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布団の上でしか動くことができない僕が布団を盗む友人と出会い行動範囲を広げていく物語

作者: シーカの種

僕は布団の外に出ることができない。


現在布団は一枚。あらゆるものを布団の上に置いてもらった。布団生活だ。


そんな日々を過ごしているとある友人が訪ねてきた。初めは信じてもらえなかった。布団から出そうと僕を引っ張った。しかし、僕は布団から出ることはできなかった。見えない何かによって。


友人は仕方なく信じることにしたそうだ。布団の上でしか動けないことも。友人は別の布団を取り出した。そして僕が今いる布団の隣にくっつけた。


そうだ。布団がくっつけば移動できる。これは既に知っていた。親と試行錯誤した結果だ。別に一枚あれば生活できる僕にとってはどうでもよかった。何かが変わるわけじゃない。動ける範囲もほんの少ししか変わらない。


こんなこと僕にとってはどうでもよかった。でも、友人は何やら頷いていた。

布団の上なら本当に動けるんだな。友人は色々試し始めた。布団の下に台車を置いて動かしたり、終いには何も問題ないじゃんとか言い出した。


そして友人は言った。俺はお前と遊びたいんだ。出かけようぜ。もちろん僕は断った。

こんな生活をもう何年も続けている。今更外とか行く気なんてなかった。友人にもういいから帰れと僕は言い放った。けれど帰ろうとしなかった。


要は足に布団があればいいんだろとか言い出す。


その言葉に僕はキレた。

布団をなめてるのか。怒った。布団を馬鹿にされた。そんなの布団じゃない。こいつは布団を切るつもりなんだ。


僕の怒りは収まらなかった。

友人は僕の怒りに混乱していた。

お前そんな布団好きだったのかよ。

その言葉に僕はさらに怒りが増した。


布団を侮辱するな。布団嫌いは出て行け。僕の前から消えろ。


友人の必死の謝りで僕の怒りは収まった。僕は布団を侮辱した罪を許したわけじゃない。


でも理解されないだろうとは思っていた。分かっていた。こんなこと誰にも分かってくれる人なんていないんだ。それに、友人は僕のことを心配してきれくれたんだ。そんなことは分かってた。でも…。


友人は僕の怒りが収まったことに安堵していた。

さっきはごめんな。軽率な発言だった。許してくれ。


僕は小さく、もういいと呟き許した。

まだ顔は見れないけど。


友人が一息ついた後、布団が必要なことは分かった。でも俺はお前と外に行きたい。だから…。


友人は少し間を空けた。


そして、布団があればいいんだな。


そう言った。僕は、うん、と答えた。

よし。友人は何かを納得した。いきなり外に行けたとしても心がついていけないよな。とりあえずこの家の中で自由に動けるくらいにはしたいな。

何か計画を練っている友人。


僕は別に布団一枚でも十分だと言ったが聞く耳を持ってくれない。僕は無視する友達にキレた。


友人は布団の上に座り込んで考え事をしていた。だから僕がキレたことに気づくのが遅れたんだろう。僕は突き飛ばした。不意を突かれ吹き飛ばされる友人。僕は追撃しようとした。しかし、友人は布団外に出ていた。


見えない壁によって追撃できない僕は罵倒しまくった。


友人はまた混乱していた。どうしたんだよ。なになに。何か悪いことしたっけ。そんな友人の言葉は聞こえない。なんで無視するんだ。無視するな。僕の話を聞け。僕は怒り狂った。

慌てる友人。悪い悪い。布団大好き。俺も布団の上行きたい。頼む。場所空けてくれ。友人の言葉が聞こえて僕の怒りは収まった。


再び安堵する友人。そんな友人の姿を見て僕は思った。なんだこいつ。さっきから安堵ばっかしやがって。布団の上では静かにしろよ。むかついた。でも今回は収めた。


友人は再び考え事をした。僕も学んだ。今話しかけても聞いてくれない。僕は暫くごろごろしていた。暫くして友人が顔をあげた。


俺が布団持ってきてやるよ。またそれか。僕は溜息をついた。だから布団はいらないって。まあ、待てよ。

友人が止める。


こいつなんか生意気だ。うざい。ただ、言葉が気になる僕は思い留まった。

それでだ、布団を掻き集めて家を布団尽くしにしようぜ。そうしたら家が布団だ。お前の好きな布団ハウスだぞ。


布団ハウス。僕は友人の言葉を復唱した。いい。すっごくいい。布団尽くしの家。それは興味をそそられる。僕はテンションが上がった。


その様子を見て友人も、だろ。面白そうだと思わないかって。でも、僕は気づいた。僕は布団の上でしか動けない。布団を集めることなんてできない。


俺が布団を集めてきてやるよ。俺なら動ける。任せとけって。僕は友人の言葉に涙を流した。布団がいっぱい。僕の大好きな布団。分かった。布団のことは任せるよ。僕と友人は固い握手を交わした。


それから翌日、早速友人が布団を持ってきた。俺の布団だ。まずこれを俺たち布団ハウスの第一歩にしよう。こうして僕たちの布団集めが始まった。


それから友人は毎日布団を持ってきた。僕は新しく増えた布団の上を踏みしめた。行動範囲が広がる嬉しさを知った。布団が増えたことと友人がいることで僕の時間の過ごし方も変化していった。友人はどうやって布団を集めてきたかは教えてくれなかった。


でも僕は布団が増えて行動範囲が広がっていく快感からかそんなことはどうでもよかった。僕の部屋は布団で埋め尽くされ、廊下へと布団が敷かれた。僕の部屋は二階。これから布団は階段へと差し掛かる。


