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問2 A地点からB、Cを通りD地点に行きます。AB間は 毎分50mで歩き、BC間は毎分200mで走り、CD間はバスで毎分600m移動します。それぞれ4分かかりました。AD間の距離を求めなさい。

 

問2 A地点からB、Cを通りD地点に行きます。AB間は 毎分50mで歩き、BC間は毎分200mで走り、CD間はバスで毎分600m移動します。それぞれ4分かかりました。AD間の距離を求めなさい。


回答欄

以下に途中式を書きなさい

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それは一見、ただの総合病院だった。

閑静な住宅街から少し外れた丘の上に位置し、簡素なコンクリート壁と清潔感のある白で構成された四階建て。周囲をぐるりと囲う高さ五メートルのフェンスも、其処彼処に設置された監視カメラも、内部の患者たちを守る為のものだと誰もが思い違う。


それは人間を治す施設ではなかった。


真鞜研究所。

表向きは先進医療の研究施設を偽っているが、その実態は一人の資産家が描く愚かな悲願のためにのみ存在する牢獄であった。






静かな狂気が手術室を包む。

淡々と、機械のように手を動かす白衣たち。


『人体の能力を極限まで引き上げる』


たったそれだけのために、今日もまた一人の男が犠牲となる。

煌々と照らす無影灯が施術者たちの昏い瞳を映し出す。それら二対の闇たちに囲まれた男は穏やかに目を瞑り、手術台の上で脳を曝け出していた。


規則的に電子音が鳴る。

医療器具の金属音が響く。

湿った物をかき混ぜる音が続く。


重要な器官を弄られる男は眠ったまま。

彼の視覚が鋭敏となる。

彼の聴覚が鋭敏となる。

彼の嗅覚が鋭敏となる。

彼の触覚が鋭敏となる。

彼の味覚が鋭敏となる。

熱覚が圧覚が運動覚が痛覚が。

……凡ゆる感覚が鋭敏となる。


それら膨大な情報を知覚し処理するため、脳の演算能力が引き上げられてゆく。

周囲の熱を、音を、光を、臭気を。

体内の骨を、筋繊維を、血流を。

短時間で精密に理解可能な脳へと変えられる。


着々と作業は進む。

けれど、そこが限界であった。


規則的な電子音が乱れる。

医療器具の金属音が荒れる。

湿った物をかき混ぜる音が止まる。


男の記憶かこが破損した。

男の精神げんざいが破損した。

男の思考みらいが破損した。

……男の人生すべてが破損した。


こうして今日も、実験が最終段階に至ることはなかった。






夢を見ていた。

海辺に立つ一軒家。

笑みを浮かべる男の子、俺を見つめて微笑む女性。

そこは暖かな部屋。テーブルには家庭的な料理。

幸せが光になって、部屋中を柔らかく照らす。


そんな夢。






脳内の磁場が変化してゆく。睡眠状態から覚醒へと向かっているのがわかる。

微睡みの中で薄らと周囲の情報が入ってくる。


閉じた瞳に景色は入ってこない。

ただ、漂う消毒液の香りがここを病院に類する場所だと知らせてくる。

初めはその程度だった。


……意識がはっきりしていくと共に、段々と情報が密度を増してゆく。香りに僅かな血臭が混ざる。遠くで狂った悲鳴が聞こえる。廊下を人が歩く音。そいつの香水。呼吸音。衣類の擦過音。シーツの感触が糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸縦糸二千百四十六本横糸六千八百六十一本 壁の向こうから声が間延びして聴こえ「帰りたい帰りたい帰りた「ギャハハハヒヘファハ「被験体Aは廃棄する」全部で五人あ今は四人と肉塊顔に埃が積も積も積も積も積も積も積も積も積もチクチクチクチク鬱陶しい!



