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隼人の立ち位置を、一ノ瀬家の一人息子から次男に変更しました。申し訳ありません(汗




「二宮、桃李、様?」

「うん! 桃李って呼んで!!」

 嬉しそうにはにかむ彼を私は数秒見つめ、口元を抑えてその場に座り込んだ。



「芽衣香!?」

「どうしたの!?」

 いきなりその場に倒れ込んだ私にびっくりしてか、隼人と桃李が大声を出す。




「だ、大丈夫です、わ……!」

 ただ、興奮しちゃって息が苦しいだけだから。

 ハァハァしないように必死に息を止める。落ち着け、落ち着くんだ鼓動と息遣いよ!! ここで、ここで二人にドン引きされたら全てが水の泡だぞ!

 やっとこさ呼吸を整えて、私はおずおずと立ち上がった。




「心配かけてすみません。少し発作が出ただけですわ」

 『萌え』という名の発作がね。



「もう治った?」

「はい。もう大丈夫です」

「芽衣香は病弱ってお父様も言ってたからな」

 まだ純粋な子供の二人は病弱だからと勘違いしてくれた。ふかふかのソファに私を座らせ、メイドさんが持ってきてくれた紅茶を勧めてくれる。

 紅茶に口をつけつつ、私は桃李の情報を思い出す。




 二宮 桃李

 二宮家の三男であり末っ子。性格は明るく活発で、勉強などよりも運動の方が得意。また社交的で、庶民として最初はあまりよく思われていなかった玲君にも、最初から親しく接してくれる優しい子だ。二次創作では受けとして書かれるのもしばしば。

 桃李ルートの場合、妨害やライバルキャラはいないのだが、恋愛に発展させるのが難しい。

 友達以上恋人未満みたいな、じれったいイベントが多いのだ。



 例えば下校イベントとか。

 『……ちょっと寒いね』『……うん』とか言い合いながら、手を握ろうか握るまいか頬を染めて悩む玲君と桃李。ちらちらとお互いの指先を見て、視線が合ってはパッと顔を背ける。

 繋いじゃえよ! 繋いじゃえよぉ!! と何度叫んだ事か……。




「芽衣香? ぼぉっとして、大丈夫か?」

「ハッ、す、すみません隼人様。ちょっと考え事をしてました」

 心配そうな隼人の声で現実に戻る。さっきから何をやっているんだ自分は。

いくらBL不足だからと言って、まだ小さい子供たちに萌えるだなんて。そんな事していたら警察のお世話になってしまう。




「熱、計った方がいいんじゃない?」

「いえ、そんな……」

「芽衣香は病弱だからな!! 今すぐ計らせよう。町田ー、芽衣香がー」

 隼人、お前何故病弱だからっていうところ嬉しそうに言ったんだ。と聞こうとした時、閉められていた扉が開く。

 そこには、髪を撫でつけピシッと燕尾服に身を包んだ、まだ年若い男性の姿が。




「はい、お呼びでしょうか隼人様」

 若い執事!! 眼福です!!

 思わず顔を背けニヤケた口元を手で隠す。





「町田、芽衣香が熱あるかもしれない」

「熱、ですか? 芽衣香様、大丈夫ですか?」

「っ……! だ、大丈夫ですわ!!」

 止めて!! 大の大人が子供に敬語なんて!!

 敬語を使いつつ、まさか隼人に鬼畜攻めとかしてないでしょうねあなた!! 隼人は玲君のものなんだからそんなの許しませんよ!!

 一回だけその場面見学させて下さいお願いします!!


