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残念な女の子に巻き込まれる不憫な男の子たちの話(の予定)






 気が付いたら幼女に変身していた場合、どうすればいいのだろうか。



 痛い。

 ガンガンと痛む頭を押さえながら、私は混乱した。

 前世とも言うべき記憶が、一気に頭の中を駆け巡ったのだ。



 それなりにはスクスクと育っていたらしい前世の私。

 スクスクと育って、立派な腐女子になった私。

 17の時に、新しく買ったBLゲーム片手に交通事故に遭ってしまった私。

 他にも、コミケに行って計5キロの戦利品を手に入れた私。

 アニメの男性キャラで勝手にCPカップリングする私。

 その妄想を二次創作として書く私を、みるみるうちに思い出していく。



 ああ、私は転生してしまったのか。それにしても、頭が痛い。

 前世を思い出してしまったからなのか、ズキズキと、まるで殴られているかのような痛みが私を襲う。

 思わず私は頭を押さえてその場にうずくまった。



「まぁ! 芽衣香めいか様が転んで頭をぶつけてしまいましたわ!!」

 どうやら物理的ショックで思い出したらしい。とうとう涙が零れた。









 柴龍しりゅう 芽衣香、というのが、転生した新しい私の名前だった。

 今年やっと6歳になったばかりの、まだ腐っていない純粋に見える女の子。サラサラの黒髪に、整った顔立ち。元気っ子、というよりは、儚く繊細そうで守ってあげたくなるような風貌だ。私は鏡を見ながら自分の容姿を観察した。

 中々と言えば中々だ。街中で、『お、あの子ちょっと可愛いな』と頭の片隅で考える位の、上の下~上の中位。だが、中身は腐女子なので残念な美少女となりそうだ。



 さて、これからどうしようかと、私は自室で首を捻った。

 やけに豪華な自室である。ピンクと白を基調とした、フリフリのレースやリボンがふんだんにあしらわれたお部屋は、正に乙女の部屋を具現化したかのようだった。




 お家、お金持ちでした。




「……お父様の総資産は幾らなんだろう」

 お小遣いとして少しくれないだろうか。そうすれば、BLゲームが一個、二個、三個……。グヘへと勝手に顔がニヤケてしまう。

 いかんいかん。小学校時代から早々にぼっちになる所だ。

 バレないように、バレないように男の花園をゲヘヘヘヘ。

 と、私がお花畑を想像していたら、勢いよく扉が開け放たれた。




「芽衣香!! 頭を打ったというのは本当か!!」

 少しシワが目立つ、だけどそれすらも大人の色気に昇華させてしまう、私のお父様、柴龍 聡介。

 スラッとした長い足でズンズンと部屋に入ってきたお父様は、ベッドの上で『お父様は受けだな』と考えていた私をむぎゅっと抱き締めた。



「あぁ、愛しの芽衣香!! 可愛い可愛い芽衣香のおでこがこんなに赤くなって!! 今すぐ精密検査と入院の手続きをするからね!!」

「……大丈夫です、お父様」

 落ち着かせようとお父様の背中をポンポンと軽く叩けば、ますます私を抱きしめる力は強くなる。ぐぇ、苦しい、苦しいよお父様!!

 だけど、どうしてこのお父様がこんなに過保護なのかには、訳がある。




 私が、彼の妻、紗奈お母様の忘れ形見であるからだ。

 体の弱い彼女は、私を産んですぐに死んでしまったと聞いた。

 それゆえに、彼女を愛していたお父様は私を大事に思うし、過保護になる。

 何より、私の容姿がお母様に似て儚い系なので、ますますお父様は心配になるのだ。

 それが分かっているからこそ、『潰れるわこの忠犬ワンコ系!!』とは怒れないのである。

 散々私を抱き締めたお父様は、ようやく私から離れて涙を拭った。



「そんな事よりお父様、私、今日はお父様のお友達の息子と会うのでしょう? 早く行かないと」

 そう、私が転んでしまったのは、お父様のお友達との顔合わせに遅れないようにと急いでいたせいだ。

 もう予定していた時刻は過ぎている。転んだからといって遅刻は許されるのかと尋ねると、お父様はにっこり微笑んだ。




「大丈夫。お父様のお友達と息子さんにはちゃんと伝えてあるから」

「あの、私、今からでも行っていいですか?」

「駄目だよ芽衣香、安静にしていないと!!」

 あれ、頭をぶつけただけなんだけど、まるで重症者みたいな扱いだぞと私は小首を傾げた。



「私、もう大丈夫ですよ。さぁ行きましょうお父様」

「でも、精密検査が……」

 渋るお父様を放って、私は身なりを整えお父様に右手を差し出した。諦めてくれたのか、私を持ち上げるお父様。あれ? 手を繋いでって意味だったんだけど……。



 お父様はドンドン進んで、豪華な両開きの扉を開けた。私の部屋とは違い、落ち着いたシックな部屋である。

 そして、日当たりの良い所に、お父様と同じくらいの歳だろう男の人と、まだ幼い男の子が座っていた。

 お父様は二人に近寄って、私を男の子の前に降ろす。



 男の子は、こちらが平伏したくなるような綺麗な顔立ちをしていた。

 青みがかった黒髪は、日の光を浴びて天使の輪を作り出している。黒曜石のように綺麗な瞳は少しだけ吊り目で、無表情だからかどことなく冷たい印象を受ける。

 あれ、ていうか、どこかで見たことあるような……? と首を傾げた時、お父様が私に優しく話しかけた。




「芽衣香。この子は、一ノ瀬 隼人君。芽衣香の婚約者だよ」

「こん、やくしゃ……?」

 あれ、何だっけ。何か思い出せそう。ああ、何だっけ~?





「期待してた程じゃないな」

 男の子、隼人がそう言った瞬間、私は何もかもを思い出した。

 いや、正確には、私が死ぬ時これだけは死守せねばと胸に抱いていたゲームの内容を思い出した。




 私が死ぬ時持っていたゲームのタイトルは、『禁断の友情~俺と友達の蜜月~』

 携帯ゲームとして発表され、人気がありすぎてリメイク版のゲームが発売された、私のイチオシBLゲームだ。

 その中にいた。確かにいた。




 この、目の前の男の子、一ノ瀬 隼人は、ゲームの攻略対象者だ。




「これからよろしくお願いします隼人様!!」

 私は、隼人の父親が彼を諫めるより早く、彼の手を握りしめた。




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