メイドさんと魔王様の力関係
「スメラギ ソラというのだな?では我はソラと呼ぶことにしよう!」
「は、はぁ…で、俺……僕はなんでこんなところに連れてこられたんでしょうか?」
「ソラよ、そのような敬語を使わなくてもよいぞ。これから説明をするにしてもそのようなしゃべり方ではお主も我も堅苦しかろう。」
喋り方は変だけどなんとなく悪意は感じない…かな?とりあえず事情を聞くしかないよな…。
「そうですか…いや、そっか。で、なんで俺は呼ばれたんだ?」
「うむ、実をいうとだな…」
魔王はムムムと唸り、考え込んでいる。そ、そんなに言いにくいことなのか?それはそれで怖いんだが…
「じ、実をいうと…?」
「そ、それはだな…」
「では、私がお答えいたしましょう。ソラ様」
幼女な魔王が唸っていると、メイドさんが答えてくれるらしく、横から入ってきた。
「テュオ?我はまだ心の準備が…」
「…その前に私も自己紹介を致します。」
心の準備?そ、そんな重大なことを前にメイドさんの自己紹介を挟むって…このメイドさんいろんな意味ですごいな。いやほんといろんな意味で…
「私は現魔王、シア=シュドロム=クローネ様の幹部にしてメイドを勤める、テュオール=テュリオーネと申します。どうぞ、テュオとお呼びください。」
深々と頭を下げながら、テュオールさんはそう言った。ただ頭を下げるという行為なだけなのに、一つ一つの動きがとても丁寧でつい魅入ってしまう。
「ん?テュオ、珍しいなお前が『テュオ』という呼び方をさせるというのは。」
「煩いですよ、シア様。」
「なぬ!?我は魔王なんだぞ!?魔王の配下が我になんて口を聞くのだ!」
「そうですか、分かりました。では今晩のハンバーグはピーマンの肉詰めに変えておきますね。」
「そ!それはあんまりだぞ!我はピーマンは食べれないのだ!!勘弁してほしいのだー!」
「あの…魔王様泣いてらっしゃいますけど……テュオさん?」
「え?あぁ、構いません。いつものことなので。」
「それはそれで良いんですか!?」
魔王様、最初こそ威厳があったのに…もう形無しじゃないか…
しかもこのメイドさんかなりやりなれてるぞ…この人、その手の店で働いたらすごいことになるだろうなぁ……
「あの、結局俺を連れてきた理由って…」
「あぁ、そうでした。最初にまず言っておかなければならないのが…申し訳ありません。ソラ様はこの世界から元の世界にはしばらく戻ることは出来ません。」
「え?ていうかやっぱり俺は異世界?に来ていたんだな…」
異世界か、もちろんそういう話は見たことはある…あるのだが別段詳しい訳ではなく、どう対処するべきか分からない。その手の小説の主人公たちはみんなどうゆう心境だったんだろうか…
「はい、それで、ソラ様をお呼びした理由ですが…それはですね。」
「我は悪くない…我は悪くないのだ…。」
あの、魔王様怯えてらっしゃるんですけど…
「事故なのです。よって、理由はありません。申し訳ありません。」
「え?」
「ないんです。理由。」
あっさりー!めっちゃくちゃあっさりー!めっちゃ身構えたよ!?めっちゃ覚悟したよ!?……あっさりーっ!!
「…どういうことですか?」
「はい、説明をするとですね…このポンコツ……シア様は魔法の実験が趣味なのですが、長年研究されてきた時空魔法と呼ばれるものを先日造り上げまして。その時空魔法は空間や世界を越えて異世界に干渉する魔法なのです。」
「いま我をポンコツと言ったぞ!?我は魔王なのに!!」
じ、時空魔法…?あの魔法っていうのはあれか?今のはメ◯ではない、メ◯ゾーマだ。てやつ?それに異世界に干渉するって…それとんでもなく凄くないか?
あ、魔王様はもうそんなキャラなんだなってことでスルーで。
「そして、シア様は時空魔法により異世界の物を持ってくる実験を行いました。しかし、魔法の実験というものは危険が付き物。なにが起こるかわかりません。」
「な、なるほど…いやなにがなるほどかは分からないけど…」
「そして、数時間前にシア様はその時空魔法を発動したのです。ただ、術式はすぐには発動しません。私が見ておくのでシア様にはこの部屋で待っていただくことにしたのです。そのときなにが原因かは分かりませんが、魔法術式が変動していき、部屋が光によって覆いつくされました。その光が収まったとき、ソラ様は私の胸を揉まれたのです。」
「なるほど…つまり事故によって俺は連れてこられたんですね……てその節は申し訳ありませんでしたっ!!」
一瞬で土下座をしてしまう辺り、俺はなんて心が弱いのだろうと悲しくなるぜ。
「私、初めて殿方に胸を触られました。いえ、揉みしだかれました。ヨヨヨ。」
「わ、我ですらそんなことできんぞ…ソラ…お主なかなかすごいやつじゃの……。」
「いや揉みしだかれたって言い方やめません!?ほんと!わざとじゃないんですよ!あとそのヨヨヨって言葉もっと感情を込めて言ってください!」
「まあ、そのようなことはどうでもいいのです。」
「ど、どうでもいいのか…。」
「はい、で…要はソラ様は帰れないのです、しばらくは。」
「しばらくってことはその内帰れるってことなのか?しばらくってどれくらいなんだ?俺はその間どうすればいいんだ?」
「お待ち下さい、そんなに質問を重ねられては答えられますが答えません。」
「答えられるのに答えないの!?それどういうこと!?」
このメイドさん、真顔なのに…無表情なのにとんでもないボケをかましてくるんたけど……今まで見たことないぞこんなタイプ……さすが異世界だぜ……
「まぁ、冗談ですが。」
「俺はテュオさんの言ってることが冗談か判別できるまで1年はかかりそうだよ…」
テュオさん…キャラが濃すぎるんだけど……
メイドさん…恐ろしい子っ!!