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 隼人との顔合わせが終わった後、私は疲れたからと人払いをして、自室のベッドに潜り込んでいた。




「……ふふ、むふふふふ……」

 自然と笑いが漏れる。いかんいかん。自重しろ。でも、不気味な笑いが自然と出てしまう。

 なんてったって、大好きなBLゲームの世界に入り込んだのだ。





 『禁断の友情~俺と友達の蜜月~』の物語は、主人公が鏡華学院に入学してから始まる。

 鏡華学院は、将来会社を担うだろう御子息、またその御子息を狙うご令嬢が集まる、お金持ち学校でありつつレベルも高い高校だ。

 主人公、神月 玲はいわゆる庶民。将来は医者になるべく、奨学金狙って外部受験枠で主席を取り、この学校に入学する。



 また、攻略対象者の名字には『数字』が入っている。攻略対象者は、主に4人。



 一ノ瀬 隼人。

 二宮 桃李

 三城さんじょう 司

 四ノ原 十和とわ


 他にも、隠れキャラとして同じ部活の先輩、担任、保健室の先生、生徒会長、理事長がいて、隼人と桃李、そして十和は同じクラスメート。司だけは一個上の先輩となる。

 上手くいけば、玲君はハーレムエンドを築き上げ、みんなから溺愛されムフフな毎日を過ごすようになるのだ……。ッキャーーーーー!!!




 だがしかし、私はこの天国みたいな状況にも二つだけ不満があった。




 私が今通っている学校は、良いとこのお嬢様しか通っていない小学校なのだ。

 ……正直に言おう。私は、百合は好みではない。萌えない。まぁ、腐女子の仲間を作るのだったらとても良い環境だが。

 これでは、小学校を卒業するまでBLは期待出来ないだろう。




 もう一つは、多分BLゲームを購入出来ないだろうという事。

 あのお父様の様子じゃあ、たった一人の愛しい娘がゲーム、とりわけBLゲームがしたいと言い出した日には何をし出すか分からない。

 それに、ちょっと同情してしまう。自分の子供が、まだ小学校低学年の頃から『やっぱり先生×生徒は萌えるよね。先生が受けなら堪らん』とか言ってたら。

 私だったら泣く。どこで育て方を間違えたのかと号泣する。




 じゃあ、お小遣いを貯めて買えばいいのではないか。これも難しい。

 今まで私はお小遣いを貰った事がない。私が欲しいと言った物は全て、お父様が買ってきてしまうから、お小遣いを貰う必要がないのだ。

 また発育に影響するからとテレビやPCは見せてもらえない。学校までは車の送迎。また習い事は先生方が来てくれるから部屋から出る必要もない。外出するにもボディーガードが着いてくる。携帯も所持していない。



 よって、私は、早ければ中学生、遅ければ『禁断の友情~俺と友達の蜜月~』の物語が始まる高校生まで、BLを我慢しなければいけない。





「無理だ……!!」

 そんなの禁断症状が出るわ。前世の時でも、学校ではクラスメートの男子がじゃれあってる姿を見て、『あいつらデキてるだろ!』とニヤニヤしてたのに。

 その楽しみが失われるのは、流石に辛い。




「せめて、お父様の過保護っぷりが治せればなぁ~~」

 携帯位は持たせてくれないだろうか。そうしたら二次創作の小説を楽しむ事が出来るのに。




 む~む~と唸るも、解決策は出ずに私はそのまま眠ってしまった。










 すまん。私は嘘をついたようだ。




「ごきげんよう芽衣香様」

「ごきげんよう愛美様」

「ごきげんよう芽衣香様」

「ごきげんよう千佳子様」

 うふふおほほと、小さな女の子たちがめいいっぱい背伸びして淑女の真似をしている姿に、不覚にもキュンときた。か、可愛い!!



「あ、芽衣香様!! ごきげんよう!!」

 教室に入ると、仲良くしてくれているクラスメートが駆け寄ってくる。まだまだ行動はお転婆な子が多い。



「ごきげんよう皆さん」

「芽衣香様、昨日私の家で飼っているラガマフィンのミーちゃんが赤ちゃんを産んだんです!」

「美奈様のお家のミーちゃん、本当に可愛らしいですものね」

「これが昨日撮った写真なんですよ」

 美奈ちゃんが自分のスマホに入っている写真を見せる。




「可愛い~~!!」

「ちっちゃ~~い!!」

「ミーちゃんが赤ちゃんペロペロしてる~~!!」

 はしゃいでいるみんなの方が可愛いよ!

