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「おいテメー!一週間も音沙汰が無いってどういう事だよ!(小声)」

「……」

階段の死角になっている場所から司先輩が現れた!



どうする?

→無視する。



「おいいい!聞けよ芽衣香!(小声)」

「今日の授業で作るパウンドケーキとっても楽しみですよね皆さん!」

「ねー!」

「上手く出来るといいんだけどー」

小声で叫ぶ司先輩を残して、私はさっさと友達と一緒に家庭科室へと足を運んだ。







「で、何ですか先輩。一瞬踏み潰されて壊れた眼鏡の地縛霊かと思ったじゃないですか」

「おい、そこは男子生徒の地縛霊って言えよ」

「え、先輩の半分は眼鏡で出来ているんじゃ……」

「なにそれ!!なにそのバファリンみたいな設定!!」

結局、私は少ない休み時間の間に司先輩に会いにいった。勿論さっきの階段の下にある死角となっている場所である。とりあえず無視した詫びとしてさっきの授業で作ったパウンドケーキをお裾分けした。

全く、本物の三城司なら絶対に立ち寄らない場所で素人の作ったパウンドケーキ頬張りやがって……。せめて高級店スイーツ店のパウンドケーキにしろ!



「で?要件は何ですか先輩」

「要件っていうか、いきなり音沙汰が無くなっちまうもんだから、こう、悶々して」

「そうですか。まるで思春期の乙女のような反応ですね」

「傷付くわぁ……」

うん、だいぶ先輩をからかうのが板に付いてきた私である。



「それがですね……。お灸を据えられてしまって」

「お灸?隼人にか?」

そう、あの隼人に。

散々キスを迫られ、いざまいる!というときに頭突きをしてしまったあの出来れば頭の中から消し去りたいレベルのお灸である。

ついでとばかりに私と隼人の関係が婚約者同士だとバラされて、次の日はみんなから質問攻めとなった。

もうこりごりだ。彼の逆鱗に触れないように気をつけないとと思った私は、とりあえず逆鱗に触れたであろう司先輩とのツーショットを見られないようにしようと考えた。



「だから、なるべく目立たないように生きていこうと思いまして」

「うん、まぁあいつのお仕置きルートは結構鬼畜だからな……」

まるでホラー映画の1シーンを思い出したように、ぶるりと身体を震わせる先輩。え~、私は結構楽しめたけどなぁお仕置きルート。ただしゲームの中だけで。



「そんな事よりも、司先輩の事ですよ」

「俺?なんで?」

パウンドケーキを頬張りながら、先輩が首を傾げる。



「なんでって、先輩が鏡華学院に行きたくないって……」

「そんなの当たり前だろっ!」

「でも、先輩が来ないと司ルートが発動しないじゃないですか!」

「……お前、よく考えてみろ?」

パウンドケーキをペロリと平らげた先輩は、私と向き合う。その真剣な眼差しに思わず姿勢が伸びた。



「確かにこの世界は俺たちの知っているBLゲームに酷似している。だけど、こんな話を聞いたことねぇか?」

「こんな、話って……?」

「それはな……」

先輩は一度言葉を切って、そして言った。




「転生者がいることにより起きる、物語の改ざんだ」

物語の、改ざん……?




訳が分からず首を傾げると、仰々しい振る舞いをしながら司先輩は立ち上がる。両手を広げ、天井を見上げるその姿は、実に中二病くさい。



「物語の末路を知る俺達が、その物語の中では無かった行動をする。すると、それに合わせて物語が修正され、最終的には違う物語となっている、あれだ」

「はぁ……」

「……なんだ、その生返事。お前もそういう本に目を通した事あるだろ?転生モノの話」

「私のお父様が見せてくれませんの」

お嬢様っぽく帰したら、『エセお嬢様も大変ですね』と鼻で笑われた。ムカついたので脛を蹴ってみる。



「ぐおおぉぉ……!!」

「あら、すみません司様」

身悶える司先輩ににっこりと笑うと、先輩は痛みで顔をしかめつつも話を進め始めた。



「と、とにかくだな。俺達イレギュラーな存在、しかも物語の重要人物となれば、かなりの変動が起こっているはずだ。

現に、お前と一ノ瀬隼人、そして俺、三城司は、金持ちな攻略対象者が来るはずの無い公立中学へ通っている」

「まぁ、そうですけど……」

「つまり、もう物語は本来の軸からズレ始めてるって事だ。小さなズレも、時間が進めば大きなズレとなる。高校時代にゃ、起こる筈のイベントが起きなかったり、攻略対象者がいなくなっていたり……、神月玲が鏡華学院に来ることだって怪しいな」

