けさらんとぱさらん
あるところに、けさらんぱさらんの双子の姉妹がいました。二人の名は、けさらんと、ぱさらんと、いいました。
二人は世界を漂っていましたけれど、ふいに強い風が吹いてきて、何もわからなくなってしまいました。
「ねえ。」ぱさらんは言います。
「あなたの姿、少しぼやけてるわよ。水鏡に映ったみたいに。」
けさらんは気付きました。
「ここは水の世界なの。大きな山脈が水に溶けてしまったから、全てが水の世界になってしまったの。」
「動物たちはどうしたの。」ぱさらんは少し不安そうです。
「大丈夫。ちゃんとみんないるわ。」
ぱさらんが見回すと、向こうのほうで鹿が水草を食べています。その後ろ脚は魚のようになっていて、角は柔らかく丸みを帯びています。かと思えば、足元をくすぐって猫が泳いでいきます。こちらは首だけが猫で、もうほとんど毛の生えた魚のようですが、不思議にあまり変わっていません。
けさらんたちは少し寒くなりました。遥か上の方、光が射してくるほうからなにか降ってきます。
「あ、これは。水の中にも雪は降るのね。」ぱさらん。
「そうね。でも冷たくないわね。」けさらんはお姉さんぶっていいます。
そのとき、また遥か上のほうから今度は大きな音がしてきました。
――ゴゴゴゴ
「あれは飛行機の音かしら。」ぱさらんは首を傾げます。
そのとき、すいと、うぐいの群れが通りかかり、二人に教えてくれました。
「いいや。あれは波の音だよ。大きな波の王さまが渡って行くんだ。」
二人は、上を見上げました。何か大きなものが動いていくようでした。
けさらんとぱさらんは、いつも漂っていましたから、今も別に退屈ではなかったのですが、世界が何だか変わってしまったので、少し驚いていました。
「ねえ。うぐいさん。」けさらんが尋ねます。
「どうして、ここの木には葉っぱが無くてみんな灰色なの。」
「それはね。流木だからだよ。生きている木も向こうにあるよ。」
そう言って、うぐいたちはまたすいと、行ってしまいました。
二人は、流れるままに流されて、気が付けば大きな波の王さまのお城にやってきました。ゴツゴツしている波の王さまのお城の石垣には、気味の悪い像がありました。よく見るとその像の頭の上に、毛足の長い猫が座るようにいて、遠くをみています。
ぱさらんが尋ねます。
「ねこさん。何をみているの。」
「世界の終わりを見ているのさ。」猫は答えました。
「それじゃあ、わたしたちは。」
「「世界の始まりを見に行くわ。」」
二人はそう言って、ふんわり水のなかを漂って行きました。