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「隼人様って、本当は乱暴者だったんですね。私、知りませんでした……」

「え、え」

「女の子を罵る男の子だったなんて。これを正人様が知ったらどうなるか……!!

言えません。正人様に、隼人様が女の子に○○○○と言った後××××って言っていたなんて、そんな事死んでも言えませんわ……!!」

「……う、う」

「それに、運転手を買収だなんて。隼人様、お金で全てを解決しようなど愚かな行為ですわ。世の中にはお金で買えないものなどたくさんあるのですよ?」




「……例えば?」

「……愛、とか?」

 胸の前で腕をクロスさせ、聖女のポーズをしながら微笑んだら、隼人は胡散臭そうな目でこちらを見つめた。





「ああ! 隼人様にこの話を信じて頂けなかったら、私は思わず正人様にうっかり口を滑らせてしまうかも--……「わ、分かった。もう女の子に悪口は言わないし、買収もしない」」

 ヨヨヨと泣き真似をしたら、慌てた隼人様が誓ってくれた。

 うんうんそうだよ。俺様でも言っていい事と悪い事があるんだから。隼人はジェントルマンな俺様になるんだよ。



 さぁ、これで隼人への説教は終わりだ。次の目標である、運転中の宮本さんに私はターゲットを変えた。





「宮本さん、宮本さんは一体幾らで買収されたのですか?」

「飴一個で御座います芽衣香お嬢様」

 やっす!! SE○YUも驚きの安さだよ!!




「宮本さんは、私は飴一個にも劣る存在だと言うのですね……」

「申し訳ありません芽衣香お嬢様。権力など持っていない、しがない老人は芽衣香お嬢様の婚約者である隼人様のお願いを無碍むげには出来なかったのです。

隼人様の、芽衣香お嬢様と一緒にいたいという純粋なお願いを……」

「み、宮本!!」

 隼人が顔を赤くして叫ぶ。だか宮本さんは止まらない。




「買収されてしまったこの老人は煮るなり焼くなり好きにして貰って構いません。ですが、隼人様は、芽衣香お嬢様と甘い一時を過ごしたいという隼人様だけは許してあげて下さい!!」

「宮本ーーーー!!」




 宮本さん、かなりの手練れだった。




「……分かりましたわ宮本さん。今回の事は、お父様には内緒です」

 あんな事言われてしまっては仕方がない。何より、隣で真っ赤になっている隼人が可哀想だ。

 ちらりと隼人の方に目を向けると、真っ赤になりながらプルプルと子鹿のように震えている。




「……ち、違うからな」

 今にも泣き出しそうな声を出して、隼人は私に背を向けてしまった。

 だ、誰だ、この幼気いたいけな少年の心を弄び傷つけたのは!! お前か宮本さん!!

 慌ててフォローに回るべく、隼人の側に座り直す。




「隼人様、元気出して下さい。私も隼人様と一緒に過ごせるのはとても嬉しいですわ」

「……ほ、本当か?」

「もちろん。門限の五時までなら一緒に過ごせますので、どこか隼人様お好きな場所に連れて行って下さい」

「……ん、じゃあ、連れてってやる」

 何とか泣き出す事は回避出来そうだ。ホッと胸を撫で下ろした。




「そういえば、宮本さん。どこに向かっているんですか? いつもの帰り道とは違うみたいですが……」

「ふふん。芽衣香、どこに向かってると思う?」

 すっかり宮本さんの羞恥プレイから立ち直った隼人が意味深に微笑む。




「今日は、俺の友達に会わせてやる」

「友達、ですか? じゃあ、この車は隼人様の学校に?」

「いや、俺の家だ」

 なんだ、隼人の家か。行った事は無いけれど、ゲームの中、液晶越しになら見たことがある。

 隼人の誕生日パーティーに一ノ瀬家を訪れた玲君を、少し無理やり気味に庭にある噴水に連れて行ってそこで逢い引きをするシーンがある。その時の背景に一ノ瀬家の豪邸が書かれてあった。