「そんなっ!!」

やっと事態の深刻さに気付いた私は思わず声を荒げた。慌てる私に、まるで自分の計画が上手くいった時の悪役のように笑う先輩が追い討ちをかける。先輩は脛の痛みにより踞りつつ、私を見上げた。



「今から何したって無駄だぜ。もう物語は勝手に動き始めた!何をしたって無駄なこと!」

「でも、でも先輩だって知っているでしょう!?玲君が夢を叶える為にどれだけ頑張っているのか……!!」

「だから何だ!?だいたい、あの学院に行きBLという茨の道を歩くのがそんなに良いことか!?」

グッ……、と息を詰める私に、先輩は思惑通りの反応だったのか高笑いをし始める。



「世の中では未だにそっちへの目は厳しい。そんな茨の道に飛び込んで、例え夢を叶えたとしても、神月玲は後ろ指を指されるだけだ!!」

確かに、そうかもしれない。玲君は辛い選択を迫られるのかも知れない。

だけど、だけど、私は反論する。



「だとしても、あの場所には愛が、玲君を愛する攻略対象者たちの愛が溢れていた!例え誰に何と言われようと、玲君が幸せならそれでいいの!」

「ハッ、ほざけ!!貴様が今から何をしようともう手遅れなのさっ!!」



「……お前ら、なにやってんだ?」

「「っ!?」」

慌てて後ろを振り返る。そこには呆れ顔でこちらを見つめる隼人の姿があった。



「は、隼人様、いつからそこに……」

「お前たちが仰々しく喋り始めた所から。もっと詳しく言えば、『世の中では未だにそっちへの目は厳しい。そんな茨の道に飛び込んで、例え夢を叶えたとしても、神月玲は後ろ指を指されるだけだ!』から」

「ぐおぉ……!!」

恥ずかしい場面を見られてしまった……。私は思わず視線を隼人から外し、先輩は恥ずかしさで身悶える。せ、先輩の中二病に釣られて大変恥ずかしいセリフを言っていた気がする……。



「で、お前たちこんな所でなにやってんだ?」

「え、ええと、その、」

「劇の練習、だ」

司先輩が呟いた。

いきなり何言ってんの!?

そんな、いきなりアドリブ言われても!



「劇……?」

「そうだ。先日図書館で出会った俺達は、本の趣味が合ってな。夏の文化祭か何かでお芝居をしてみないかという事になったんだ」

んな無茶な。たった二人だけで劇をする人がどこにいるんだ。呆れた目で先輩を見つめると、先輩は『っべー、咄嗟といえどこれはやべーぞ』という顔をしていた。だったら言わなきゃいいのに。



「で、なんの芝居やるんだ?」

「「え」」

まさか、食いついただと!?

驚く私たちそっちのけに、ドンドン話は進んでいく。というか、隼人、なんで今日は怒ってないんだ?

思わぬ食い付きに慌てて先輩が話を進める。



「え、え、と、俺は千夜一夜物語にしようかと……」

「千夜一夜物語?」

「有名な海外文学で、妃に浮気された王が毎晩処女を犯し殺していく話で……」

「芽衣香、もうこいつには絶対近付くな」

うん、まだ中学生には早すぎるよ先輩。そしてその後の展開を話さないと先輩。案の定私を庇って先輩から離れる隼人。



「私もそのお話は、その、中学生には早いかと……」

ていうか、最初は司先輩のルートについて喋っていたわけで……、と、ふと閃きが1つ浮かび上がった。

もし今、私のせいで隼人が本来のルートから外れているといるのなら、ゲイになる可能性も失われつつあるということだ。ならば、



「じゃあ、三人で劇をやるのはどうかしら」

「……は?」



ならば、ゲイに目覚める機会を与え、ルートを元の位置に戻せばいいだけのことだっ!!


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