 『失礼します』と言ってから、町田さんは悶え震える私のおでこに触れた。




「熱は無さそうですが……。心配ですので、医者を呼びましょう」

「い、いえ、大丈夫ですわ。本当に」

 腐女子には日常茶飯事に起きる発作なのだから気にしなくていいのに。などとは言えないので、朗らかに笑いながら拒否をした。渋々町田さんは部屋を出る。




「お二人共、迷惑かけてすみませんでした。ところで、二人は同じ学校に通っているのですか?」

「うん、そうだよ。隼人と俺はおんなじクラスなんだ」

 そうだったのか……。ゲームの中では、攻略対象者の出身小学校までなんて明確に書かれている訳ではない。

 だけど、この二人が同じ小学校出身だったなんて……。意外と言えば意外だ。と、その時ある事に閃いた。




「あ! あの、お二人の学校はどれくらいの規模なんですの?」

「規模? そこまで大きくないぞ」

「一学年に三クラス程度だよな」

「じゃ、じゃあ、同じ学年に、四ノ原という苗字の男の子はいませんか?」

 私の唐突な質問に、二人は顔を見合わせた後、二人同時に首を横に振った。




「四ノ原なんて、多分聞いた事ない」

「じゃあ、一つ上の学年に三城という苗字の男の子は?」

「多分、いないと思うけど?」

「そう、ですか……」

 まぁ、そんなに上手く話が進む訳がないとは思っていたけど、少し残念だ。

 やっぱり、この二人が同じ学校なんだから他の攻略対象者も同じ学校かもしれない、という考えは甘かったようだ。きっと、二人とも違う学校なのだろう。




「誰だ、その四ノ原とか、三城とかは」

「芽衣香ちゃんの好きな人~?」

 桃李が茶化すように言うと、隼人はじろりと彼を睨みつけた。




「芽衣香は俺のだから、違う!! 違うよな芽衣香!?」

「はい。違いますわ。ただ、前から気になってる人でして……。出来れば、会いたかったのですけれど」

「…………」

 『どういう意味だゴラァ』とでも言い足そうな視線が私に突き刺さる。

 なんだ、しょうがないじゃないか。私がいきなりこの二人に、『ここはBLゲームの世界なんです!』なんて言ったら、確実にお父様に病院に連れて行かれるだろう。勿論私はそんな事にはなりたくない。だが、お茶を濁そうとする私に、桃李が追い討ちをかけようとしてくる。




「好きと気になるは違うの? いつその人たちの事知ったの~?」

「好きと気になるは違います。その人たちの事は、以前のパーティーの時に会っただけで……」

「その時から気になっているんでしょ? じゃあやっぱり好きなんだ~」

「…………」

 隼人からの無言の圧力が辛い。



「……本当に、本当に何もありませんから」

 だからそんな目で見ないで。

 しょうがないのでまだ追求しようとする桃李の口に菓子を突っ込む。ついでに隼人の口にも菓子を突っ込む。



「私は隼人様の婚約者なんですから、他の人にうつつを抜かすなんて事しませんわ。私が一番好きなのは隼人様のイベントなんですもの」

 そんな事をして婚約を切られたらたまったものじゃない。

 憤然とした態度で言うと、何故か桃李がニヤニヤした顔で私を見つめ、隼人にはそっぽを向かれてしまった。




「隼人が照れてるー」

「うるさい!! 馬鹿桃李!!」

 ああ、なんて微笑ましい。ニヤニヤする桃李と顔を真っ赤にしながら怒る隼人が、とっても可愛らしかった。





 それから時々、放課後に迎えに来てくれる宮本さんと一緒に隼人が迎えに来て、門限まで隼人の家で遊ぶ事が増えた。

 また、隼人のお母様、葉月様と談笑したり(葉月様は腐女子じゃなさそうだった、残念)、遊びにきた桃李と隼人が遊んでいる姿を静かに見つめたり。

 お父様に知られるとうるさいので、お父様に知られないように、門限の五時にはちゃんと帰る。そんな日々が続いた。




 そんなある日、事件が起こった。










 その日は、隼人と桃李が庭でサッカーの練習をしていた。

 広い芝生の上でボールの蹴り合い、というより肉弾戦みたいになっている二人。じきに殴り合いにならないかと若干ハラハラしてしまう。




「少し、席を外しますわね」

 紅茶やお菓子をつまみつつ、傍観していた私はそう言って席を外した。

 二人はボール蹴りに必死で聞こえていないようだったが、すぐに帰るつもりなのでそのまま屋敷内に入る。目的はお手洗いだ。




(えっと、確かここを曲がって、次に左に、だっけ?)