布団ハウスも近づいてきた。部屋を歩いて出たのは何年ぶりだろうか。今までは布団を引っ張ってもらっていた。でも今は違う。自分の足で部屋の外へと出られる。こんな当たり前のことができることがこんなにも嬉しいことだなんて。僕は思っていなかった。


友人が帰ってきた時にこの嬉しさを教えよう。僕は友人が帰ってくるのを待った。でも、友人は中々帰ってこない。さすがに毎日布団を運ぶのは疲れたのかもしれない。だからまだそんなに気にしていなかった。


いつもより一時間が過ぎようとした時、玄関のドアが開いた。友人が帰ってきたんだ。僕は布団が敷かれているギリギリまで駆けて迎えにいった。友人の手には布団が。ただ、ひどく息を切らしていた。


大丈夫?僕は友人から布団を受け取る。友人は布団に倒れこんだ。相当疲れているようだった。友人の顔色を窺いながら次の範囲である階段に布団をひっかける。


本来は階段に布団が到達したことを一緒に喜びあいたかった。でも友人はそんな状態ではなかった。やばい。疲れた。友人の様子がどうもおかしい。友人は布団の上で眠りについた。こんな疲れてる友人を見るのは始めてだ。そっとしておこう。僕は友人を起こさないように部屋へと戻った。


時計の音だけが聞こえる。僕はいつもどうやって過ごしていたんだろう。分からなくなった。友人がくるまで何をしていたんだろう。布団一枚での生活で。


友人がきて、布団が広がり色んなことをして遊んだ。布団の良さについて語りあった。友人は初め布団についてでたらめに僕の意見に同意していた。もちろん気づいたのでキレた。でも最近はちゃんと分かってくれるようになった。布団の良さを理解してくれる友達が増えたことに僕は嬉しい。それ以上にここまで気にかけてくれるとは思っていなかった。


どうせ嘘だと思っていた。馬鹿にしてるんだって。でも心のどこかでは、嘘じゃなかったらいいなとも思っていた。友人は疲れ切って眠っている。することがない僕はテレビをつけた。どうでもいいテレビ。でも今はそんなものでもつけたかった。


ニュースがやってる。どうでもいい。ニュースなんか。僕は家から出ないんだ。だから…。家から…。


その時、友人の言葉が蘇る。


俺はお前と遊びたいんだ。出かけようぜ。


外に出たいとは思わない。でも友人と一緒なら出たいかもしれない。そんな気持ちが芽生え始めていた。


興味のないニュースを眺めていた。


そこであるニュースに目がとまった。最近、布団の窃盗事件が起きていること。しかもその被害が僕の家の近くだということ。そして、被害にあった布団の特徴がここにある布団と一致していること。


僕は嫌な予感がした。友人を見る。友人はぐっすり眠っていた。まさか…。


鼓動が鳴り止まない。どう考えてもあの事件はこれだ。これしかない。


友人がどこから集めてきたのか教えてくれなかったのは盗んだものだから。だから教えられなかったんだ。犯人は友人しかいない。


どうしよう。僕のせいだ。僕が友人の提案にのったから。布団から出たくないなんて言わなかったら。


布団さえなかったら。僕は布団の中で泣いた。友人に起こされ僕は目を覚ました。そのまま眠ってしまったみたいだ。どうしたんだ、と聞いてくる友人。目元が真っ赤だぞ、と。僕はニュースのことを思い出してうまく返事をすることができない。声が震える。その異常に友人は気づいてしまったのだろう。


そうか。知っちゃったか。ごめんな。俺にはこれしか思いつかなかったんだ。どうだ。外に出たいと思えるようになったか?


友人はこの後を悟っていた。


捕まるのはもう間近だと。僕は震えながら言った。外に出たい気持ちになったこと。布団ではなくて、もっと自由に外を歩いてみたくなちゃことを。


そうか。それはよかった。友人は安堵した。友人は喧嘩した時と同じように息をついた。僕は泣くことしかできなかった。ひたすら友人の胸の中で謝った。僕があんなこと言いださなければ。友人はそんな僕をずっと慰めてくれた。俺ももっと違う方法で助けられたらよかったのにな。こんな方法しかできなくてごめんな。


僕は最後に布団なんて嫌いだと言った。

布団さえなければ。それまで慰めてくれていた友人の腕に力が入るのが分かった。

友人がキレた。布団を侮辱すんな。布団はいいものだろ。ふざけんな。友人が鬼の形相で僕を突き飛ばした。僕は布団の外へと転がった。


その様子を見た友人が、お前布団から出てるぞ、と言った。その言葉に僕も今いる場所を確認した。


僕は布団から出ていた。


見えない壁によって布団から出られないはずの僕が今布団の外にいた。怒っていた友人が僕に抱きついていた。よかったな。これで外にいけるぞ。


僕はまだ状況が飲み込めていなかった。


僕は布団の外にいる。その事実をやっと理解した。なんで。なんで。そう呟くも友人にも分からない。


ただ、お前が外に出たいと思ったからだろ。今まで外に出たくないって感情が見えない壁を作っていた。そうとしか考えられない。その壁がなんなのかはさすがに分からないが。


僕は心から外に出たいって思ったんだ。


友人が外に行こうぜと言い出した。僕は、うん、と頷いた。外に行くのは何年ぶりだろう。そう思い、友人と立ち上がった時、インターホンが鳴った。


僕と友人は固まった。凄く嫌な予感がした。部屋の窓から覗く。その予感は的中した。警察がいた。僕と友人は布団を窃盗した罪で捕まった。


自由な外は暫くお預けだな。これが終わったら遊びにでかけようぜ。僕と友人は約束を交わした。一緒に外に出ることを願って。 完

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