好きよ好きよも嫌いのうち
「今週のグルメです! 今日は、今話題の創作料理をご紹介します!」
夕方、彼女がつけたテレビではグルメ特集が放映されていた。
有名な女子アナウンサーとグルメに詳しい男性芸能人、そして創作料理を作る年配の女性料理研究家、合わせて3人が画面に並んでいた。
「本日は何を使うんですか?」
「今日はですね……」
料理研究家が一呼吸おいて、エプロンのポケットから食材を取り出し、画面に見せつける。
「これ! アボカドです!」
おお! と感嘆の声を上げた男性芸能人が言葉を続ける。
「アボカドですか! アボカドは女の子みっんな大好きですからね!」
「はい! 私も大好きです!」
女子アナがとびっきりの笑顔をカメラに見せつけた後、料理研究家が料理の説明を始めた。
「あのさ」
彼女が呟くように話しかけてきた。このときは、少し怒りを覚えているときだ。
「どうした?」
「どうして、勝手に女子が好きなものを決められなくちゃいけないの?」
「まあ、確かにおかしいかもしれないな」
「おかしいよね! 『女子みんな好き』ってさ、じゃあ男性はどうなんだよって思うよねさらに、それが嫌いな女子は――」
彼女はそう言いかけたところで言葉を止め、画面を凝視した。僕もその目線に合わせる。
「ここにチーズですか? きゃあ~! 私チーズ大好きなんですよ!」
「アボカドにチーズですか! 女子みんなが好きな食べ物ばかりなんて、贅沢ですね~!」
女子アナはチーズに興奮し、男性芸能人はその食材を褒め称える。
「これで完成で~す!」
そして料理研究家が自慢げに皿の上に載った料理をカメラに見せ、残りの二人は拍手と笑顔でそれをたたえた。
彼女はテレビに消して、その目を僕の方を向けて言う。
「チーズやアボカドが嫌いな人は女子じゃなく何者なんだよ!」
「人間だろ?」
「こういう番組は、そういったことを平気でやるよね! 他にあるとしたら、『男性は丼物が好き』とかだね!」
どうやら僕の意見は彼女にとってどうでもいいらしい。
「男女で食の好みとかを勝手に決めつけるのは差別でしょ! 男女共同参画社会のこの現代で!」
「どうした!? そんな専門用語を使って!?」
「いや、この差別は無くすべきでしょ!」
彼女は勢いそのままで僕に迫ってくる。
「ということで、今日の夕飯は牛丼で決定!」
「マジかよ」
「マジです」
「じゃあ、チーズでもトッピングつけるかな……」
そうして僕らは部屋の外へと出た。
読んでいただき、ありがとうございました。