 一ノ瀬家の豪邸はかなり広いので、度々迷子になりそうになる。

 右を見たり左を見たりとキョロキョロしていた時。

 微かだが、パリン、と何かが割れる音が聞こえてきた。




「……何の音?」

 辺りにはメイドも執事もいない。もしかして、隼人たちがサッカーボールで窓ガラスでも割ってしまったのかと、私は音のした方に足を進めた。


 庭に面する、豪華な廊下を進む。



「隼人様~? 桃李様~?」

 窓ガラスを割ってしまったのなら、隠れてないで出てきなさ~い。今なら一緒に謝ってあげますから。

 そんな軽い気持ちで、廊下を曲がった時。

 黒い影が、視界を覆う。




「っ……!!」

 びっくりして後ずさろうとすると、何かが私の鼻の頭を掠るようにして目の前を通った。

 そのせいで私はバランスを崩し、思いっきり尻餅をつく。

 お尻の痛みに顔をしかめつつ、視線を上げた。




 そこには、町田さんが大きな袋を持って立っていた。




 黒い影だと思ったのは、町田さんが着ている燕尾服だった。右肩にはクリーム色の大きな麻袋が担がれているが、中身は空のようだった。

彼の後ろには、割られたガラスが散乱している。たしか、あそこには正人様のコレクションがショーケースの中に飾られていたはず。


 そして、町田さんの左手には、小型のナイフ。

 その左手が振り下ろされているという形で止まっているという事は、さっき私に掠るようにして通ったのがそのナイフだという事が、安易に分かった。




「ま、ちだ、さん……?」

「ああ、見つかってしまいましたか」

 冷たい声色に、ゾッとする。彼は麻袋を抱え直し、左手のナイフをくるりと回した。




「芽衣香お嬢様、いけない子ですね。自分の近くに誰も置かずに一人で歩き回るだなんて。あなたはただでさえか弱く、そして利用価値が高い人なのに」

「……どういう、意味ですか?」

 恐怖に震えそうになる体を叱咤し、懸命に動かして後退する。そんな私のささやかな抵抗を、町田さんは冷ややかな目つきで見ながら笑った。




「柴龍 聡介が病的なまでに溺愛する、体が弱い一人娘。そんなあなたが、他の人間に狙われない筈ないでしょう?」

 町田さんは一歩踏み出し、私の服を踏みつけた。そのせいで私は床に縫い止められる。ナイフがまた、くるりと回った。




「本当はこの一ノ瀬家の財宝を盗んでとんずらする予定でしたが、あなたを誘拐して身の代金を要求した方が高そうだ」

 そう言って抱え直すのは、子供一人は余裕で入りそうな程大きな麻袋。

 恐怖で声を上げそうになった私のこめかみを、町田さんはナイフの柄で叩いた。

 衝撃で倒れる私を見て、町田さんは愉悦した。




「前々から気に入らなかったんですよ、金持ちって奴らが。俺たちを見下して、命令して」

 ナイフが、また、回る。



「芽衣香お嬢様、感謝しますよ。あなたのおかげで一生遊んで暮らせる大金が手に入りそうだ」

 痛みと恐怖で動けない。町田さんは麻袋を下ろして袋を開け、私を中に詰め込もうとした。



「やっ……!」

「少し、黙れ」

 抵抗する私に、拳が奮われる。幸いにも両手で頭を庇ったが、重い衝撃に殴られた右腕に激痛が走った。




「~~!!」

 器用に、そして迅速に、町田さんは私を縛っていく。あぁ、もう駄目だと涙を流した時。




 ポテンと、町田さんの頭にサッカーボールが当たった。





「町田!! 芽衣香に何してる!!」

 勇ましいその声を聞けど、私はますます血の気が引いていくのが分かった。

 きっと、急にいなくなった私を探しに来てくれたのだろう。こちらにサッカーボールを投げた隼人と桃李は、真っ直ぐこっちに走り寄ってくる。

 来ちゃ駄目と叫びたいのに、喉は声の出し方を忘れてしまったかのように一音すら出てこない。

 町田さんが振り返り、地面に置いていたナイフを握る。




「邪魔なお坊っちゃんには、お仕置きが必要だな」

 町田さんが静かに、微笑んだ。

隼人と桃李も町田さんの様子がおかしい事に気づき、手に握られている鈍色の物体を見て固まった。




 駄目。

 駄目。駄目、そんなの絶対駄目。

 ポロポロと涙が溢れて止まらない。殴られた所が、痛い。




 隼人と桃李が傷つくなんて、下手したら、殺されるかもしれないだなんて。そんなの、絶対に嫌だ。

 何より--……、そんな事になったら、幸せな、未来が! 玲君のハーレムという、幸せな、未来が!!


 恐怖が、どこかに引っ込んだ。





「させるかーーーーーー!!!!」

 私が歩き出そうとした町田さんの右足にしがみついたせいで、町田さんは盛大にこけた。








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