 一ノ瀬家は、中世ヨーロッパ風の造りになっていて、凹の字に建てられた豪邸だ。広い庭には一ノ瀬家の奥様、つまり隼人のお母様が好きな薔薇園や噴水がある。

 逢い引きのシーンは私大好きだったなぁ……。




「隼人様のお家ですか。楽しみです。お友達は何人ですの?」

「今日は一人だ。みんな習い事が重なってしまった」

「まぁ、どんな人ですの?」

「それは、行ってからのお楽しみ!」

 子供らしい笑みを浮かべて隼人は言った。こうして見ると、尊大な笑みを浮かべている高校生ver.の隼人とは大違いだなぁと、私は何故か教え子を見るような心情で彼を見つめた。












 一ノ瀬家は、想像以上にでかかった。そして西洋の貴族が住んでいそうな豪邸は、かなり凝った造りである。

 車から降りた私が、思わず『私はヨーロッパに来たのか……』と勘違いする位本格的だ。

 見よ、このシンメトリー。左右対称の美しさ。液晶越しではないからこその迫力である。

 豪華な玄関扉を開けると、そこには亜麻色の髪を緩く巻いた、美しい一人の女性が優しい微笑みを浮かべながら立っていた。




「初めまして芽衣香さん。私は隼人の母、一ノ瀬 葉月ですわ。今日は来てくれてありがとう」

「は、初めまして!」

 キタコレ!! 思わずガッツポーズをしたくなるのをグッと堪える。




 一ノ瀬 葉月。

 隼人と玲君の仲を誰よりも早く感づいて、そして一番最初に二人を応援してくれた人物、通称『女神様』だ!!

 ネットでは、『私は、隼人の幸せを誰よりも願ってるから』と二人の仲を応援したその深い母親の愛に、いつしか女神と呼ばれるようになった、隼人のお母様。

 私は携帯ゲームをしていた常日頃から、『女神は絶対腐女子だ』と疑って止まなかった。

 興奮に思わず声が上擦ったけど、葉月様はくすりと微笑ましげに笑うだけだ。流石女神!!




「本当に可愛らしい子なのね。こんな可愛らしい子と婚約が出来たなんて……、良かったわね隼人」

「母上っ!!」

 照れ隠しのように大きな声を出す隼人だが、葉月様は嬉しそうに笑うだけだ。




「もう隼人のお友達も来ているわ。芽衣香さん、紅茶はローズヒップでもいいかしら?」

「はい。私、ローズヒップは大好きですわ」

 お肌にもいいし、ハイビスカスなどとブレンドすると本当に美味しい。ちょっと葉月様と紅茶談議をしようと思ったが、隼人に腕を引かれてしまった為断念した。




「もう、隼人様……。せっかく葉月様と楽しくお喋りしようと思いましたのに……」

「芽衣香は、俺と一緒に居ればいいんだよ」

 ツンと言い放った隼人様の後をついて行く。そして、一つのこれまた豪華な部屋の扉を開けた。




「遅くなった」

「も~遅いよ隼人!!」

 明るく子供独特の高い声。私も中を覗いてみると、室内にいる人物がこちらを見た。




 赤みを帯びた明るい茶髪。同じく茶色の瞳はアーモンド型をしていて、隼人よりも少し日焼けしているようだった。こちらの男の子も恐ろしく顔が整っている。あれか、類は友を呼ぶってやつか。

 男の子は私を見て、数度パチパチとまばたきをした。



「もしかして、その子が隼人の婚約者?」

「そうだ。芽衣香は俺の婚約者だ」

 ふふんと得意げな表情を見せる隼人。それはまるで、お気に入りの玩具を見せびらかす子供のような顔だ。

 私はとりあえず、茶髪の男の子に頭を下げた。




「初めまして。柴龍 芽衣香ですわ。宜しくお願いします」

「初めまして! 俺は二宮 桃李。宜しくな!!」




 にぱっと、目の前の男の子が笑った。





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