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「芽衣香、学校行くぞ」
「…………」
入学式の次の日。玄関に隼人の姿を発見した私は、思わず階段の上で固まった。
「隼人様が、何故朝早くから私の家の玄関に?」
「……ちょっと、一緒に通おうと思っただけだ。いいだろ?」
少しそっぽを向きつつ、何でもないかのように隼人は言った。了承を得るように言われれば頷くしかない。こくりと首を縦に動かした私を見て、隼人は満足げに笑った。
その態度を見てピンと来た。ああ、なんだ、そういう事か。
「一人で学校に行くのが不安だったのですね」
「違う」
速攻で否定された。
あれ? と階段の上で頭の上にハテナを浮かべる私に痺れを切らした隼人は、わざわざ階段を上ってきて私のカバンを奪った。きょとんとしていた私は、呆気なくカバンを取られてしまう。
「ほら、早く行くぞ」
カバンを奪われて、先を歩かれてしまってはもう仕方がない。私は隼人の後についていき、車の後部座席に乗り込んだ。そこにはもう宮本さんが運転席に座っていて、スムーズに車が発進する。
いつものように隣に座る隼人に、私は自分の疑問を投げかけた。
「隼人様は私の家までどうやって来ましたの?」
「車だけど」
「…………」
何とももったいない行動を取るものだと感じたのは私だけだろうか。
「車でここまできたのなら、そのまま学校に行けば早いじゃないですか」
「……それは、そうだけど」
「もう、不安なら不安と言ってくださればいいんです」
「だから違う! だから、その、虫除けというか、他の野郎が近づかない為というか、なんというか……」
もごもごと口ごもる隼人。はて、虫除けとは一体……?
「と、とにかく! お前は目を離すとすぐどっか行くから、俺が側にいてやる」
「え~? 私はそんなふらふらとどこかに行ったりしません」
「するだろ!! 隣にいると思ったらいないし、一人で何でもかんでも決めて一人で行動しようとするし。危ない目に遭ったらどうするんだよ」
「もしかして、私が誘拐されそうになったこと、まだ引きずっているんですか?」
「ッ……。だから、そういう事じゃなくて……」
グッと隼人が喉を詰まらせた。
「隼人様、あの事を隼人様が気に病む必要などありません。
それに、私がどこかに行っても、最後には必ず隼人様の元に返ってきますし、隼人様が私を必要としてくれる時はちゃんと側にいますから、安心して下さい」
「……ああもうお前は!」
うがー!! と隼人が頭をかきむしった。
きっと隼人は新しい環境で知り合いが私だけという状況に、無意識にも不安を抱いているに違いない。
うん、分かるよその気持ちは。安心させる為に、『ちゃんと側にいるよ』とアピールしたのに、隼人の心は安心するどころか心は荒れ模様となってしまった。あれ~?
「お前の会話は、どこかすれ違いつつ的確に俺の心をくすぐってからえぐって来るよな……」
「え」
くすぐってからえぐるって、そんな酷い言葉を使っていただろうか。安心させるつもりだったのに。思春期の子供の心は難しい。まるで秋の空と女心のようだとアンニュイなため息が漏れそうになる。
「芽衣香お嬢様、隼人様、お楽しみ中申し訳ありませんが、学校にお着きになりました」
「あら……、いつの間に。ありがとうございます宮本さん」
「宮本、ありがとう」
送ってくれた宮本さんにお礼をいいつつ、彼がドアを開けてくれたので車から降りる。そこで、気がついた。
こうやって二人仲良く校門前で降ろしてもらうのは、中々目立つ行動だということに。
普通は、自転車や電車、徒歩で来るのが当たり前の学生たちが、もの珍しげに私たちをちらちらと見つめてくる。
黒光りの高級車で登校。そして運転手がわざわざドアを開けてくれるというのは、一般中学生では有り得ないということを、完全に忘れていた。どうやらすっかりお金持ちに感化されてしまっていたらしい。
ましてや、同乗しているのは超イケメンの同級生。
これは、少女漫画とかでよくある『なにあいつ隼人君と一緒に登校しやがって……』という嫉妬からくるイジメが発祥するシーンではないだろうか。
「……私、友達できるでしょうか」
「お前の方が学校生活不安なんだろ」
今度は逆の立場で突っ込まれた。う~ん、たかが中学一年生に陰口言われようが大して傷は付かないんだけど、ぼっちは色々と大変なんだよなぁ。
まぁ、隼人に彼女とかが出来れば、多少はマシになるだろう--……。と考えて、一つの疑問が思い浮かんだ。
(……隼人はもうゲイなんだろうか)
一応、BLゲームの中では隼人は最初からゲイである。だけどじゃあ、隼人は一体いつそっちの扉を開いたのだろう。
まだそっちの扉を開くのは早いだろうとは思いつつ、試しに少し探りを入れる為、前を歩く隼人に質問をしてみた。
「隼人様、隼人様は女性の体に興味はありますか?」
「ゴフッ!? ゲホゴホゴホッ!!」
「まぁ! 隼人様大丈夫ですか!?」
探りを入れる為の質問をしたら、隼人は盛大に咽せた。ゴホゴホと咳をする隼人は、真っ赤な顔をして私に叫ぶ。
「いきなりなんて事聞いてんだ!!」
「えと、ちょっと素朴な疑問が頭をよぎって、質問してしまって」
「どこが素朴な疑問だ!! もうちょっと、こう、オブラートに包め馬鹿!!」
ペシンと軽めに頭を叩かれる。う~ん、私にとっては結構オブラートに包んだつもりだったんだけど。
『ゲイですか』と聞く方が良かったのだろうか。でもそれは度直球過ぎるよなぁ。と考えて、新たな質問を繰り出した。
「じゃあ、女子と男子どっちが好きですか」
「なんだその質問」
まだ頬に赤みを残しつつ、隼人は足を進める。慌てて私もついていき横に並んだ。
「真剣な質問なんです。女子と男子、どっちが好きですか」
「そりゃあ、まぁ……、一緒にいて楽しいのは男子だけど?」
なん……、だと!?
もう男色家として覚醒していたのか……!!
気づかなかった! 全然気づかなかった! もしかしてもうターゲットを絞り込んでいるのだろうか。
「まぁ、誰が好きって聞かれれば、おまえ(ry「なんでそんな大事な事早く言ってくれなかったんですか!」」
隼人の言葉に被さるように叫んだ。もっと早くに知っていたら、きっと隼人の応援が出来たのに。BLの世界を堪能出来たのに!
きぃぃと悔しがる私に、隼人は戸惑いの色が隠せないようだった。
「いや……、俺の気持ち、芽衣香はとっくに気付いてると思ってたから」
なんですと!?
もしや、隼人がBLの世界に足を踏み入れている事に私が気付いていたと思っていたのだろうか。分からなかったよごめん!
「知りませんでした……。あの、いつから、ですか?」
「……小一の、あの時から」
嘘だろ!?
こいつ、そんな前から男色家だったのか!? 早すぎる。早すぎるよ! 流石BLゲームの世界なだけある!! てかあの時ってどの時だ。全く身に覚えがない。
「……なんか、告白みたいになっちまったな」
「いえ……。でも、私、隼人様の思い、ちゃんと受け止めますから」
ゲイだからと恥ずかしがる事はない。それを主食として生きる女性(腐女子)だっているのだから。私が微笑みかけると、隼人は『芽衣香……』と呟いた。
「大丈夫ですわ。私、隼人様を全力で応援しますわ」
「……お前、またなんか勘違いしてるよな?」
「……」
あれ? どこですれ違った?