序章 「終わりと始まり」
深く溜め息をつき、麻倉神は目の前に横たわる血に染まった男たちを見た。
「忠告はした」
憂うような表情で呟く。
しかし、男たちは目を開けているのもやっとのような様子で全く反応を示さない。
「……じゃあな……」
別れを告げると同時に男たちの体が燃え上がった。超高温の炎の中で肉が焼け、骨が焼ける。ようやく炎が消えたとき、そこには白い灰だけが残っていた。そして、その灰も風に舞って虚空へと姿を消す。そこにはもう、何も残っていない。
帰るか――。
死にゆく者たちに別れを告げ、証拠が残らないように骨まで焼き尽くした。もう、ここにいる理由はない。
神は踵を返し、ゆっくりと帰路についた。
扉を開け、家の中に入る。
まずは洗面所へ。先ほど、男たちの相手をしたときに顔に返り血を浴びてしまったため、それを洗い流さなくてはならない。
軽く水で洗い、今度は石鹸を使って返り血を浴びたところを重点的に洗う。もう、血の色は落とせただろう。少々血生臭い気もするが。
あらかじめ、用意しておいたタオルで顔を拭き、鏡を見る。
そこにはやや色白で小柄な少年が映っていた。適度に伸びたさらさらな黒髪。端整な顔立ちと切れ長で黒く透き通った瞳がどことなく冷たい雰囲気を漂わせている。
血を落としてしまうともう特にやることはない。
寝るか――。
下手に何かをして時間を無駄にするよりは寝てしまった方が全然良い。
そう思い寝室へと足を動かそうとしたとき、ポケットが震えた。正確に言うとポケットに入っている携帯電話が。
携帯を開き、電話をかけてきた相手の名を見る。
麻倉仁。
神の双子の兄だ。普段は直接会って話すことが多く、携帯を介して連絡を取る事は滅多にない。そんな人間がわざわざ携帯に連絡してきたのだから何かあるのだろう。そう考え、電話に出る。
「どうした?」
『いや〜、ちょっと言いづらいんだけどさ』
「さっさと言えよ。どうせ大事なことなんだから」
『ん〜、僕たちさ。……連盟から除名されちゃった』
電話の向こうから苦笑が聞こえてくる。
「理由は?」
『お前だよ。たかが一個人のために連盟ぐるみで面倒ごとに背負いたくないだろ?』
「なるほど。で、双子であるお前も巻き込まれたと」
『上の人たちも馬鹿だよね〜。確かに面倒ごとの中心にいるのはお前だけど、結局は連盟も関わってるのにな』
「まあ、脳みその腐りきった老人の考えることなんてそんなもんだろ。問題はこれからどうするか、だな」
『そうだな〜。とりあえず、普通の人間として生きてみない? どうせ、二人だけじゃ何も出来ないし、まだ急ぐ必要もないし』
「そうだな。そのことについては任せるよ」
『わかった。また、連絡する』
電話を切り、まだ明かりもつけてない薄暗い部屋を見つめる。
「普通、ねえ」
神は自嘲的な笑みを浮かべた。