「      」



苛立ちに任せて目を開けた瞬間、膨大な視覚情報を捻じ込まれて気を失った。






何度も覚醒と気絶を繰り返した。

段々慣れてくる。

この状態が普通になる。


白い天井が見える。表面の質感が色褪せが傷が見て取れる。微細な光量の揺らぎが明確に解る。数多の臭いがする。壁材の床の衣類の自分の昨日来た人間の残り香が鼻腔をくすぐる。鼻腔の何処に何の臭いが触れたか解る。鼓膜が振動する。会話が足音が風が悲鳴が機械音が一つの波となって押し寄せる。敷地の外を行く自動車のエンジン音すら明確に判る。


カチ、コチ。カチコチカ。チコチカ、チコチカチコチカチコチ、カチ。


時計が煩わしい。一秒がずれている。気持ち悪い。肌を摩る。腕の産毛が触れて一二三四五六七八多いな気持ち悪い引っ張る。

毛根が細胞膜を強引に剥いでプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチ。



「    」








目を覚ます。

またあの夢だった。

瞼に焦げ付いて離れない。

無駄な情報のない、満ち足りた世界。


帰ろう。


夢に見るあの家までここから3.4km。

扉まで毎分50m、塀の外のバス停まで毎分200m、そこから毎分600mで移動。所要時間12分。


昨日の脱走者に対する対処から概算。

再捕縛まで約13.45分。


間に合う。間に合う。間に合う。間に合う。

帰ろう。

身体を起こす。

ベッドのスプリングが軋んで応援してくる。

余計なお世話だ。叩く。気の抜けた音と一緒に埃が五万千四百五十九個舞う。

鬱陶しい。息を吸いたくない。


さっさとここを出よう。

帰ろう。

等速での移動を心がける。絶対にずれてはいけない。帰れなくなる。帰る帰る帰る。


1分が経過、50m移動。


モルタルの床を踏む。タン、タン、タン、タン。部屋の掛け時計より規則的。タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン。


1分が経過、50m移動。


心地良い。モルタルの床を踏む。タン、タン、タン、タン。他の奴らの足音も聞こえてる全部聞こえてる。とても不規則だ。気色悪い。この階に一人、一つ下の階に三人、さらに下に八人。監視カメラの機械音が鼓膜を撫でる。些細で耳障りだ。不愉快だかり全部躱す。階段を降りて


1分が経過、50m移動。


右に折れ左に折れて直進。放置された台車を転がす。カメラがそれを追う。右端に寄って死角を進む。誰とも出会わない。カメラも間抜けだざまあみろ。

目の前には扉がある。外への扉。家に続く扉。

帰ろう。


1分が経過、50m移動。


扉からダッシュ。

心臓が大いに働く血流増大で毛細血管がひりひり空気が皮膚を削って足の裏に規則的な衝撃を刻む腕を振る慣性に導かれるまま完璧な走り。最大効率。堪らない。耳が全てを感じ取る。フェンスの向こうに重低音、バスが来るぞ背後からアラームと少しだけ規則的な足音とあまり無駄のない衣擦れ。軽々しく硬い金属音が五つ。麻酔銃と警備員だトリガーを引き絞る音がする。来る後ろは見ない全て回避回避回避


1分が経過、159.154782m移動。


くそ。ああくそ。帰れない帰れない帰れない帰れない帰れない。速度を上げる無駄が出る腹立たしい筋肉に不要な負荷筋繊維が無用に千切れて毛細血管が弾け弾け弾け弾け弾け弾け回避、弾け弾け回避弾け回避弾け弾け弾け弾け回避弾け弾け弾け弾け弾け弾け踏み込み全慣性を上に向け飛び出すフェンスの上を掴むガシャガシャうるさい。けど動かずに


1分が経過、240.745218m移動。


頭上を麻酔弾が飛ぶ馬鹿め腕の筋繊維を犠牲にフェンスを乗り越える。落下、途中でフェンスを掴む足元で麻酔弾通過、降りる走る。バス停へ走る。回避回避回避慣れてきた回避回避


