、異世界でも。

 夕食を食べるために通された場所はどこかの城のリビングのような場所だった。夕食はテュオさんが言ってくれたとおりオムライスだった。

 これがまた絶品で、日本でも食べる機会は人並みにあったがここまで美味しいものは食べたことがなかった。ちなみにハートマークは書かれていなかった…


「さて、ソラ様、良ければ部屋まで案内いたしますが、よろしいですか?」


 オムライスで程よくいっぱいになったお腹を擦りながら満腹感に浸っていると、テュオさんが話しかけてきた。


「あぁ、よろしく頼む。」


「む、ソラはもう戻るのか?ならば我も部屋に帰ろうかの。」


「こちらです、着いてきてください。」


「わかった。」


 魔王様と別れて、俺はテュオさんについていき、長い廊下を歩き始めた。

 廊下はときおり窓のようなものがついており、そこからは外の風景を見ることができた。外は城下町のような情景が広がり、それぞれの家からは明かりが漏れていてまだ活気を感じる。


「本当に異世界に来たんだな…こんな風景は見たことがないよ。」


 日本ではあまり見ない景色に感嘆の息を溢す。そもそも日本に城下町なんてものがあるのかすら俺にはわからないが。


「そうですか。こちらではよくある風景ですよ。そうですね、あちらをご覧ください。」


 テュオさんが立ち止まり、見ていた窓とは反対側の窓に指を差す。近付いて見てみると広い土地が広がっていて、真ん中には湖のようなものも見える。


「おぉ、すごい。浮いているホタルみたいな光が湖に反射して幻想的だな。」


「あれは、この土地の魔力が可視化されているのです。さらにそれを吸収しようとして、精霊たちも集まってきてますね。」


 浮いているホタルのような明かりはどうやら魔力かそれを求めて来た精霊らしい。精霊か…それもまた幻想的でキレイなもんだ。


「精霊…いるんだな。」


「えぇ、精霊というのは魔力の塊のようなもので、その魔力の源素が火であったり水であったりすることで、火の精霊、水の精霊といった感じに分けられます。ソラ様の世界には存在しないんですね。」


「あぁ、精霊という単語はあるけれどそれも伝説というか、作り話といった類いのものになるかな。」


 テュオさんと二人で湖を見つめている。ちょっと気まずい雰囲気ではあるが、どこか安らぐような雰囲気にも感じる。

 不意にテュオさんの顔を見てみると、湖を見てるというよりはどこか違う遠くの方を見ていようだった。ただそれもなんだかテュオさんを引き立てているように見えて、ひとつの絵のように感じてしまう。


「…?どうされました?ソラ様。」


「あっ…悪い。ボーッとしてた。」


 どうやらテュオさんを無意識のうちに見つめていたらしい。変な風に思われたらどうしようか。


「…そろそろ部屋の案内に戻りましょうか。」


 幸せな時間というのは流れるのが早いらしい。俺は名残惜しく思いながら、その場を後にした。



「ここがソラ様の部屋になります。どうぞお入りください。」


 あのあとも外の景色を見ながら数分歩いたところでテュオさんは立ち止まった。


「あ、失礼します。」


 流れるような動作で俺の代わりにドアを開けて、中へ招いてくれる。一つ一つの動作でさえ優雅な印象を受けてしまう。


「おぉ広いな。」


 中は広い空間が広がっていた。洋風な部屋でデスクワークが出来そうな机や、キレイな椅子、奥にはタブルベッドかってくらいの大きさのベッドがあり人一人が使うには大きすぎるのではないだろうか?天井には豪華なシャンデリアのようなものもある。

 窓やベランダもついているし、俺なんかの為にこの部屋を用意してくれたのならなんだか申し訳なく感じる。


「そうですか?これでもシア様のお部屋よりは狭いですが。」


「いやどんだけ広いんだよ魔王様の部屋…あんなに小さいんだからそんな広さいらないだろ…」


 高校生の俺が広いと思う部屋を小学生くらいの女の子が使ったらもうその部屋の中で迷子になるんじゃないか?


「ソラ様、その言葉をシア様の前で言うことはあまりおすすめできません。お気をつけください。」


「そうなのか?」


 確かに俺が初めて魔王様を見たとき、テュオさんは言うなと注意してくれた気がする。


「はい、あの方はそこを指摘されたりすると多分キレますから。」


「キレるの!?」


「はい、コンプレックスなようで。」


 勇者を一瞬でぶっ飛ばした魔王様がキレたりしたらどうなることやら…いやよかったよ。言わなくて。


「助かったよ、あのときテュオさんが注意していなかったら言ってたかもしれないし。」


「いえいえ、今後は気を付けてくださいね。」


 テュオさんはそういうと人差し指を口元に持っていき、よく子供にやる『しーっ』みたいなポーズをとる。なにそれ可愛い。

 ただ無表情は変わらないのでそこはなんだかシュールである。


「じゃあまあ…今日はもう寝させてもらうよ。明日、この世界についていろんなことを質問させてくれ。」


「はい、分かりました。ではおやすみなさいませ。」


 そういってテュオさんは明かりを消した。しばらくしてベッドに潜り、これまでのことを思い出す。


「…異世界かぁ…これが夢だったりしたら嬉しいような悲しいような………テュオさん…キレイだったなぁ…」


 異世界に来たことを思い返していると、さきほどのテュオさんを思い出してしまい、つい顔がにやけてしまう。


「……そうでしょうか?」


「うぉわぁッ!?」


 突然テュオさんの声が暗闇の向こうから聞こえた。

 え!なに?いたの!?まってさっきの聞いてたよね!?いやだからこその返事なんだろうけど…!


「あ……あの……聞いてました?」


「はい、しっかりと。」


「うわぁ恥ずかしい恥ずかしい!!」


 よかった!このベッドが大きくて!恥ずかしさのあまりに転がりまくっても落ちないや!あははは!!


「あの…テュオさんは戻らないんですか?部屋とかに……」


「はい、私にはまだ片付けなければならない用事も残ってますので。」


「それならそれを済ませてこないのか?なんでまだここに?」


「?さきほど申し上げたじゃありませんか。半年間、そばでお世話をすると。」


「いやいやいや!え!?そういう意味だったの!?そういう意味でお世話をしてくださるの!?」


 私生活まで管理されちゃう感じ!?いやそれはちょっとプライベートが……ね?


「ダメでしたか?」


「いやダメというか……そこまでしてもらわなくても大丈夫だから。気にしないで。」


「そうですか。かしこまりました。では、おやすみなさいませ。」


 暗闇の向こうにテュオさんがいるので、表情は見えないが心なしか最後の方はトーンが落ちたように感じた。


「う、うん。じゃあ明日からいろんなお世話を頼むね。」


「……はい。かしこまりました。」


 ドアがバタンと閉じられ、今度こそ誰の気配もなくなった。最後はなんとなくだけどこう言わなきゃダメな気がしたから言っておいた。

 嵐のような1日だったが、後は休むだけだ。幸い俺は枕が変わっても簡単に寝れるタイプの人間だから、異世界でも安心なのだ。心配しなくていいぞ!




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