 などと言ったら多分変人扱いされそうなので言わない。にしても、いいなぁスマホ。私も欲しいなぁ……。




「美奈様のスマホは、お父様に買ってもらったの?」

「今日、みんなに写真を見せたかったので貸してもらったんですわ!」

 にぱーっと美奈ちゃんが笑った。いいねぇ。普通のお父様で。

 私はペットを飼っていないし、写真を撮りたいって言ったら絶対デジカメが来るだろう。そして絶対お父様との2ショットをバシャバシャ撮らされるに決まっている。




「ぁ、もうこんな時間。次は体育ですわよね?」

「確か持久走でしたわ」

「嫌ですわよね~」

 みんなの話に相槌を打ちつつ私も着替える。でも、私は身体が弱いので見学だ。病弱お嬢様って結構大変でつまらない。

 私はグラウンドの端っこで一人、ぽつんと座っているだけだ。




「持久走かぁ……」

 パタパタと軽く走るみんなを見つめる。

 ああ、なんか可愛いなぁお前たち。どうですか? BL同好会に参加されません? 新しい自分に出会えますよ?




「柴龍さん、体調は大丈夫?」

「ぁ、はい、美弥子先生大丈夫ですわ」

 一人っきりでいた私を心配してか、体育の先生、美弥子先生が声をかけてくれた。

 美弥子先生はお嬢様として育ったけど、お嬢様らしくなく、至って普通に話す、この学校では少数派に入る人間だ。

 だけど、その明るくフレンドリーな性格と、みんなに分け隔てなく接してくれる美弥子先生は校内でも1、2を争う人気者である。

 美弥子先生は私の隣のベンチに座った。




「みんなと一緒に体育出来ないのは寂しいよね」

「ですが、皆さんが楽しそうにしている姿を見るだけで、こちらも楽しくなりますわ」

 ぁ、ちょっと変態っぽく聞こえたかも。違うんだよ。私はロリコンじゃないんだよ。

 だが、美弥子先生は特に気にした様子もなく会話を進めてくれた。




「せめて、軽い運動位はさせてあげたらいいんだけど……。芽衣香ちゃんのお父さんが、運動は危ないって言ってるから……」

「やっぱり、少しは運動した方がいいですか?」

「小さな頃にあんまり運動していないと、身体が弱くなっちゃうからね」

 そっかぁ。なんとか私も運動させてもらえるようお父様を懐柔しよう。










「まぁ、見て下さい芽衣香様」

 放課後、帰る支度をしていたら、窓際にいたクラスメートが話しかけてきた。



「凄い人だかりが出来てますわ」

 その言葉に釣られて外を見る。

 彼女の言うとおり、何故か校門前に女子の人だかりが出来ていた。特に高学年の子が多く見える。



「なんの人だかりでしょう?」

「さぁ……。でも、帰るにはあの場所を通らなくてはいけませんから、行ったら分かりますわ」

 窓の外を覗き込んでいた彼女たちと、野次馬根性で校門に近寄る。そこにはまだきゃいきゃいとハシャいだお嬢様方がいた。



「これじゃあ、見えませんわね」

「ね、残念ですわ」

 流石に先輩のお嬢様方の間を縫っていく訳にもいかない。

 私は迎えに来てくれた運転手の宮本さんを探して、




「いた!! 芽衣香!!」

 この学校ではまず聞こえないだろう男子の声に驚き振り向いた。




「隼人様!?」

 何故か、高学年のお嬢様方にもみくちゃにされていた隼人を発見した。

 彼は自身をもみくちゃにするお姉様方に、勇敢にも『邪魔だブス!!』と年上のお嬢様に罵詈雑言を浴びせながら私に近寄る。

 うわぁ止めろ!! んな悪口言った奴と私が婚約していると知れた日には火炙りにされるわっ!!



 しかし、お嬢様方は『まぁ、お転婆な子なのね』と全く傷付いた様子は無い。良かった、本当に良かった。お嬢様の心はどうやら合金で出来ているようだ。

 私はお嬢様方の包囲網から抜け出した隼人に駆け寄った。




「隼人様、どうしてここに?」「決まってるだろ。お迎えだ」

 胸を張って隼人様は宣言した。



「芽衣香。一緒に来てもらおうか」

「誘拐ですか隼人様。一ノ瀬家の跡取りが、なんと嘆かわしいお姿に……」

「ち、違う!」

「これを隼人様のお父様が知ったらどうなるか……」

「……父上には内緒だぞ!」

 どうやら正人様には内緒で来たらしい。しぃーと隼人様が口に人差し指を当てた。




「今日は、俺について来てもらうからな!」

「ですが、私の運転手の宮本さんが……」

「宮本は、買収したから大丈夫」

 おぃぃ~!! どういう事だそれっ!! 幾らだ。幾らで宮本さんは買収されたんだ。大切な大切なお嬢様を宮本さんは一体幾らで売ったんだ!

 焦る私とギャラリーそっちのけで、隼人は私の手を掴み、一つの黒い高級車に近寄った。そこには、一人の初老に入った男性が。




「お帰りなさいませ芽衣香お嬢様」

 宮本さんだった。

 キラキラの彼の顔を唖然とした顔で見つめていたら、さっさと車に入れられ、さっさと出発してしまった。





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