1分が経過、200.1m移動。


あ軽い金属音が消えた。少し規則的な人間音が遠ざかる。自動車の用意か。想定通り。最大効率で滑る様に走る走る走る走る


1分が経過、200m移動。


バス停に着いた。瞬間バスが扉を開く。美しい。

乗り込んだ。車両の先頭に行こう。より家に近い。

帰ろう。






エンジンのピストンロッドが鳴く。断続的で規則的な爆発音が響き続ける。心地良い。乗客五人運転手一人。皆静かだ。心地良い。

帰ろう。

でも少し遅い。気になる。

運転手の体臭が変わるアクセルを強めに踏んでいる、速度が増した。悪くない。これで少しは


1分が経過、598.95248m移動。


まだ遅い。まだ遅い。帰れるか?帰れるのか?

バス停に人がいる。停車、扉が開い「ギャハハマジウケる!」うるさ「そいつ馬鹿すぎて」お前がば「次あったらマジ殺すし」うるさい振動数が高い鼓膜が痺れて香水が嗅覚を引き裂いて痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い遅い遅い遅い遅いおそ「ギャハハ」痛い痛い痛い痛い遅い痛い遅い痛い遅い痛い遅いあまたバス停に人が走っ「へいへい!」「おー!!おひさじゃん!!」増えた増えた増えた増えた増えた増えた増えた増え


1分が経過、412.81147m移動。


遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い。早く動けバス。バスバスバス。止まるな止まるなとまととととバスバス止まとともほたなば止まままままままままずれる。帰ろう。帰れない帰れない帰れない帰れない帰れない帰れない帰れない許さない。バス、バスバスバス、バスバスバスバスバスバスバス「おいやめろ!」バスバアクセルアクセルアクセルアク「誰かこいつを」セルアクセル「運転手を助けろ!」アクセルアクセルアクセルアクセルさわるな「ぐぁ」アクセルアクセルアクセルアクセルアクセル「やめろ!」うるさいアクセルアクセルアクセルアクセルアクセルアクセルぐちゃアクセルアクセルぐちゃぐちゃぐちゃ「やめ、ぎゃあ!!」ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃアクセルアクセルアアクセルアクセルアクセルアクセ


1分経過、688.23615m移動。


取り戻した。静かだ。アクセル踏む力をこのままにする。一定速度を保ち続ける。

かゆい。赤黒い血が手を覆っていた。皮膚からの感覚が鈍くなる。

うるさかった他人の声も、もう聞こえない。

「あぁ……」

落ち着く。無駄な情報が減って、心地良い。頭と心が少しだけ軽くなる。


1分が経過、600m移動。






バスを停めた。扉を開ける。大量のミネラルが鼻腔に貼りつく。夢とは程遠い感覚。地に降り立つ。正面に広がる海海海。その手前にあるのは崖。崖?その先には海が広がる。家がない。消されたのか?おかしいおかしいおかしいおかしい。脳が勝手に認識する。ガードレールの錆び具合、海岸線の形状、護岸整備の状態、問題ない変だ何十年も前からここは崖だ。頭が真っ白白白白白白白しろしろしろしろしろしろしろしろしろしろしろしろしろしろしろ


ゔぁ。


麻酔弾が脇腹に突き刺さる。意識が薄くなる脳波が緩々と。遠くで声が聞こえる。「予定通りだ」「埋め込んだ行動プログラムに従った行動をさせることが出来た」「軍事転用」「研究費捻出」うんぬんかんぬん。うんぬんかんぬん。






また病院で目を覚ます。初めからか。手錠されてる。帰らなきゃ。

帰る? どこに?

目を閉じる。


意識が薄れて、夢の世界へと飛んでゆく。



あぁ、家だ。



1分経過、0m移動。

1分経過、0m移動。

1分経過、0m移動。

1分経過、

………………。

…………。

……。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


よって、3.4km。

ただ、毎分◯◯メートル進む、ってなんか怖くないですか?



先生のコメント

 先生は貴方の途中式が怖いです。

 そもそも問題の答えは、家に帰ることを決意したシーンで既に出ていませんか?

 回答のペース配分に気をつけましょう。


 

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