都会にて
上司に仕事を託される.なになに君これ,いつまでにね.
とっても難解,手数が多い.とてもじゃないけど,間に合わない.納期に間に合わない.
どうしよう↑ どうしよう↓ どうしようー
そこら辺を歩いていた知り合いは,励ますつもりか頑張れ頑張れ,お前ならできると言ってくる.
わかった頑張る.徹夜が続く.でもやっぱり,ダメだぁ.
どうしよう.
上の人が近づいてくる.まだ終わってないの? 役に立たないなあ.期待して損したなあ.
頑張りがたりないんじゃない?
そうかもな! がんばろう! がんばればきっとできる.
がんばる.がんばる.がんばる.
けれど,進まない.もう,終わりだ.終わりに違いない.無能だ.なんて馬鹿なのだ俺は.死にたい死にたい死にたい.
死のう
だめだよ!!!
辛くても,頑張るのなんて間違ってる.そうでしょう.なんで辛いのに,頑張らなくちゃいけないの.苦しみは何も産まない!
でも.どうすればいいの.やらなければならないことたくさんあって,どこにも動けないのに.
大丈夫.すべてを投げ出せばいいんだ.
でも,多くの人に迷惑かけちゃう.
いいんだよ,それで.誰かが,困ったら誰かが助ける.それが会社であって,組織でしょ.誰かが怪我をすれば,治療が受けられる.病気になれば,休職できる.やすめやすめ休みなさい.
でもでも…… 自分の仕事は最後までやらないと.
ばか,あほ,まぬけ!!!.自分が一番大事でしょ.そう命こそが最も尊い.仕事,プライドそんなものどうでもいい.君は君自身を深く考えなさい.そして決めるのよ.ここで死ぬか,生きるか.
カーテンを閉め切った室内で,たった一人ベッドに膝を抱える.ふと,携帯の一度も連絡取っていない名前が並ぶ連絡先を上から下へスクロール.
とっても懐かしい,そしてよく親しんだ名前を見つけた.自然な動作でタップする.
「もしもし,◯◯ですが」
「おれおれ」
「俺俺って,誰や.もしかして,あんた△△か.そうやな.ずいぶん声も聞いとらんから,すぐにはわからんとった.今何しとんの?」
「普通に働いているよ」
「そうかそうか.あんたも頑張ってるんやな」
「頑張ってる頑張ってるよ……」
「なんや,いやなことでもあったんか.お母ちゃんに話してみい」
「いや,いいよ」
「そげんこと,言わんでええから,言ってみい」
「うーん,……」
それから,俺はずっと母親に話続けた.喋っても喋っても止まらない.言葉があふれてくる.目からは,涙がこぼれて,鼻水も止まらない.最後は本当に泣きじゃくるようにしてそれでも話し続けた.
言葉が途切れた.
「あんたの気持ちはよう分かった.分かったから,今すぐ,実家へ帰って来なさい.今すぐに」
「そうはいかないよ.社会人は甘くない」
「私はなあ.あんたの命のほうが大事なんや.当たりまえやろ,大切な子供なんやから.そんな大事なものを会社なんかに殺されてたまるもんですか」
携帯を耳元から離す.已然として通話中だ.
考えて考えて,全然わかんなくて.結論なんてでやしない.最善の策なんてどこにもない.会社のこと,上司のこと,同僚のこと,故郷のこと,母親の事が頭のなかをものすごい速度でグルグルと回って,気が狂いそうだ.あまりにも乱雑になった世界の中,もはや何が正しいのかも分からなくなって,母親に返事を返す.
「帰るわ」
そう一言返して,俺は実家へと帰った.